A Wood In My Heart 〜心の森〜

>A Wood In My Heart 〜心の森〜


    幕上がる
    かしの木の後ろからオーク出て来る


オーク    『迷い』
       …それは誰もが一度は…いや、誰もがいつも持っている思いだ。
       生きる者全てがその思いに悩まされ、一つ解決したと思えば
       すぐまた新たな『迷い』に捕らわれる……いつもその繰り返しだ。
       ……ここは『迷いの森』と呼ばれるところ。
       …外から中へ行こうとする者は、中へ入ることができずに外へと戻り、
       中から外へ行こうとする者は、外へ出ることができずに
       中へと戻ってしまう……そういう森だから。
       でも、中にはその二つを行き来する人もいる。
       この中と外とを隔てる薄くて厚い…大きくて小さな、森という境界を。
       『迷い』…それは、人によっては何でもないようなものなんだ……。


    オーク、かしの木の後ろに去る


    深い森の中
    ミーファ、かしの木のそばに座り、誰かを待っている

    
ミーファ   遅っせーなー…何やってんだぁ?
       (言葉遣いが荒いのに気づいてため息)
       ……ハルカみたいになれたらいいのに…


    オーク、木の影から登場し、ミーファを見つめる


オーク    ……


    ルーイ、下手から登場


ルーイ    やっほー! あれ? まだミーファだけなの?
ミーファ   ん、そう。


    ビィ、下手から登場


ビィ     うーっす!
ルーイ    あ、ビィだぁ〜!
ビィ     母ちゃんが昼メシ作んの遅くってよ。スマン。あれ…ハルカは?
ミーファ   まだ。たぶん、家の手伝いしてるんじゃないかな?
ビィ     そっか。ハルカんちの母ちゃんの足、まだ治ってないもんな。
ルーイ    あのとき、すっごくビックリしたよね。
ビィ     あぁ、遊んでたらいきなり、うちの母ちゃんがすっごい顔でハルカ呼びに来てよぉ、
       「ハルカのお母さんが階段から足滑らせた!」……だもんな。 
ミーファ   うんうん。後から、骨折したくらいって聞いて安心したよね。
ルーイ    うん!
ビィ     んー…じゃあ、ハルカ来るまで、何かして遊んでっか?
ルーイ    さんせーい!
ミーファ   いいよ。
ビィ     何する?
ルーイ    かくれんぼ!
ビィ     えー(嫌そうな顔をする)
ルーイ    ボクが鬼やるから! ね、いいでしょ? じゃ、いっくよー!
ビ・ミ    (返事をする)
ルーイ    一、二、三……


    ビィ、ミーファ隠れる。(ミーファは下手寄りに隠れること)

    
ルーイ    ・・・七、八、九、十! もーいーかい!
ビ・ミ    もーいーよ!
ルーイ    いっきまーす!! どこかなぁ…?


    ルーイ、探し始めるがなかなかみつからない
    そこにハルカが気づかれないように下手寄り登場


ハルカ    ミーファ、みーっけ!!


    ミーファ、ビィ、ルーイの三人、かくれんぼをやめてハルカを見る


ミーファ   ハっ…
ビ・ミ    ハルカっ!!
ルーイ    ハルカ、やっほ〜!
ハルカ    こんにちは、ルーイ、ミーファ、ビィ。
ビィ     おっせーよ、ハルカ。
ハルカ    ごめんね。ちょっと家の手伝いに時間がかかっちゃったの。
ミーファ   やっぱりそうだったんだね。
ハルカ    やっぱりって?
ビィ     さっきハルカおせぇなって話になってよ、多分家の手伝いしてんだろうって言ってたんだ。
ルーイ    うん!
ハルカ    そうなんだ。


    オーク、四人の様子を見ている
    枯れたかしの葉が何枚か上から降ってくる


ミーファ   あ、まただ。
ビィ     このごろ多いよな、枯れた葉っぱ落ちてくんの。
ルーイ    まだ夏なのにね!
ハルカ    お父さんが言ってたんだけどね、最近、このかしの木の長老、
       弱ってきてるらしいわ。
ビィ     ……やっぱり、枯れてきてるってことか?
ハルカ    そう。
ルーイ    え―――っ! 長老枯れちゃうのぉ?
ハルカ    まだ大丈夫よ。ルーイがもうちょっと大きくなるまでは絶対に。
ルーイ    じゃあボク、もうちょっと大きくなるまでに長老が枯れない方法探す!
ハルカ    うん。
ルーイ    それで、長老元気にしてあげるんだ。
ビィ     じゃあルーイ。お前、めっちゃ勉強しねーとな。
ルーイ    え……べんきょお?
ビィ     んじゃなきゃ長老が枯れねー方法なんて探せねーぞ。
ルーイ    …勉強嫌いだけど…がんばる!
ミーファ   えらいっ! ルーイ。
ハルカ    そうね。
ビィ     まっ、がんばれよ。


    四人、笑いあう


ハルカ    それじゃあ…今日は何する?
ミーファ   は――い!
ハルカ    何?ミーファ。
ミーファ   果実取りがいいな。
ルーイ    え―――……
ミーファ   (ルーイの言葉に反応する)
ビィ     どうせミーファが頼まれたやつなんだろ?
ルーイ    お母さんに果実とってこいって。
ミーファ   ……バレたか。
ビィ     わからないわけねーだろーが! なあ?
ハ・ル    (返事する)
ビィ     お前さぁ……この前もそう言ってオレ達に手伝わせただろ。
ミーファ   いーじゃない。皆にもあげたんだし。
ビィ     サクランボ一個ずつがか?
ハルカ    夏みかん十個にスイカ二つ、パイナップル三つにバナナ一房…
       …他にもあったわよね? ミーファ。
ルーイ    ミーファ、それぜーんぶ自分のにして、ボク達にはサクランボ
       一個ずつしかくれなかったでしょ?
ミーファ   うっ……
ビィ     まぁ、あの運びっぷりには感動!! を通りこして呆れたけどよ。
ハ・ル    うんうん。
ビィ     ってことで、
ハルカ    ごめんね、ミーファ。
ミーファ   はぁ―――い……。
ハルカ    他に…何かある?
ビィ     ……ないことは、ないんだけどよ……
ミ・ル    何?
ハルカ    言ってみてよ、ビィ。
ビィ     ……んとさ、オレ、「外」に行ってみてーんだ。
ルーイ    「外」?
ビィ     そう。森の「外」だよ。前にハルカのばーちゃんから「外」の話を聞いてからさ、
       ずっとあこがれてたんだ。遠くまで見渡せる広い草原。
       たくさん珍しいもんが売ってる町に……
ハルカ    年に一度のにぎやかで楽しいお祭り!
ビィ     そーそー!
ハルカ    真っ青な海も見えるし、旅の芸人さんが来て、歌と踊りを見せてくれるのよね。
ビィ     それに、うまい食いもんがいっぱいあるんだぜ!
       ……ばーちゃんが死んじまって、「外」の話を聞くこともなくなっちまったけど、
       オレ、ずっと行ってみてーと思ってたんだ。
ハルカ    私も。「外」の話をするおばあちゃん、すごく楽しそうな顔だったから、
       一体どんな所なんだろうって思ってたわ。
ミーファ   でも、ハルカのおばーちゃんが死んじゃって、「外」へ行ける人は
       ハンスさんだけになっちゃったんだよ。
       他の人がどんなに試しても「外」へは行けなかったのに、あたし達に行けるの?
ビィ     やってみなきゃわかんねーだろ?
       オレ達は、まだ一度も試した事ねーんだし。
ハルカ    ミーファは「外」に行きたくない?
ミーファ   もちろん行きたいよ!
ルーイ    ボクもっ!!
ビィ     よっしゃ! 決まりだな。
ハルカ    えぇ。


    四人で視線を交わす


ハルカ    「外」へ……
四人     行こう!!


    話しながらハルカ、ビィ、ミーファ、上手に退場
    舞台暗くなる


    舞台明るくなる(同じく森の中)
    オークは先ほどとは違う場所にいる(枝に座っている)
    四人、下手から出て来る


ビィ     …っかしーよなぁ………
ハルカ    確かに「外」に向かったはずなのに、何で村の入口に出ちゃったのかしら?
ミーファ   やっぱり…『迷い』の森だから……?
ルーイ    ………
ビィ     でもよ、ハンスさんは「外」に行けるんだぜ?
       誰も「外」に行けねーならどーしよーもねーけど、一人でも行ける人がいるんだぜ。
       オレ達だって行けてもおかしくねーだろ?
ミーファ   あたしもそう思うけどさ…
ルーイ    どうしたら「外」へ行けるのかなぁ?
オーク    その方法、教えてあげようか?


    オーク、そのままの格好で話す
    声を聞いて四人、動きを止め、周りを見回す
    しかし、オークを見つけられない(見えない)


ミーファ   なに? 今の声。
ビィ     知らねーよ!
ルーイ    ハルカぁ……
ハルカ    ………


    ルーイ、ハルカの後ろに隠れる


オーク    あぁ、ごめんごめん。怖がらせちゃったね。


    オーク、音を立てて、木(枝)から下に降りる
    四人、オークに気づく
    同時に枯れたかしの葉が何枚か落ちてくる


オーク    はじめまして、ハルカ、ビィ、ミーファ、ルーイ。
       僕はオーク。どうぞよろしく。
四人     よ…よろしく……
ビィ     あんた…何でオレ達の事知ってんだ?
ミーファ   一体どこから来たの!?
オーク    (ビィ、ミーファ、それぞれに答える感じで)
       いつもキミ達を見てたから、すぐ近くから、だよ。
四人     ?
オーク    (話題を変える感じで)それより「外」に行きたいんだね。
ハ・ビ    (うなずく)
ミーファ   (ぎこちなくうなずく)
ルーイ    (下を向く)
オーク    どうしたら行けるか、教えてあげようか?
ビィ     本当か!?
オーク    本当だよ。
ハルカ    教えてください。どうしたら「外」に行けるんですか?
オーク    キミ達の心に『迷い』がなくなったら「外」に行けるよ。
四人     『迷い』…?
オーク    (うなずく)探してみるんだ。自分の心にある『迷い』を。
       そして、それと向き合って…乗り越えるんだ。
       キミ達にその勇気があるなら、僕がそれを手伝ってあげるよ。
       どうだい? キミ達は『迷い』に立ち向かう勇気があるかい?
ビィ     もちろん。
ミーファ   「外」に行くには避けて通れないモノなんでしょ? なら、やってみる。
ルーイ    うん。勇気があるかはわかんないけど、ボクも「外」に行きたいもん。やるよ!
ハルカ    私もよ。
オーク    わかった。今の言葉、忘れてはいけないよ。
       じゃあ、ビィとルーイ。
ビ・ル    何だ?(何?)
オーク    キミ達はサンドの滝へ行っておいで。
       さすがに僕1人で、四人のお手伝いをするのは大変だからね。
       そこに、僕の代わりに手伝ってくれる「心」がいるから、行っておいで。
ビィ     OK! んじゃ、行くぜ、ルーイ。
ルーイ    うん!


    ビィ、ルーイ、下手へ退場する
    ハルカ、ミーファ、それを見ている


オーク    じゃあ、こっちも始めようか。


    ミーファ、ハルカ、うなずく
    舞台暗くなる


    舞台明るくなる
    場面はサンドの滝
    ビィとルーイ、何かを話しながら下手より登場


ビィ     ははは……
ルーイ    も〜、笑いごとじゃないよぉ…
ビィ     スマンスマン…。そーいやぁ、お前、この間やった肝試しも
       ギャーギャーわめいて、しまいにゃあ泣いてたよな。
ルーイ    だって……怖かったんだもん。
ビィ     あのなぁ〜…オバケなんていねーって思っちまやぁ、全然怖くねーじゃねーか。
ルーイ    いないものがいるから怖いんだよぉ。
ビィ     (ため息)ルーイ。男ってもんはなぁ、弱いもんを守るために
       たとえ何であっても恐れちゃあいけねーんだ。
       そんなんじゃお前、一人前の男にゃ、なれんぞ?
ルーイ    じゃあ、ビィは怖いものないの?
ビィ     も、もちろん。あるわけねーだろ!!


    少しあせった調子のビィ
    ルーイはそれを聞いた後、舞台前方で何かを見つける


ルーイ    あっ!!(そこにかけより、じっと座る)
ビィ     あん? どうしたんだ、ルーイ。(ルーイに近寄る)
ルーイ    ミミズさん、みーっけ!!
       おうちで待ってる小鳥さんに持っていってあーげよっ!
ビィ     !?(二、三歩退いて固まる)
ルーイ    ビィ、ねぇ、見て見て〜! ミミズさん、かわいーでしょ?


    ルーイ、ビィにミミズを近づける


ビィ     ―――っ!!!(声にならない叫び)


    とたん、ビィの体の力が抜ける(気を失う)


ルーイ    ビィっ!? ねー、どーしたの?


    ビィを揺さぶるルーイ
    その時、音楽が鳴る
    「心」上手より登場


心      はっあーい! みんな元気、し・て・る・か――い!?
       アタシは……
ビィ     うぎゃあぁぁ――――――――――っ!!!


    音楽消える(心の言葉をビィの絶叫が遮る)
    ビィ、覚醒後、ルーイからずりずりと遠のく(腰が抜けている)


ルーイ    ビィ? どーしたの?
ビィ     はっ、は…早く捨てろ!! 捨ててくれ!
ルーイ    …? ミミズさんのこと?
ビィ     そーだよ! いーから早くしろっ!


    ルーイ、名残惜しそうにミミズを地面に捨てる


ビィ     (ため息)…助かった……
心      ……ちょっとあんた!! このアタシの華麗なる登場シーンをよくも邪魔してくれたわねっ!?


    「心」、ビィに迫っていき、胸ぐらをつかむ)


ビィ     んなっ…なんなんだよ、あんた。
心      あんた!?
ルーイ    おばちゃん、ビィいじめちゃだめぇー!!
心      おばちゃんっ!?
ビィ     一体…何者なんだ? んな格好してよ!
心      何者!?
       ホーッホッホッ……何者って聞かれちゃあ答えないわけにはいかないわね。
       よーくその耳の穴かっぽじって聞きなさいよ〜?
       アタシは「心」よっ!!
ビ・ル     …はぁっ?
心      「心」よ!
ルーイ    「心」って…オークが言ってた?
心      そうよ。
ビィ     ……ホントか?
心      ホントよ!!
ビィ     いや、嘘だな。


    「心」こける


ビィ     こんなやつが「心」のはずねぇ。
心      失礼ねぇ…。この真っ黒ーい毛並みにピンとした耳。
       するりと伸びた手足に、きれーな尻尾。パッチリお目めにおーきなお口。
       こんなアタシのどこが「心」じゃないのよ!
ルーイ    うーんとぉ……全部ぅ?
心      ……あのねぇ…アタシは黒豹なの!
       「心」ってのは、ただ、オークに言われたからそう名乗ってるだけで、
       その言葉のイメージだけでこのアタシを見ないでくれる?
ビィ     黒豹?
ルーイ    ……あー!!
ビ・ル    見えないことはないな(ないね)。
心      ……あんた達、アタシにケンカ売ってんの?
ビィ     んなつもりはねーよな、ルーイ。
ルーイ    うん。
心      …まぁ、いいわ。本題に入りましょうか。
       あんた達、自分が何に迷ってるかわかる?
       悩みとかでもいいけど…


    無言で顔を見合わせる二人


心      あんた達の悩みは、自分一人で何とかできるものなの?
       できないんならいい機会だから、ここで言っちゃいなさいよ。
       『迷い』が晴れないと……「外」に出られないし。


    まだ無言の二人


心      男がうじうじするなっ!! 「外」へ行きたいんでしょ?
二人     (うなずく)
心      じゃ、言いなさい。
ビィ     ……オレ、さっき見てわかっちまったと思うけど…ミミズ嫌いなんだ。
       ミミズっていうか、ヌメヌメ、ツルツルしたもんが嫌いなんだけどよ、原因は……アレだ。
       うち、木こりやってっから、切ってきた木に虫の幼虫とかよくついてくんだけどよ、
       何年か前に、オレ……それ素足で踏んづけちまったのよ。
ルーイ    うわっ……
心      素足はキツイわね。
ビィ     それ以来、そういうもんダメでさ。ミミズって…特にダメなんだ。
       どっちが頭でどっちが尻尾かわかんねーし、ニョロニョロ、クネクネ、
       ヌメヌメしてて……うわっ、考えただけで寒気が……
ルーイ    ミミズさん…かわいーのに?
ビィ     そう思えるお前がうらやましーよ。
       オレさ、父ちゃんみたいになんのが夢なんだ。
       豪快で、強くて、かっこよくて、怖いものは何もない! って態度の父ちゃんに。
       でも、ミミズ嫌いじゃ、父ちゃんみたいになれねーだろ?
       だから、頑張ってミミズ嫌いを克服しよーとしてんだけどよぉ……ダメなんだ。
       いまだにあの状況。すぐ失神しちまう。
       ……どーしたらいーんだろうって…悩んでたんだ。


    ルーイ、ビィを見て、しばらく考える
    その後、決意した瞳で話し始める


ルーイ    ボクね……ボク、まだおねしょが直らないんだ。
ビィ     …えぇっ!? まだなのか!?
ルーイ    ぶぅ――――――(頬を膨らませてビィをにらむ)
ビィ     ス、スマン…。
ルーイ    んとね、ボク、ミミズとか怖くないんだけど、
       オバケとか暗いとことか、よくわかんないのがすっごく怖いの。
       それでね、夜にトイレに行きたくなっても行けなくって…
       …お父さん達についてって、って頼むときもあるんだけどね、
       毎日毎日起こしちゃうのも悪いし…
       …それにね、今、ボク…お父さん達と違うお部屋で寝てるの。
       だから怖くて外に行くことができなくて…気がついたらおねしょしちゃってるんだ。
       お母さんはそのこと全然怒らないんだけど…ボクね、
       そんなお母さんを見てるのがなんか辛いんだ。
       いつも、いいのよってボクに微笑んでくれるお母さん見るのが苦しいの。
       だからね、おねしょ直して、お母さんに迷惑をかけないようにしようと思って、
       今がんばってるんだけどね……直らないの。ねぇ、どうしたらいいのかなぁ?


    「心」二人の様子を見て微笑む


心      二人とも頑張ってるんじゃない。
ビィ     でも、成果はないぜ?
心      そんなにあせることじゃないでしょ。
ルーイ    あせることだよぉ!
心      確かに、成果は上がってないかもしれないけど、
       それは必ずあんた達のためになってると思うわ。
       そんなに悩み過ぎないで少しずつやっていけばいいのよ。ルーイの方は特にそうね。
       小さな頃は、ほとんどみーんな暗闇が怖いの。
       でも、大人になるにつれて大丈夫になってくるのよ。ね、ビィ。
ビィ     ……確か、オレもそうだったよ。
ルーイ    ホント? ビィ。
ビィ     あぁ。
心      何かを克服するのは根気のいることよ。
       丁度二人ともそうなんだし、どっちが早く克服できるか競争してみたら?
       そうしたら、今まで以上にやる気が起こるかもしれないわよ?
ビィ     ……やるか? ルーイ。
ルーイ    やる? ビィ。
ビィ     …確かに、その方がやる気起こるな。
ルーイ    ビィって負けず嫌いだもんねっ!
ビィ     お前だってなかなかのもんだろーが。


    ビィ、ルーイ、顔を見合わせる


ビ・ル    やるか!(やろっか!)
ビィ     先に諦めたら、そこで負けだからな。
ルーイ    うん! 負けないよ!
       ボク、絶対ビィより早くおねしょ直すもんっ!
ビィ     オレだって、お前より早くミミズ嫌いを克服してやる!
       忘れんなよ、今の言葉。男と男の約束だからな。
ルーイ    約束!


    二人、「頑張るもんね」などど話している
    「心」くすりと笑う


心      よーし。アタシの役目はおしまいみたいね。
       二人ともオークの所に帰っていいわよ。
       早く「外」に行きたいんでしょ?
ルーイ    あ、そうだった!
ビィ     いくぞ、ルーイ!
ルーイ    うんっ!
ビィ     あんがとな、黒豹!


    ルーイ、ビィ、『迷い』を探し終わり元の場所へ戻るために下手へ去る
    舞台暗くなる


    舞台明るくなる
    場面はかしの木のある森
    ハルカ、ミーファ、オークはビィたちと別れたシーンと同じ場所にいる


オーク    じゃあ、こっちも始めようか。
ハ・ミ    (うなずく)
オーク    まずはミーファから。キミは、自分が何に迷ってるか知ってる?
ミーファ   知らない。
オーク    うーん…『迷い』って言うからわからないのかな。
       悩みでもいいんだ。「外」に出られないということは、
       絶対に何か『迷い』を持っているはずだ。探して言うんだ。
       言わなければ「外」へは出られない。
ハルカ    (ミーファの悩んでいる表情を見て)
       絶対に言わなければいけないんですか?
オーク    自分の中で解決できるものなら必要はないよ。
       でも、ミーファの『迷い』…いや、悩みは、言わなければ解決しないだろう。
ミーファ   知ってるの!?
オーク    え? ……そうじゃないかな…と思っただけなんだけど?
       「知ってる」って僕に聞いたからには、ミーファはわかってるわけだよね。
       自分の心の『迷い』が。
       ほら、ミーファ、言ってごらん。


    (間)


ミーファ   ……嫌い…なの。
ハルカ    えっ?
ミーファ   あたし、自分が嫌いっ!!
ハルカ    ミーファ。
ミーファ   上に兄ちゃんが二人いるからだと思うけど、言葉遣いが悪いから、
       ふと言った言葉で誰かを傷つけてたりするし…短気だし、
       ビィとケンカばっかして、ハルカたち困らせるし……他にもいっぱいあるよ。
オーク    いつから自分が嫌いだったんだい?
ミーファ   五、六年前から…
オーク    …なぜ?
ミーファ   ……その頃からかな。うちの母さんがこう言い出したんだ。
       ハルカみたいな子だったらよかったのにって。
ハルカ    嘘……
ミーファ   …一つ上のだけなのに、ハルカちゃんはどうしてあんなにしっかりしてるんだろう。
       あんたも見習いなさいって…
ハルカ    ミーファ…
ミーファ   ハルカのせいじゃないよ。
       でも、母さんがそう言うせいで、自分はよくないんだって思うようになったんだ…
       …自分に誇れるところがないってのもあるけど。
       ハルカのことすごく好きだし、ハルカみたいになれたらいいって尊敬もしてるよ。
       でも…ちょっと、羨ましかった。
ハルカ    私は尊敬されるような性格じゃないわ。
ミーファ   そんなことないよ。ハルカはいつもしっかりしてて、
       何でもよく見てて、すごく頼れるもん。
ハルカ    私はミーファの性格が羨ましい。何でも言えるその性格が…
ミーファ   よくないよ! 人を傷つけちゃうことが多いのに…
ハルカ    それでも! それでも…何も言えないよりいいよ。
ミーファ   ハルカだって何でも言ってるじゃない。
ハルカ    言ってても、それはミーファたちの意見を聞いた後のことよ。
       とにかく、私はミーファの性格、好きよ。
       でも…そんなに自分が嫌いって言うんだったら、少しずつ直していけばいいのよ。
       私も…頑張るから、ね。
ミーファ   ハルカ……
ハルカ    そうでしょ? ミーファ。
ミーファ   …うん……うん!
オーク    『迷い』は晴れた?
ミーファ   全部とは言えないけど…大丈夫だと思う。
オーク    それならよかった。きっと「外」に行けるよ。
ミーファ   ……絶対、行けるでしょ?
オーク    …そうだね。


    オーク、笑う。


オーク    じゃあ、次は……ハルカ、行こうか。
ハルカ    はい。


    ハルカがうなずいた時、ビィとルーイが下手から入ってくる。


ルーイ    ハルカー、ミーファぁー!!
ミーファ   あ、おかえり!
ハルカ    どうだった?
ビィ     ばっちり…だよな、ルーイ。
ルーイ    うん!
ビィ     そっちは?
ミーファ   まだあたししか終わってないよ。今からハルカなの。
ビィ     そーなのか。
オーク    もう少し待っていてくれるかい?
       四人で「外」に行きたいんだろう?
ビ・ル・ミ  うん。
オーク    じゃあ、始めようか。
ハルカ    はい。
オーク    ハルカ。キミは自分が何に迷ってるか分かるかい?
ハルカ    …(間)…わからないわ。
オーク    ハルカも「外」へ行きたいと思ってるんだよね。
ハルカ    はい。
オーク    じゃあ…少し考え方を変えて『迷い』を探してみようか。
ハルカ    えっ?
オーク    キミの「外」へ行きたいと思う心を邪魔するものを探してみてくれるかい?
       僕はきっとそれがキミの『迷い』だと思うんだ。


    目を閉じて考えるハルカ


オーク    ゆっくり…ゆっくり自分の心を探るんだ。
       たくさんある思い中で、どれが邪魔してるか分かるのは自分だけだよ。
       きっとどこかに隠れている……注意してみるんだ。
ハルカ    ……
ミーファ   ハルカ……
ビィ     ……
ルーイ    ……大丈夫、かなぁ?
ビィ     ハルカなら大丈夫さ。
ルーイ    …そうだよね。


    ハルカ、ハッとしたように目を開ける


オーク    …見つかった?
ハルカ    ……えぇ。
オーク    言える?
ハルカ    (うなずく)私は……
オーク    キミは…?
ハルカ    私は…自分が怖い……不安なんだわ。
オーク    一体、何が不安なんだい?
ハルカ    「外」に行って…ここへ戻って来なくなるかもしれない自分が。
ミーファ   ハルカ!?
ビィ     お前、何言ってんだ!?
ルーイ    そんなのハルカらしくないよぉ……。
ハルカ    ……これが私よ…。いつもずっとドキドキして、不安だった。
       みんなにはお姉さんぶってて見せた事なかっただけよ。
ビィ     ……そんなん嘘だろ?
ハルカ    (被るように)嘘じゃない……ホントよ。
ルーイ    ハルカ……。
ハルカ    ……私ね、みんなに黙ってた事があるの。
ミーファ   ……何?
ハルカ    お母さんの足…骨折してて、まだ治らないってずっと言ってたでしょ?
ビィ     ああ。
ハルカ    あれ…ね、本当は……


    (間)


ビィ     …まさか……?
ミーファ   …まさか……!? ハルカ!!
ハルカ    (うなずく)もう…治らないの。
ルーイ    …うそ……
ビィ     ……嘘、だよな? ハルカ。
ハルカ    ホント。黙っててもしかたなかったんだけどね、なんとなく……


    (間)


オーク    …言ってしまうと本当に治らない、と認めてしまうからだね。
ハルカ    (うなずく)…お母さんの足は治るんだって信じたかったの。
       言っちゃったらその治るかもしれないっていう思い、潰しちゃう気がして……。
オーク    でも……気がついた。
ハルカ    もう一ヶ月になるけど、お母さんの足は、やっぱり動かないの。
       ……少しも。
ビ・ミ・ル  …ハルカ……。
ハルカ    下半身不随って言うんだって。足滑らして背中をぶつけただけで、
       こんなことになるなんて思ってもみなかった。
ルーイ    ……ねぇ。ボク達のお母さん達も、その事知ってるの?
ハルカ    ……うん。
ミーファ   …母さん達の前でハルカのお母さんの足の話をすると暗い顔するから、
       なんなんだろう? って思ってたら……そういうわけだったの?
ビィ     知らないのはオレ達だけなのか?
ハルカ    お父さんに頼んだの。三人には知らせないでって。
       ……心配させたくなかったし……
ミーファ   心配くらいさせてよっ!
ビィ     なんだよ、オレ達だけのけ者でさ。……友達…なんだろ?
ミーファ   年はハルカのが上だけど、そんなことでお姉さんぶらなくてもいいじゃない。
ルーイ    ボクじゃ頼りないけど…ないけどさ、話、聞くくらいならできるよぉ!
ミーファ   一人でそんな辛い思いしないで、話してよぉ…ハルカ……
ハルカ    いつか…いつか絶対話そうって思ってたの……ゴメン、みんな。
       ゴメンね…ゴメンね……ありがと…


    四人、泣きつつも笑い合う


ルーイ    あ、ボク、ハルカのお家に手伝いに行く!
ハルカ    えっ?
ルーイ    そうすればハルカ、もっと早く一緒に遊べるでしょ?
ハルカ    ルーイ…
ビィ     オレだって行くぜ?
ハルカ    ビィ?
ビィ     ハルカいねーと、やっぱ始まんねーし。
ミーファ   それなら、みんなで行ってお手伝いすれば早くない? 
       ハルカの家で手伝って、それからみんなで遊びに行くってのはどう?
ハルカ    …うれしいけど…私の家の手伝いする前に、
       自分の家でお母さんのお手伝いしなきゃダメよ、三人とも。
ビィ     うっ…それ言われると辛れぇなぁ……
ミーファ   …そうだね……
ルーイ    ボク、ちょこっとだけど毎日お手伝いしてるよ!
ビィ     おっ? 何やってんだ? ルーイ。
ルーイ    お皿ならべ!!
ハルカ    えらいわね、ルーイ。
ミーファ   ……あたしも見習わなきゃいけないかな?
ビィ     お前はあんだけ果実取ってりゃ、今んとこ言うことねーんじゃねーのか?
ルーイ    ミーファ、こーんな格好で家に帰ってたよね、ハルカ。
ハルカ    (微笑んで)そうそう。
ミーファ   あっ、こら!ルーイ!やめなさいっ!!


    ミーファ、変な歩き方をしているルーイを追いかける
    ルーイ、(途中からは)走って逃げ回る
    ハルカ、ビィ、オーク、それを見て笑っている

    
オーク    ハルカ…もう大丈夫みたいだね。
ハルカ    えぇ!
オーク    よかった。でも、もし自分が絶えられなくなりそうだったら、
       お父さんでも誰でも誰でもいいから、その事を全部話すといい。
       きっと何とかしてくれるよ。
       「外」へ行くのだって息抜きだと思えばいいよ。
ハルカ    息抜き。
オーク    そう。何にでも息抜きは必要だよ。
       ずっと閉じ込められてたら自分が壊れてしまう…。
       それに…ハルカには、頼りになる友達もいるだろう?
       だから大丈夫だよ。安心していいんだ。


    ハルカ、自分を見つめる三人を見る
    そして、微笑む


ハルカ    …うん!
オーク    じゃあみんな。それぞれ自分が見つけた『迷い』を僕に教えて。
       ビィから順番に。
ビィ     あっ、あぁ。……ミーファ、笑うなよ。
ミーファ   えっ?
ビィ     オレの夢は父ちゃんみたいな男になることだ。
       それには怖いものなんてあっちゃいけねぇ。
       でも…オレは、ミミズが嫌いだ。
       克服するためにいろいろやったけど、何にも成果は出てない。
       だから悩んでた。どうしたらいいんだろうって。


    ミーファ、こらえつつ笑っている
    ビィ、それを見て


ビィ     笑うなっつてんだろ!?
オーク    次はルーイ。
ルーイ    ボクは…ボクはね、まだおねしょが直ってなくてね、
       でも、いつもいつもお母さん、それを許してくれるの。
       そんなお母さんを見てると、ボク、苦しくなっちゃって…
       だから、おねしょを直そう! って思ったんだ。
       でもね、ボク、暗いとこが怖くて、一人でトイレにも行けないの。
       だから、おねしょが全然直らなくて困ってたんだ。
オーク    二人の『迷い』…悩みは、晴れたかい?
ビィ     あぁ。
ルーイ    うん。
ビィ     これから少しずつ頑張ってくぜ。な、ルーイ。
ルーイ    ね、ビィ。
オーク    次はミーファ。
ミーファ   あたしは…自分が嫌だった。ずっとハルカみたいになりたいって思ってた。
       …羨ましかったんだ、母さんに誉めてもらえるハルカが。
       でも、ハルカにあたしが羨ましいって言ってもらえて…うれしかった。
       自分の性格は少しずつ直していけばいいし、
       あたしはハルカにはなれないってわかったもん。もう大丈夫。
オーク    最後は…
ハルカ    私ね。
オーク    (うなずく)
ハルカ    私は…もしかしたら、ここへ戻って来なくなるかもしれない自分に不安で、
       「外」に行きたいのに行きたくないって思ってたみたい。
       でも、私、「外」に行っても絶対に戻ってくるわ。
       だって、ここには、大好きなみんなと、お父さん、お母さんがいるから。
オーク    みんなの『迷い』は晴れたみたいだね。
四人     (それぞれ肯定の返事をする)
オーク    じゃあ、今回だけの特別サービス。
       このまま「外」に行かせてあげるよ。
四人     えっ?
オーク    道は・・・すでに、開かれていたんだ。


    オーク、パチンと指を鳴らす
    同時に森が開ける(木や草、大道具を片付ける)
    「外」は夕方
    四人、それを見て「感動!」の表情になる
    そのままストップモーション(少し明かりを落とす)
    「心」登場し、オーク、「心」にスポットがあたる


オーク    あの子達……気づいたかな?
心      何にですか?
オーク    自分達が「外」に行けなかったのは、自分の「心」の『迷い』のせいだと言う事に。
心      それは…きっと大丈夫でしょう。
オーク    それなら安心して休めるのだけどね。
心      …オーク様……
オーク    伝えてくれるといいね。
心      はい。…伝えてくれるといいですね。
オーク    道は常に開かれている事を…
       …行くも行かぬも自分の心次第だと言う事を……


    (間)
    二人、どこか遠くを見つめている


心      行きましょう、オーク様。
       あまり本体を離れていらっしゃると、お体に障ります。
オーク    …あぁ……
      (遠くを見つめて)頼んだよ、ビィ、ミーファ、ルーイ、ハルカ……。


    二人、上手へ出て行く(スポット消す)
    ストップモーション終わり(明かりを元に戻す)


ハルカ    これが「外」……
ミーファ   夕焼けがこんなにキレイだって……知らなかった。
ビィ     ハルカのばーちゃんが言った通りだぜ!
       草原が広がって、あーんな遠くまで見渡せちまう!
ルーイ    あっ、ねぇねぇ! 向こうに町があるよ!!
ミーファ   ホントだ。


    ミーファ、ルーイ、舞台前方に出ようとする。
    (崖の上から風景を見ている感じ)


ハルカ    危ないっ!! 落ちるわよ!
ビィ     な、行ってみようぜ!
ミ・ル    行く行く―――っ!!!
ハルカ    ……今、夕方だっていうの忘れてない?
ビィ     あっ……
ミーファ   堅いこと言わない言わない!!
ルーイ    行こうよ!
ビィ     すぐ行って、すぐ帰って来ればいーじゃねーか!
ハルカ    ……しょうがないなぁ……
ビィ     よっしゃあっ! 誰が一番早いか競争しよーぜ!!
ミーファ   OK!
ルーイ    いいよ!
ハルカ    (うなずく)
ビィ     んじゃあ、この線からあっちに向かって行くぞ。


    四人で横に並ぶなど、やり取りをする


ビィ     いっくぜ―――……よーい、ドン!!


    ビィ、ミーファ、ルーイ、ダッシュで上手に出て行く
    その時、舞台中央の上から、かしの葉が一枚落ちてくる
    ハルカ、それに気づいて、ふと止まる


ハルカ    かしの葉?


    ハルカ、かしの葉を拾う


ハルカ    ……オーク?
ビィ(声)  おーい、ハルカぁ―――――!!
ミーファ(声)も――…何やってるの――――っ?
ルーイ(声) 早くぅ――――――っ!!
ハルカ    はーい! 今行くぅ―――――!!


    ハルカ、かしの葉を指でくるくると回す


ハルカ    『迷い』は自分の「心」次第で変えられる……。
       『迷い』の森は自分の「心」の森だったのね。
       ……「心」を教えてくれてありがとう。


    ハルカ、かしの葉を床に置く


ハルカ    道はすでに開かれていた……か。
三人(声)  ハルカぁ――――!!
ビィ(声)  もうおいてくぞ―――――っ!!
ハルカ    あっ、待って―――!


    ハルカ、走って上手に出て行く
    夕方からだんだんと夜になっていき、一番星が光る
    (かしの葉にサス)

    幕閉まっていく・・・

- end -

2013-11-23

所属していた演劇部にて使用するために書いた戯曲です。

部員の力も借りてこのような形に落ち着きました。
苦労して作ったため、思い入れは強いです。

B4縦書き2段組みのWord版の入ったzipファイルを用意しましたので、必要がmain1ページからダウンロードしてお使いください。


屑深星夜 2000.4.18仮完成→のち現在の形に