今は昔…というほど昔ではない、今日この頃。ある国の小さな村に、アサカ牧場がありました。その名の通り、アサカさんの牧場で、いろいろな動物が暮らしています。
今日の主人公は、子ブタの『ぶたろう』です。さぁ、いったいどんな一日になるんでしょうか?
日が昇って、牧場のみんなが起き出したころのこと。すずめの『すずよ』が一枚の緑の葉っぱをくわえて、ぶたろうのいる小屋にやってきます。
「ぶたろー。ショウヤから手紙ヨ♪」
「ショウヤからぼくに?」
首をかしげるぶたろうの前に、すずよが手紙をおとしました。
「ありがと」
お礼を言って、その中身を見ようと葉っぱを覗きこんだぶたろうに、すずよが笑いながら言います。
「ま〜た面倒なことなんじゃなぁい?」
…おい。また、ってすずよ。今回が初めてでしょ?
「いいの。そういう設定で行こうヨ☆」
勝手に決めるな! それに、『作者』に話しかけられても困るんですけど…?
「も〜…先に話してきたのはそっちじゃないのヨ」
……。
ま…確かにそうですが。
ハァ…この世界での私の立場は、トラブルメーカーに決定だね…。
おっと! いけない。私が悩んでいるうちにぶたろうが手紙を読んだみたい。
それを見て、すずよはパタパタと羽根をはばたかせて、
「じゃ、すずの役目は終わりね! バイバイ、ぶたろー」
と言って、どこかへ飛んでいきました。
残されたぶたろうは、難しい顔で手紙をじっと見つめています。何をこんなに悩んでいるんでしょうか? ちょっと、手紙の中身を見てみましょう。
『謎はどこにある?』
決して、人間には読めない文字で、そう書いてありました。
ぶたろうがしばらく悩んでいると、少し遠くからよく通る声が聞こえてきました。
「ぶたろう! ぶたろう!」
よく見ると、広場をはさんだ向かいの小屋から、白い姿が近づいてきていました。ぶたろうは、手紙を持って小屋から出ると、その声の主に手を振りました。
「おはよ、にわとし」
「おうっ!」
にわとしと呼ばれた彼は、成鳥になったばかりのニワトリです。彼は、トコトコとぶたろうに近寄りながら、にやりと笑いました。
「おめぇ、ショウヤから、またなんか厄介ごとを押し付けられたらしいじゃねーか」
「すずよから聞いたの?」
「あぁ。あいつ、牧場中に言いふらして帰ってったぜ?」
その答えにため息をついたぶたろうでしたが、気を取り直して、にわとしに聞きます。
「ねぇ、にわとし。『謎』ってどこにあるか知ってる?」
「あん?」
「ショウヤが手紙にそう書いて来たんだ。ぼくにはわからないから、みんなに聞いてまわろうかと思ってたんだけど…」
にわとしは、首をかしげて少し悩んだ後、パッと表情を変えて、肩をすくめます。
「おれにはわかんねーなぁ」
「そっか…」
「そもそも、おれは『謎』がなんなのかよく知らねーし…」
ちょ、ちょっと待って? あんた、知らないで考えてたの?
「あん? わりぃか?」
いっ…いや、悪くないよ! だから、そんな今にも突っつきそうな体勢でこっちを見るんじゃないっ! 私はここにはいないはずの存在なんだからっ!
「んだよ…先にケンカ売ってきたのは、そっちじゃねーかっ」
こっちはケンカ売ったつもりはないんだけど…さ。
ぶつぶつ言いながらにわとしは、ぶたろうのほうに向き直ります。
「そういえば、ぼくも『謎』の意味、知らないや」
「おう? じゃ、『ひつじい』のとこに行って聞いてみっか?」
「そだね。行こっか」
2人はうなずきあうと、トコトコとどこかへ歩いて行きました。
ヒツジ小屋にやってきた二人は、丸くなって寝ているあるヒツジに近寄ります。
「ひつじい、ひつじい。起きてよ。聞きたいことがあるんだ」
「ん〜…? なんじゃ、うるさいのぉ」
ぶたろうが体を揺すると、眠そうに目を開けますが…また、閉じてしまいました。それを見てカチンときたにわとし。
「おいっ、ひつじい! 起きろってんだよ!」
「ギャアッ!」
彼の大きな声にびっくりして飛び起きたひつじいは、にわとしを睨みつけて叫びます。
「鼓膜がやぶれるじゃろう! もっと加減せいっ!」
「あんたが起きねぇからわりぃんだろ?」
そっぽをむいて肩をすくめるにわとしに、ひつじいはため息しかでません。
そんな様子を見ながら、ぶたろうが話しかけます。
「ねぇ、ひつじい。『謎』ってどんな意味か知ってる?」
「『謎』の意味じゃと? ちょっと待っておれ。今、調べてやるからの」
ひつじいはそう言うと、近くに置いてあった本をペラペラとめくりはじめました。
「おぉ、あったあった」
彼は、ぶたろうとにわとしを交互に見ながら、本の内容を読み上げます。
「この、例解新国語辞典 第四版(一九九五・三省堂)によるとな、
1.なぞなぞ。
2.ものごとを直接言わないで、それとなく暗示するような、
遠まわしの言いかたをすること。
3.真相や実体がよくわからない、ふしぎなものごと。
…だそうじゃ」
「へ〜」
うなずくにわとしを横目に、ぶたろうが聞きます。
「じゃあ、ひつじい。『謎』がどこにあるかわかる?」
一瞬動きを止めて考えたひつじいは…
「ここ」
と言って、持っている本を指しました。
……あのさ。確かに、そこに『謎』はあるけど…違わない? ねぇ?
私と同じことを思っているのかはわかりませんが、ぶたろうとにわとしは目を点にして、固まっています。
しばらくして。
「……辞書の中ね」
そう言って、どこから取り出したのか、小さなノートにそう書きとめるぶたろうがいました。
…メモるんですかっ! 私が求める答はそんなとこにあって欲しくないんだけど…。
「ありがと、ひつじい。他の人にも聞いてみるね!」
ぶたろうは、明るくそう言って、にわとしと一緒にヒツジ小屋を後にしました。
二人は、牧草のいっぱい生えた広場を歩いています。
少し前の方に、ぴょこぴょこと跳ねる、うさぎの姿が見えました。
「おっ! うさみじゃねーか」
「おはよう、にわとし、ぶたろう」
立ち止まってニッコリ笑う彼女に、二人の顔が少しゆるみます。
「おはよう」
「はよっ! 今日もカワイイな」
「ありがと、にわとし」
ぶたろうは、少し照れながら、うさみに聞きます。
「ねぇ、うさみ。『謎』がどこにあるかしらない?」
「それってすずよが言ってた、ショウヤの厄介ごと?」
「そーそー」
にわとしの答えに、軽くうなずいたうさみは、ぶたろうの問いについて考えます。しかし、その後に帰ってきた答は、ぶたろうにとってちょっと残念なものでした。
「……そんなこと、考えたことないから、ちょっとわからないわ」
「そっか…」
落ち込み気味の彼を励ますようにうさみが明るい声で言います。
「『ひよこ』に聞いてみたら? あの子なら知ってそう」
「げっ…」
『ひよこ』と言う名前に、いやそうな顔をするにわとしでしたが…時すでに遅し。
「わたくしをお呼びですか?」
にわとしの背後に、小さな黄色いヒヨコがいました。
「ひよこ! いいところに」
「ききたいことがある…というようなおはなしがきこえましたが、いったいなんですの?」
すました顔でそういうひよこは、にわとしの方ちらと見ると、大げさにフイッと視線をそらしました。どうやら、おバカなにわとしとは関わりあいになりたくないらしいです。
「バカだとっ!?」
うわあっ! またこっち向いて! やめなさいって!
「はんろんするまでもなく、おバカですわ。さわぐとすごくみっともないですわよ」
おぉっ! ひよこ…あんた、ツワモノ。にわとしに睨まれても少しもひるまないよ。コドモのくせに。
あ、でも、にわとしも睨んではいるけど、どうも苦手意識が強いらしくて、手は出せないみたいね。曲がりなりにも同族だしってこともあるのかな?
「それで、なんですの? お話って」
ひよこは、何事もなかったようにぶたろうに聞きました。
「あのね、『謎』ってどこにあるかわかる?」
「『なぞ』ですか? そんなのそこらじゅうにあるのではないです?」
「えっ!?」
嬉々としてひよこにつめよるぶたろう。ひよこは、ちらりと私を見ます。
…って、何で私を見るんですかっ? す〜ごく、嫌な予感がするんだけど……。
「まずは、なぜ、ひつじいがじしょをもっているか」
ギクッ
「つぎに、なぜ、わたくしたちがこうやって、にそくほこうであるき、ことばがはなせるのか」
ギクギクッ
「つぎに、ショウヤがてがみをだしておいて、どうしてさくしゃ(ショウヤ)がここにいるのか」
ギクギクギクッ
「つぎに…」
わ――っ! やめやめっ! それ以上は突っ込んじゃダメッ!
「……」
……もうっ! ひよこ! この話の根本を突っ込んだら、成り立たないでしょ! ダメだよ…って、何メモってるんだ、ぶたろうっ!
「え? ダメだった?」
ダメだよ! これは、『謎』には入らないからねっ! 書いてあっても、却下するからそのつもりで。
「えー…せっかくひよこが教えてくれたのに…」
とにかく、ダメなものはダメ!
「……はぁい」
ふぅ。あせるあせる。…ちょっとぶたろうがしょんぼりしちゃったけど、許してもらおう。これだけは譲れないからね。
「これいがいの『なぞ』をわたくしはしりませんので、これいじょうはおやくにたてませんわ」
「ありがとね、ひよこ」
お礼をいうぶたろうに、肩をすくめると、ひよこはくるりと背を向ける。
「せいぜいがんばるんですわね。さぁ、『うまや』さまをさがしにいきましょう♪」
あらら。急に態度が変わってますね。あ。『うまや』というのは、この牧場に住むウマで、キザったらしいやろうのことです。
「うまやさまのところなら、あたしも行くわ♪」
あれ? うさみも?
…そう私が思ってるうちに、ひよことうさみは、何事かを話しながら、その場から離れて、馬小屋の方へと歩いていきました。
残されたぶたろうとにわとしの二人は、急にがっくりしてます。
まぁ、あこがれのうさみちゃんが他の男のところへ行っちゃったらそうもなるか。
「そーいう設定にしてるのは、どこのどいつだよ…」
はい、それは私です。
……はっ! しまった! つい正直に答えちゃった。
…二人の視線が痛いですねぇ。
「…にわとし。次、行こう」
「あぁ、そーだな」
無視して行くんですか!
……いっか。ここにはいないことになってたんだし。…うん。
二人は、ちょっと寂しさを感じる私を無視して、次の場所に移動しました。
相変わらず、広場を歩いていた二人は…ウシの群れを発見します。
「そうだ! うしおに聞いてみようよ」
「あいつにぃ? きっとまともな返事じゃねーぜ?」
そんなことを話しながら、目的のうしおの所に行きました。
うしおは、母親のうしえの側で、黙々と草を食べています。
「おはよ、うしお。うしえ母さん」
「おはよう。ぶたろう、にわとし」
「おはようだモー」
モグモグしながら答えるうしおに、ぶたろうが聞きます。
「ねぇ、うしお。『謎』がどこにあるか知らない?」
「『なぞぉ』?」
うしおはゆっくりした動作で首をかしげると、ポンと手を叩きました。
「なぞなぞしよう、なぞなぞ」
ズルッとこけるにわとしを気にせず、うしおはぶたろうに問題を出します。
「パンはパンでも、食べられないパンはなんだモー?」
「……んなの、フライパンに決まってんじゃねーか」
考え込んだぶたろうの横で、にわとしがボソッと言いました。それに、うしおがピタリと動きを止めます。
少しして、何事もなかったように、彼は口を開きます。
「なぞなぞしよう、なぞなぞ」
…あのね、にわとしに当てられちゃって、悔しいからって、答えも言わずに次にいっちゃっうのは、どうかと思うよ、うしお。
私の突っ込みにも答えず、その後も、どんどん問題が続きます。
そのうち、ぶたろうとにわとしは、本来の目的を忘れて、いつのまにかなぞなぞに熱中していました。
いつの間にかお昼をまわっています。そこで、うしえが優しい微笑みを浮かべながら言いました。
「二人とも、なぞなぞばかりしてていいの? 『謎』がどこにあるか探してたんじゃないの?」
それにハッとした二人は、うしおにもう一度聞きました。
「ねぇ、うしお。『謎』はどこにあるか知ってる?」
「だから、なぞなぞにあると思ったんだモー」
「あ、そーいうわけか!」
今度は納得した二人。ぶたろうは、それをメモして、今度はうしえに聞きました。しかし、うしえは首を振ります。
「そういうことは、私には想像もつきませんよ。毎日のんびり暮らしていられればそれでいいですしね」
「……確かにそうだよな」
うんうんとうなずくにわとしを見ながら、ぶたろうが困った顔をします。
「じゃあ、誰に聞いたらわかるのかな?」
その問いには誰も答えられません。…もちろん、私も。だって、答えを知らないからこそ、ぶたろうに探してもらってるんだもん。
その時です。
「何してる。そろそろ小屋に戻れ、うしえ、うしお」
低めのかっこいい声がしました。 そっちを見ると、ドーベルマンの『わんた』が控えめに首をかしげ、ぶたろうたちを見ていました。
「ねぇねぇ、わんた。『謎』がどこにあるか知らない?」
ぶたろうの問いに、一瞬変な顔をしたわんたですが、すぐに顔を引き締め、
「今は仕事中だ。おれには答えられない」
と言いました。それに、毒づくのはにわとしです。
「相変わらずアサカの言うことしか聞かねぇわけか」
「…悪いか?」
しばらく二人は睨みあいますが…先にわんたの方が視線をそらし、背を向けます。
「はやく、小屋に戻れよ。うしえ、うしお」
「わかりました」
うしえとうしおは、その場からゆっくりゆっくり歩き出し、牛舎の方へと向かいます。その様子を見つめていたわんたでしたが、突然、小さな声でポソリとつぶやきます。
「そういうことは、アサカに聞いてみればいいだろう。誰よりも多くのことを知っていると思うが」
そして、一瞬の内に、まだ他に残っているウシを追いに、駈けていきました。
「……そっか。アサカに聞けば早かったんだ」
「そうだな。みんなに聞いてまわるよりも、数段早いぜ」
納得した二人は、急いでアサカの家に向かいました。
「アサカー!」
家の玄関付近で、目的の人物を見つけたぶたろうたちは、走って近寄ります。
「どうしたんだい? ぶたろう、にわとし」
安心できるような微笑みを浮かべる人間の男は、二匹の頭をなでながら聞きました。
「あのね、ショウヤからの手紙で、『謎』はどこにあるって聞かれたんだけど、アサカは知ってる?」
「『謎』がどこにあるか?」
少し首をひねった彼ですが、すぐにニコリと微笑みました。
「あのね、世界にはいろんな『謎』が転がってるよ」
「いろんな『謎』?」
不思議そうに聞く二人に、アサカは続けます。
「どうして草が生えてるのか、とか、どうして空は青いのか。どうして僕たちが生きてるのか。どうやって世界ができたのか…とかね。もっといっぱいあると思うけど…」
そこで言葉を切った彼は、肩をすくめます。
「…何より『謎』だと思うのは、未来の自分かな」
「…未来の自分?」
「そう。未来の自分を想像することは出来ても、決してその通りになるとは限らないだろう? だから僕は、これが一番の『謎』だと思うな」
感心してその場でポケーッとしている二人に、アサカが言います。
「これで、答えになったかな?」
「……うんっ!」
ぶたろうとにわとしは、満面の笑みで、大きくうなずきました。
『謎は、
1.辞書の中
2.なぞなぞ
3.未来
にあるってさ
ぶたろう』
次の日。
私あてに届いた、ぶたろうからの返事には、そう書いてありました。
- end -
2013-11-23
私にしては珍しい、ギャグ調のお話。
テーマは「謎」でした。
これもまた、その当時読んだ漫画に影響された覚えが…。
屑深星夜 2003.9.10完成