もう一度ここからはじめようと、沈丁花の甘い香り広がる母校で互いの想いを確認し合ったヨシタカとツグミだったが、すぐに最初の壁にぶち当たる。それは、衣食住の三つのうち食住≠確保することであった。
人間に認識されない天使は、幽霊と同じように人間界では存在しないものなのだが、天使には食事と睡眠が不可欠だ。何故なら、それがなくなれば存在を維持することができないからだ。天使となっても生まれ変わりを望まぬ者の中には、わざと食事を取らずに己を消滅させる者もいる……ということは、いくら揉み消そうとも揉み消せない、天使の誰もが知っている事実だ。また、天界に来た誰もが必ず学ぶ知識の中に、人間界へと降りた天使の半数以上が食住≠得られずに死を迎えている……というものがある。ヨシタカはそれを学ぶ前に天界を出たが、教師をしていたツグミはしっかりとその事実を知っていた。
「空き屋を間借りしたとしても、ガスと水道が止まってたら料理なんか無理だな」
「お金もないし、姿が見えない以上どうしたって盗むことになるよね……」
昼間、何組かの親子が遊んでいた公園は、日暮れを迎えてすっかり静寂に包まれている。ヨシタカとツグミは、少し前に点いた街灯に照らされたブランコに腰を下ろし、頭を悩ませていた。
「こうなれて、おれが嬉しくないわけないだろ? 何年片思いしてたと思ってるの? ずっと色々想像して……」
その時と同じように美しく微笑んだツグミは、そこまで言うとカァァッと目元と染めてそっぽを向いた。故に、目を見開いて固まっているヨシタカに気づくことなく、焦ったように言葉を続ける。
「そ、それに! さっきのは孝貴が乱暴するからいけないんだっ! ちゃんと優しくしてくれたら…っぁ、ちょっ……」
咥え込んだものの質量が増したことに目を白黒させているうちに、いつの間にか掴まれていた手首をグッと床に押しつけられていた。
「……悪かったな。お望み通り優しくしてやるよ。ただし、お前がちゃんと話すまでイカせてやらないけどな」
「……え? なっ……な、にを……?」
「俺≠ナどんなこと想像してたのか……な」
ニヤリと見下ろす男に、ツグミの耳は真っ赤になっていた。蛇に睨まれた蛙とは少し違うが、己を凝視したまま動かないツグミに嗜虐心を煽られたヨシタカは、片手で彼の両手首を持つと、自由にした右手を傷つけた首筋から肩、胸、腰、腿…と順に滑らせ、先ほどの口付けでだろうか。僅かに頭を擡げはじめていた陰茎をクッと握った。
「孝貴まっ…んっ!」
update : 2013-11-23