……ん?
 なんかいい風が吹いてんな。
 ふとそれに気づいて目を開けると、ひらひらと窓辺で揺れるカーテンが目に入った。
 窓からは青い空が見え、少し西に傾いた太陽が部屋の中を暖めていた。
 しばらくそれをぼーっと見つめていたら、カーテンとは別の色のものがふわふわしてるのに気づいた。

 日の光にあたってキラキラ光る金色。

 風に揺れるパステルの髪。

 そういや、ここはこいつの部屋だった。
 昼寝するには、こっちの部屋のが都合がいいかんな。
 おれらの部屋じゃあ、キットンがうるさかったりするし…。
 いつの間にか顔から落ちてた帽子を頭に乗せて起き上がると、机に突っ伏したパステルが目に入った。
 近づいてみると、ペンを握ったまま幸せそうに目を閉じてやがった。
 まぁ……仕方ねぇか。
 段々春も近づいて、今日みたいにいい天気のときはホントに気持ちいいからな。
 春夏秋冬、どの季節が一番気持ちいいかってーと、やっぱ春だと思うし。
「う……ん………ルーミィ……?」
 急に顔の向きを変え始めたパステル。
 どうやら窓の外から聞こえてくる、ルーミィの笑い声に反応したらしい。
 思わず、こいつが起きたとしてもすぐには視界に入らない場所に移動しちまったが、全く必要なく終わる。
 パステルは、すぐにまた規則正しい寝息をたて始めたからな。
 ま、そう簡単に起きるはずはないか。
 そういや締め切りが近いらしくて最近寝るのが遅かったの、今思い出した。
 ……ん?
 締め切りが近いってことは、気持ちよさそうに寝てる場合じゃねーじゃねーか。
 起こしてやった方がいいな、と思ったおれはひょいとパステルの顔を覗き込んだ。
 その時、原稿の左端に書いてあった文字に目を奪われた。


 紛れもなくそれは、物語の終わりを示す言葉。


 書き上げてすぐ、睡魔に負けて寝ちまったんだな。
 今日中に印刷屋に持ってかなきゃいけないなら、こんなにのんびりとは寝てねぇはずだ。
 ま、夕飯になれば起こすことになるし…少しくらい寝ててもいいだろ。
「……おやすみ」
 おれはパステルの背にそう声をかけると、部屋から出る。
そして、足音を立てないように階段を下りて外へ。
 目的は、ルーミィとシロを連れて少し遠くまで遊びに出かけるためだ。
 なんでかって?
 ……んなの決まってるだろ。
 あいつの眠りを守るためだよ。




     fin







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