朝、ごはんの準備をしてたら、ノルが顔を覗かせた。
「あ、おはよう! ノル」
 優しく微笑んだノルは、ゆっくりと一言。
「おはよう」
 そう言ったの。



―― おはよう

 朝起きたら口にする、あいさつ言葉。

 誰かに会ったとき。
 誰にでもなく習慣のように。
 わたしたちはその言葉を口にしてる。

 時には、条件反射みたいに何にも考えないで使ってることもある。
だって、言うのがあたりまえになってて、相手に言われたって特に何とも思わなくなってる言葉だから…。



 でも、ノルが言ったその言葉は、わたしの胸を柔らかく包みこんだ。

 いつも静かにみんなを見つめて、暖かく微笑んでるノル。
 言葉数が少くても、その小さな瞳が多くのことを語ってるノル。

 そんな彼が言った言葉だからこそ、気付かされた。
 言葉には、“思い”が込められてるんだ…って。


 今日もいい天気だよ、って言ってるのかな?
 元気な姿を見れてうれしい、って思ってくれてるのかな?
それとも、ごはん作ってくれてありがとう、って言ってるのかな?


 想像するだけで、うれしくなっちゃう!



 だから、わたしも“思い”を込めて声にする。
「もうちょっとでできあがるから、待っててね!」

 みんなのために、作ったんだよ。おいしい、って言ってもらえたらうれしいな。

 その気持ちまでは聞こえてないはずだよね?
でも、ニコリと笑ったノルは、朝ごはんをみんなと食べたとき、『おいしい』って言ってくれたんだ!




 言葉にこめた“思い”は、その人にちゃーんと伝わってる!
 それは、言われた人も、言った自分もすごくうれしい。

 これは、いつも無口なノルのおはようのたった一言が、わたしに教えてくれた大切なこと。


 これからは、もっともーっと気持ちをこめて話すようにしよっと!




     fin







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