未完

未完


  ここは、どこだろう?

  何も、ない
  何も、見えない…暗い場所

  これは現実?
  それとも夢?

  その問いすらも、闇に消えた


 目が覚めたら闇の中。オレは、最初は真夜中かなんかだろうと思って、もう一度寝ようとしたんだ。でも、背中にベッドがないことを知って、呆然とした。
 確かにベッドの上に寝てたはずなのに。
 夢かと思って頬をつねっても、痛みは健在。なんだここは! と叫びだしたい衝動にかられながらも、その注意は別のことに向いた。

 オレが、いる……。

 目の前に1人、オレが立っていた。それはどこか虚ろな目をしていて、オレには気づいてないみたいだった。立ち上がって近づいてみても、そいつは動きもしない。触ってみても、ピクリともしなかった。

 なんだ? こいつ…。

 腕を組んで首をかしげると、オレの視界にたくさんの人影がうつった。
 急いで周りを見回すと、そこらじゅうに……オレがいた。そいつらも、虚ろな目のやつと同じで、どこかオレと違っていた。

―― 耳がないやつ
―― 口がないやつ
―― 手がないやつ
―― 足がないやつ

 口にすると気持ち悪いけど、見てるほうはなんか不思議な気分だった。
 確かにオレだったけど、全員動くこともなく、しゃべることもない。まるで、人形。それも、全部不良品……。

 なんだ。全部未完成なんじゃないか。

 そう思った瞬間、1つだけ、不良品っぽくないやつがいたことを思い出した。最初に見つけた虚ろな目のやつだ。
 おれは、もう一度そいつの前に行き、全体を確認してみる。こいつは、身体的には全く問題がない。

 じゃあ、こいつだけ完成品なのか?

 まじまじと顔をつき合わせてその瞳を見つめていたら……虚ろな目が、光を持った。カクン、カクンと音を立てて、目の前のオレがゆっくりと動き出す。何をするにも、ひとつひとつの節が順々に動いて、まるで、操り人形のようだった。

 最初はぎこちない動きをしていたそれも、しばらくすると、人間に見えるようになってきた。すると、そいつは、オレの目の前に直立不動で立ち、ニッコリと微笑んだ。子どものようなその笑顔に、ハッとした。

 こいつには、経験が足りないんだ。

 オレの人形ってことは、最終的にオレになるのが目的なはず。けれど、こいつは、オレが生きてきたのと同じ時間を過ごしていない。だから、姿は同じでも、赤ちゃんと同じなんだ。

 ……結局、こいつも未完成じゃないか。

 そう思ってどこかホッとしていると、さっきの人形が今度はニヤリと裏のある大人の笑みを見せた。

―― お前は、自分が完成してるとでも思っているのか?

 背すじに悪寒が走る。震える身体を、自分の腕で抱きしめても、恐ろしさはなくならなかった。

―― 世界中のどこにも、完成品はない。

 うそだ!

―― 嘘ではない。お前も、未だ完成してはいない人間なのだ。

 うそだ――っ!!

―― よく考えてみろ。この世の中に自分が完成した姿を知っている者がいるか?

 信じたくなかった。でも、その問いに……納得している自分がいた。

―― 死んでみなければ、完成した姿などわかりはしない。
―― けれども、人は、自分のその姿を想像し、そうなるために生きていく。

 自分の思う完成像に近づくために生きている…?

―― そう。人は、誰もが皆、生きている間は未完成な物なのだ。

 人形は、ふんわりと微笑んで言う。

―― あせる必要はない。
―― ゆっくりと成長し、ゆっくりと生きていけばいい。
―― 完成するその時まで、いろいろなことを吸収して…。
―― 失敗も、成功も、全て自分の糧となる。

―― 人は皆、いつか完成するそのときまで、未完な生き物なのだから。

 とたん、闇の空間に一筋の光が差し込む。それは、どんどんと広がり、人形たちを消していく。
 最後にオレと、動いた人形を取り込んだ光は、いっそう眩しく光る。

 それを最後に、オレの意識は途切れた。


  ここが、どこだっていい

  何も、ない
  何も、見えない…明るい場所

  これは夢?
  それとも現実?

  その問いは、光に吸い込まれたけれど
  自分の中には言葉が残った


  いつか、完成するそのときまで
  未完な生き物なのだから

- end -

2013-11-23

某方へのサイト再開祝いにお贈りした作品です。

「未完」という言葉のイメージから創造した不思議な世界のお話でした。


屑深星夜 2003.8.31完成