嘘つき ――
―― みんなは僕のことをそう呼ぶ。
だけど、いいんだ。
だって、僕の“嘘”はただ1つの希望なんだから。
僕はフュー。街のみんなにはそう呼ばれてる。
僕は今、たくさんの人が暮らしてる海沿いの街、シエイラに住んでる。毎日朝には市場ができて、新鮮な魚はもちろん、野菜とかいろんな食べ物が並ぶんだ。ここに住んでる人はみんなここで食料を手に入れて暮らしてる。
近くの山で採れる特別な土も有名かな。その土から作った真っ白なレンガで造った町並みはとってもきれい。僕が1番好きなのは、晴れの日の夕方。真っ赤な太陽に照らされて、街が赤く染まるんだ。その景色見たさに、たくさんの観光客も来る。だから、街にはいくつもの宿屋があって、おいしい魚介類を出す食べ物屋さんとか…酒場もいっぱいあるんだよ。
シエイラは、朝から晩までとってもにぎやかで、楽しい街なんだ。
でも、普段、みんなが考えないようにしている怖いこともあるの。
潮風にも負けず、いろんな色の花が咲く春になると…毎年、海が街を襲うんだ。大きな波が壁を削り、街のみんなの暮らしを脅かす。
―― いつか、海が街を飲み込んでしまうんじゃないか ――
絶対に口には出さないけど、みんな心のどこかに不安を隠してるんだ。そんなみんなに、僕は毎日言うんだ。
―― 空から七色の翼が降りてきて、海から街を守ってくれるよ ――
だけど、みんな信じてはくれない。僕は嘘なんか言ってないのに…嘘つきって言うんだ。
「わたしゃ、信じるよ」
「リラおばーちゃん」
声が聞こえてきた方を見たら、優しい優しい笑顔のリラおばーちゃんがいたんだ。もう慣れっこなんだけど…さっき、子どもたちに“嘘つき”って石を投げられてたところを見られちゃってたみたい。
「お前さんは娘を…そして、わしを救ってくれた」
おばーちゃんは、そう言いながら僕のおでこから出た血を白いハンカチで拭いてくれた。
僕は、特別なことをしたわけじゃない。ただ、病気だったおばーちゃんの娘さんにあることを伝えただけ。
―― 海に連れて行かれたおじさんは、遠くの国に流れ着いて今も生きてるよ ――
ずっとずっと、夫の行方を心配していたその人は、安心したような顔で眠りについた。
他の人から見れば、僕はいつもみたいに嘘をついたように思えるのかもしれない。でも、おばーちゃんたち親子は信じてくれたんだ。信じて…僕に微笑んでくれたんだ。
「わしには、お前さんの言葉が嘘か真かはわからない。じゃが、わしは信じておる」
僕の頭を撫ぜながら、ぎゅっと抱きしめてくれるおばーちゃん。
「お前さんは嘘を言ってはおらん、とな」
耳元で聞こえたその言葉がとってもとってもうれしくて、僕は、僕に与えられた仕事をもっともっと頑張ろうって気持ちになった。
「ありがと、おばーちゃん!」
嘘つき ――
―― みんなは僕のことをそう呼ぶ。
だけど、いいんだ。
だって、僕の“嘘”はただ1つの希望なんだから。
みんなには“嘘”に聞こえても、僕には“真実”。
みんなは“嘘”だと信じても、心には“真実”が残る。
僕の仕事は、みんなに希望を与えること。
いつか訪れる、未来まで。
- end -
2013-11-23
ある方の影響を受けて挑戦した作品です。
「嘘」をテーマにした物を書こうと悩み、書きかけたものを一度は捨てた結果、このような形にまとまりました。
言いたいことは言えたような、言えないような…?
皆様に少しでも伝わっていれば嬉しいです。
屑深星夜 2006.4.20完成