「おはよう、デュアン」
 まだ眠い目をこすってたおれは、ドアを開けたとたんにかけられた声に一瞬驚いた。
 そうだ。
 またアニエスと一緒に行くことになったんだった。


 ルカ島のレッドドラゴンのダンジョンで再会したおれたち。
 今は、アニエスの友人の王子に会いに行くために、コーベニアに向かってる船の上だ。
 ルカ島を発って、船上で1泊。
 ついさっき起きたおれは、服を着替えて顔を洗いに行こうかと思っていたところだった。


「おはよう」
「今、起こそうと思ってたとこだったのよ。ね、クノック」
 おれの言葉ににこりと微笑んだアニエスは、寄り添うように立っているクノックをちらりと見た。
 彼は主人と目を合わせた後、肯定するように尻尾を振った。
「チェックはまだ寝てるの?」
「あぁ、うん。昨日オルバと飲んでたから…」
「相変わらずなのね」
「あいつもおれも、変わるほど時間も経ってないしね」
 肩をすくめてそう言うと、彼女はクスクス笑っていたのをやめて真正面からおれを見るんだ。
「あら、デュアンは変わってるわよ」
「え?」
 おれは変わってるって?
 耳に届いた言葉が信じられないでいるおれに、アニエスが続けて言う。
「レッドドラゴンのダンジョンで会ったときにも言ったと思うけど、しばらく会わないうちにちょっとだけたくましく…頼もしくなってる」
「そ、そんなことないよ! 相変わらず剣は下手だし…体力もないし……」
 おれは思いっきり首を振った。
 頼もしくなった、なんて言ってもらえるほど成長したとは思えないから。
 おれにもう少し余裕があれば、ラズベリーバットからアニエスをもう少しくらい守れてたはずだし…。
「でも、初めて会ったときよりは上手くなってるし、体力だってついてるでしょ?」
 彼女の言葉におれは考える。
 魔女の森でもいろいろ危険なめにあったし、ルカ島に行くことになる前にリロイと会って、彼が詩人の称号を得る手伝いもした。
 ルカ島に向かう船の上で、金目さんと銀目さんに手伝ってもらってだったけど、レベルだって上がった。
 ラウドネス・ジューンからも、知恵を使ってなんとか逃げ切れたし、つい何日か前にはレッドドラゴンにも会った。
 ……アニエスと初めて会った、荷物を持つのすら大変だったころよりはましになった…のかな?
「少しは…ね」
 おれが頭をかきながらそう言うと、アニエスがクスリと笑うんだ。
「ほらね」
「うん」
「きっとこれからもっと変わると思うわ。そんな気がするの」
 アニエスの言葉は、少しくすぐったかったけど、おれの胸にすとんと落ちた。
 本当にそうなれたら嬉しいよな。
 …そうなるためには、もっともっと頑張らないといけないけど。
 自然にそう考えたおれは、アニエスにわからないようにぐっと自分の手を握った。
「ね、デュアン。オルバたちは置いておいて、さっさと朝食を食べにに行きましょ」
「うん」
 にこりと笑う彼女にうなずいた。
「あ、金目さんたちも誘って行こうよ」
「いいわよ」
 おれたちは笑みを交わすと、隣の部屋の扉をノックしに歩き出したんだ。




     fin







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