サクラのホンネ

サクラのホンネ


***


 あげないよ。
りぃ兄は、ぼくのなの。
誰にも…誰にもあげないんだから。


***


 ぴちゃり。
 耳元で響いた水音に梨一郎(りいちろう)の意識が引き上げられる。同時にブゥゥン…と虫が飛ぶような音が聞こえ出し、微弱な振動を己の身体の中で感じた。
「…ん…っ? うぁんっ!」
 振動を与えるものを確かめようと身体を起こそうとした瞬間、内側から沸き上がるものに高い声が零れ落ちる。驚いて口を塞ごうとしたが、何かに阻まれて実行することができなかった。
 カチャカチャという金属音を立てながらできる限り腕を上げれば、手首を締め付ける何かの感覚。
 漏れそうになる声を唇を噛んで堪えながら必死に上を確認すれば、つけていた筈の皮のベルトが己の手首を締め上げ、パイプ式のベッドヘッドに固定しているようだった。
 そっと首を戻して下を確認すれば着ていたはずの服は全て脱がされていて、足の間で立ち上がった分身がテラテラと光って見える。普通そんな姿は見たくはないはずなのだが、寝起きで自分の置かれた状況が把握できていないからだろうか。梨一郎の目は、先端から伝う先走りと思われるものを追いかけてしまっていた。
 己の猛りの根元もゴムバンドのようなもので戒められているのに気づいたのは、その後だ。視認したとたんに苦しさを感じたのはやはり、まだ身体が完全に起きていないからであろう。
 ブイィン!
「…んぁっぅ! な…っんだこれっ…ああ!!」
 急に勢いを増した震えが感覚の戻ってきた梨一郎の後孔を苛み、唇の戒めが解ける。しかし、溢れ出る嬌声に耳を塞ぎたくても手はがっちりと纏められたまま。快感を少しでも逃がそうと身体を捻ってみて、右足も何かに拘束されていることを気がついた。
「くっぁ…ん、ん、ん…」
 中途半端に動いたせいなのか。それとも動くときに下腹に力を入れ、中に入っているものを締め付けてしまったのか。ビリビリとした刺激が後ろから広がり、声が止まらなくなる。
 慌てて体勢を戻した瞬間に視界に写り込んだのは、見知った顔。年の離れた姉、桃子(ももこ)の息子、志桜(しお)だった。
 彼は艶やかな笑みを浮かべて梨一郎を見下ろしている。
「…志桜……っ?」
 何を言うでもなくじっと見つめてくる薄茶の瞳に、ぞくりと粟立つ肌。その視線だけで、身体の内も外も…全てを犯されているような気がした梨一郎は顔を逸らす。
「ダメだよ? りぃ兄」
「ひっ…あぁぁっ!」
 とたんに直腸を刺激し続ける振動が増して仰け反る。その高く上がった顎を志桜に捕らえられ、逸らした顔を強引に戻される。
「ぼくから目を離すなんて…許さないんだから」
 姉に似た可愛い顔は間違いなく笑っているというのに、狂気を孕んだ目は梨一郎をビクリとさせる。

 ……彼から逃げてはいけなかったのだ。

 快感に霞む頭に広がる後悔の念。梨一郎は、滲む視界の中でじっと己を見つめ続ける甥の姿を、瞼を覆って消した。


 梨一郎にとって志桜は、6歳の時から一緒に暮らしてきた家族であった。
 身体の弱かった母を亡くしたのが、その年の新年はじまってすぐ。その悲しみを引きずったまま迎えた梅雨の最中の誕生日、息子のために帰路を急いでいた父も、自動車事故であっけなく他界した。
 両親を失った梨一郎を引き取ったのは、13も歳の離れた姉、桃子。16歳で妊娠し、両親の反対を押し切って結婚出産したこともあって疎遠になっていたのだが、知らせを聞いて戻ってきた彼女は既に一人身で、3歳になる息子の志桜を連れていた。
 32になる現在でも、街中を歩けばスカウトマンに声をかけられるような童顔美人の桃子は母と瓜二つ。緩くウェーブしている髪の色が金色であったなら、まるでフランス人形のようだ。
 性格がどうであれ、そんな彼女に微笑まれたら落ちない男はいないだろう。
 父の代わりに己を養い、母の代わりに慈しむ。姉の権限でこき使い……“家族”の全てを併せ持つ桃子は、梨一郎の1番になった。
 甥とはいえ、3歳しか歳の変わらない志桜とは兄弟のように過ごした。働きに出ている桃子の代わりに面倒を見ることが多かったこともあってか、母よりもよく懐き、男同士にも関わらず喧嘩もしない仲の良さ。
 桃子の容姿を受け継いで、小さいころから女の子に間違われていた志桜だ。彼らを良く知らない者はもちろん、知っている者も、兄弟ではなく兄妹と勘違いするほどであった。
 『りぃ兄ちゃん』と天使のような笑い顔に見つめられて、嫌な人間はいないだろう。ブラコン(一部ではシスコン)兄弟と呼ばれるほどベッタリな生活をしていても特に支障を感じてはいなかったのだが……それが一転したのは梨一郎が高校、志桜は中学に入学した年のこと。
 父親似だったのだろう。母の面影もあった子どものころとはすっかり別人のように背も伸びて、体つきもがっしりしてきた梨一郎。
 クラスに気の合う友人もできたし、入った合気道部にも同じ年の仲間ができ、先輩とも親しくなった。
 異性への興味が尽きない年代だ。男たちが集まれば自然と、あの子が可愛い、この子と付き合いたい…胸はそっちの子の方が、足はあれくらいの方が…などの話が上るもの。
 そんな友人たちの話を聞いているうちに、己がいまいちそれに乗りきれないことに気がついた。
 よくよく自分と向き合ってみれば、それもそのはず。梨一郎の性の対象となる人物は、姉の桃子しかいなかったのだ。
 気づいてもどうにかできるはずもない。同じ両親の血を引く姉弟であり、現在、己の両親的役割も担う大切な人。
 諦めたくとも、忘れたくとも、側に居過ぎて叶わない。もちろん、新しい恋を探す気にもなれない梨一郎の欲望は、実の姉にしか反応せず。ひとり部屋になったのをいいことに、彼女をオカズに自身を慰める日々がはじまる。
 終わった後に罪悪感が己を支配するとわかっていてもやめることはできなかった。
 それが自分だけの秘密でいるうちはまだよかったのだが、高校2年になった大雨の日。部屋の鍵をかけ忘れたことで、姉の名を呼びながら自慰している姿を志桜に見られてしまったのだった。
 小さな頃から大好きな“兄”の痴態。知らなかった梨一郎の本心を目の当たりにしたことは、幼かった志桜を大きく変えた。

「ぼく、りぃ兄ちゃんが好きなの。ママの代わりでもいいから…ぼくで気持ちよくなって?」

 告白の後、強引に押し倒され、ふたりでマスをかき合う羽目になった。
 身体の作りの違いは明らかであったが、その容姿は桃子そっくり。髪は、彼女よりも更に色素の薄い茶色だということ以外は殆ど変わりなく。肌の白さや唇の赤さは、より白く…赤く見えるほど。
 まるで、姉が自分を求めてくれているような錯覚。
 ……梨一郎に拒めるはずはなかったのだ。
 1度でもそうしてしまえばなし崩しに関係は続き、次第に関係はエスカレート。身体を繋ぐようになるまでに、そう時間はかからなかった。

 何度もやめようと思った。

 同じ屋根の下で暮らす家族なのだ。思いを寄せる姉の顔を見るのも辛くなり、同じ顔をした志桜に会うのが恐ろしくなった。
 自分が逃げられないのがわかっていたから。
 会えば……迫られれば止めようにも止められない。何度も失敗したことで、そのことを嫌というほど思い知っていたのだ。
 そこで梨一郎は、県外の大学を受けることにした。
 問題は何の解決もしていないのだが、己の心に掛かる負担も限界に来ていた。姉への想いを明らかに出来ない以上、何をしても解決に至らないということもあったのだが……。
 とにかく、手っ取り早く逃げることを選んだのだ。

 それは、上手くいったと思っていた。

 このまま桃子とも志桜とも離れて暮らしていれば、己の想いにも区切りがついて新しい恋を見つけることができるかもしれない。
 志桜の自分への執着もきっと薄れてくれる。
 入学して3ヶ月が経ってそんな希望が膨らんできた頃、それは唐突に訪れた。

「りぃ兄ちゃん! 来ちゃった」

 7月の20日を過ぎた頃。高校が休みに入ったその足でやって来たという志桜の笑顔に、梨一郎は恐怖を感じた。
 近づいて来ても自分からさり気無く距離を取り、触れられない程度の位置をとった。触れてしまえば元の木阿弥になることが目に見えていたのだから。
 しかし、予想に反して志桜が迫ってくることはなく、仲が良すぎる兄弟であった頃のように数日を過ごした。丁度大学のテスト期間中であった梨一郎は、意識しすぎていたのは自分の方だったのだ、と……己の希望通り、志桜の自分への執着は既に薄れていたのだ、と安心したのだが……。
 テスト最終日。打ち上げ兼ねた合コンをやろうと同じ講義を取っている友人に誘われていた。
 丁度新しい恋を探そうと思っていた梨一郎にとっては渡りに船。行く、と即答していたので、帰りは遅くなる旨を志桜に伝え、用意した朝食を取って家を出ようとした。

 ……そこからの記憶がない。


 気がついた時にはもう、ベッドに拘束され玩具を使って犯されている状態だった。
 180近い背に武道で鍛えた身体を持つ梨一郎と、160前半で帰宅部の志桜とは、体格だけでなく力にも差がある。にも関わらずこんなことになっているのは、きっと朝食に何かを盛られたのだろう。
 しっかり立ち上がった乳首やペニスがジンジンと疼いているのも、きっとそのせいだ。己で作り出した闇の中でそう言い聞かせていると、痛いくらいに胸の飾りを摘まれて声が漏れる。
「ぁうっ! うぅ…んっ」
「痛いのも感じるなんて、りぃ兄ってマゾなの?」
「こ、れは、お前が何か飲ませたんだろっ!? あ…ぁっ!」
 痛みを与えられた後、指先でコロコロと転がされてもどかしくなるが、必死に耐える。それでも目だけは開かずにいると、ズブリという音と共に後孔に感じる圧迫感が増した。
「ひぃぃ…っ!!!?」
 当たり所が悪かったのか。全身に電流のようなものが走り、背筋が撓る。しかし、ドロドロに濡れた高ぶりの根元を堰き止められていては、吐き出すものも吐き出せない。
 それでも梨一郎は、自身が達したのだとわかった。
「ふあぁ! やっめろ…それ、止め…っんん!!」
 体内でギュウギュウと締め付けたせいで、続けざまに大きく跳ねる腰。勢いはないものの、戒められた高ぶりからは白いものが溢れ出して茎を伝う。
 志桜が右手のスイッチを操作して勢いを弱めたが、1度敏感になった梨一郎からは汗と涙と喘ぎ声が止まらなかった。
「りぃ兄、ヴァージンでしょ? なのに2回も出さずにイっちゃうなんて素質あったんだねぇ?」
「く、すりの…んっ…せいだろ…っ」
「飲ませたのは睡眠薬だけなのに?」
「ぁ…うっ、そだっ!!」
「嘘じゃない」
「うそ…っんぁうっ!」
 カリリと乳首を噛まれて言葉が続けられない。そのまま舌と唇でそこを甚振りながら、志桜は梨一郎の先端を爪先で抉る。
「あぁぁ…っ!」
 与えられる快感に素直に反応を返す愛しい人の姿は、既に淀みきった欲望を満たし、更なる欲を生み出している。それなのに、そのこげ茶色の瞳が自分を映さないことが辛く、苦しくて…可愛らしい顔が歪む。
「ねぇ…りぃ兄? ぼくを…見てよ。ぼくを、見て?」
 懇願するような声にも首を振って拒否する梨一郎にカッとなった志桜は、彼の身体を右方向へ倒すと、露になった尻からズルリと勢い良くバイブを抜き取った。そして、そのまま己の滾ったものを開いたそこに押し込む。
「っう…あああぁぁぁ!!!」
 体つきは小さくとも、アナル用の玩具より太いものに押し広げられて痛みが走った。そこから、媚薬のようなものは飲まされていないのかもしれないという考えが過ぎるが、熱いものに前立腺を擦り上げられてしまえばすぐに頭から飛んでしまう。
「やぁ!! そこっん…は、ぁあっ!!」
「あっ…りぃ兄の中、すっごい…きもち…っん!」
 左耳から、梨一郎が抱いているときのような少し高めの甘い声が降ってくる。
抱かれているのは己の方なのに、戒められたままの雄を握り込まれれば自分が志桜の中にいるような錯覚を覚えてしまう。
 しかし、より強く感じる快感はこれまでに味わったことがないもの。それも、他人に与えられているせいで自分で自分を制御できないところが恐ろしい。
 既に射精しないまま2回達しているというのに、更なる高みに連れて行かれそうになっているなど……。梨一郎の身体は十分に理解していたが、頭は信じたくないと必死に抵抗していた。

 これは、夢だっ!

 梨一郎の愛する人間は、姉の桃子。禁忌であろうと、彼女から離れてまだ3ヶ月。未だにその気持ちは変わっていないはずであった。
 視覚を絶ったのも“彼女”を目に入れてしまえば、また流されてしまうと思ったからである。
 男であっても“彼女”を抱く行為は、その一瞬だけでも幸せの中にいられた。艶やかな笑みに誘われれば“彼女”に堕ちずにはいられなかったのだから。
 ……もちろん、志桜に対する罪悪と後悔の意味もある。
 自分のことを好きだと言う彼を利用していた梨一郎。相手にも利用されていたとはいえ、彼の気持ちについて敢えて考えることなどしてこなかった。
 その上、耐え切れなくなって逃げ出したのだ。何もかもを置き去りにして、自分ひとりだけ。
 その報いならば甘んじて受けるしかないと思う心もあった。
 しかしそれなら、与えられるのは痛みであって然るべきだろう。

 なのに、桃子を想って自身を慰める時よりも、志桜を抱く時よりも、志桜に抱かれている今が1番気持ちがいいなんて。

「ねぇ…んっ、りぃ兄も気持ちイイ…っ?」
「だめっ、だめ…っだぁああ!!」
「あぁっ! ん…もう…っイイの間違いじゃないの? 自分で腰振ってるよ…?」
 言われた通り、突き入れられるタイミングに合わせて腰を前後に動かして自分から気持ちがいい場所に当たるようにしていた。しかし、それを認めるわけにもいかない梨一郎は、耳まで赤く染めながら否定する。
「ちが、う…っ違う!!」
「嘘つき…っ」
 グチュリと大きな音を立てて前立腺を抉られると同時に、膨れ上がった茎に爪を立てられて喉が鳴る。
「ひああぁぁ…っ!!」
「…っあぁんっ!!」
 痙攣する身体の奥にドプリと飛沫を浴びせられ、その感覚にもビクビクと跳ねてしまう。
 これでこの苦行も終わる…と息吐こうとした梨一郎だったが、硬度を失わないそれは、またすぐに己を苛みはじめた。絶頂感の収まらないままに与えられる刺激は、行き過ぎた快感を長引かせる。梨一郎はいつ終わるとも知れないそれに恐怖を感じて、閉じた目尻から涙を零れさせて懇願する。
「も…やめ……っあうっ! やめて…くぁぁっ!」
「ダメ! 止めて欲しかったら…っ…目、開けて? ぼくを…見てよ!!」
 耳に届く叫びにも似た声と……降りかかる冷たいもの。汗とは違うそれにピクリと反応したときには、志桜の動きも止まっていた。
 今、何が起こっているのか。闇の向こうに広がっているだろう光景を知りたくなった梨一郎は、震える瞼をそっと上げた。

 ぼやけて滲んだ視界には、悲しげに顔を歪めて泣いている少年がひとり。

 桃子の面影はある。しかしそれは、姉とは違う別の人間 ―― 志桜でしかなかった。

 怖いくらいの色気を見せていた妖艶な彼はどこへいったのか。透明な雫を拭うことなく零れさせている姿は、梨一郎の知っている可愛い彼。
 胸を締め付ける想いは、熱を保ち続ける志桜の欲望をも締め付ける。
「…んっ…」
 小さな声を上げた彼は涙を拭うと、未だ肩で息をする梨一郎への願いを口にする。
「ぼくのそばに、いて……?」
 大きく息を吸って唇を噛んだ後、叫びにも似た言葉を放つ志桜。
「りぃ兄ちゃんがママのこと好きでもいい! ぼくとセックスするのが嫌ならもう二度と迫ったりしないからっ!!」
 そんなことは言いたくない、という本音の漏れる仕草に心の中で苦笑しつつ、『そばにいて』という願いはそれを口にさせるほどのものなのだと知れる。
 そう言えば、肌を合わせるようになって以降、梨一郎が好きということと桃子の代わりでもいいということの他に、彼の胸の内を聞いたことはなかった。
 それは、言って梨一郎との関係が終わることを恐れてのことだったのかもしれない。己の内を晒すことで、梨一郎の本心を聞くことにならないようにするためだったのかもしれない。
 3年近く溜まりに溜まった想いが己がいなくなったことで暴走したのだとしたら、今それを吐き出させてやるべきではないか。
 そう考えた梨一郎は久しぶりに真っ直ぐ彼を見つめ、痛む喉から声を押し出す。
「本当にそれでいいのか?」
「……」
「言いたいことがあるならこの際だから言っとけ。聞いてやるかはわからないけどな」
 唇を結んで暫く悩んでいた志桜だが、頬を染めて視線を逸らしたと思ったら小さな声で言うのだ。

「……ぼくのこと、好きになって……?」

 ジワリと胸に広がる感覚は何と言えばいいのか、梨一郎にはわからなかった。
しかし、あぁそうか、と心中で呟いていた。
 己の中でいつの間にか変化していた想い。
 ようやく気づけたそれをすぐに伝えてもよかったのだが、ふと意地悪を思いつく。
 大元の原因は自分にもあるとはいえ、睡眠薬まで使って己を拘束・陵辱した志桜にちょっとした意趣返しをしたくなったのだ。

「嫌だ」

 キッパリとそう告げた瞬間、眉尻を下げる志桜。梨一郎はそれを確認したところでふっと表情を緩め、クスリと笑った。
「……なんて言うわけないだろ…?」
 相手が驚いて何も考えられないうちに、両手首に巻かれたベルトを解かせ、自由になった腕でひと回りは小さな身体をギュッと抱きしめる。
 漸くしっかりと触れ合う身体……。合わせた胸から互いの早くなった心音を感じながら、耳元で「抱かれて喜んでるのしっかり見てただろ」と告げた。すると、それを想像したのか…いまだに後ろに入ったままの志桜が容量を増す。
「…何大きくしてんだよ」
 コツリとふわふわの頭を小突けば、ごめんなさい、と照れた謝罪が返って来た。
「お前……眠らせてからずっと俺の身体慣らしてたんだな」
「う…」
「嘘だと思ってたが、本当に媚薬は使わなかったのか」
 行為の途中で浮かんだ梨一郎の想像は、志桜の本音を聞いた今、確信に変わっていた。
 口篭った後、悪いことをした子どもが言い訳するときのような弱々しい言葉が続く。
「だって…クスリでイッちゃってるりぃ兄を抱いたって意味ないって思ったんだもん。ちゃんと、気持ちよくさせたかったんだ」
 可愛い顔を両手で包み込んで上げさせた梨一郎は、この日初めてその赤くて柔らかな唇とキスをした。
 舌を絡めることもなくただ触れるだけのものだったが、心と身体を高ぶらせるには十分で。

「お前が好きだよ。だから……イかせろよ」
「うん!!!」

 己の誘いに満面の笑みを返されても、喜びしか沸いてこなかった。


 心も身体も絡め合わせての行為は、何よりの快感をもたらす。
 ふたり同時に達し、溜まりに溜まっていた精を漸く吐き出せた梨一郎は、幸せな夢の中へと意識を飛ばしていた。


***


 りぃ兄ちゃん、だーい好き。

 ずっとずっと一緒にいてね?
もう、りぃ兄は、ぼくのなんだから。


***

- end -

2013-11-23

煉希様の呟きから生まれた「年下攻めえろ」話です。

いやぁ…本当はもっと短い予定だったんですが、予想より長くなりました〜。

本来ならgiftに置くべきところですが、短編に掲載させていただきます。


屑深星夜 2013.4.10完成