月の光の届かない森の中。
風が木々を揺らす音と、弾ける炎の音、みんなの寝息を聞きながら…静かな夜を過ごしていた。
どれくらい目の前で揺れる炎を見つめていたんだろう。
「…う…ん……」
ゴソゴソと身を捩りながら、すぐ隣で眠っていたパステルが目を覚ました。
「パステル、まだ日の出前だよ。眠ってたら?」
「ん〜……いいよ。ちょっと寒くって眠れそうにないから」
「じゃあ、お茶でもいれようか?」
「うん。ありがと、クレイ」
にこりと微笑む彼女にうなずいて、おれは鍋に水を入れて火にかけた。
パチパチと鍋の底を暖める火を見つめながら、おれもパステルもただ静かに湯が沸くのを待った。
「あ〜…あったかい」
「もう春だから大丈夫だと思ってたけど、きちんとどこかの町で宿をとるべきだったかな?」
両手の中にお茶の入ったカップを持って暖を取るパステルに、自分の分を入れながら聞いた。
「ううん、そんなことないよ。だってやっと冬が終わって出かけられたクエストじゃない。早く行きたい気持ちのが強いもん」
彼女はそこまで言うとお茶をひと口飲み、首を傾ける。
「今日中にはつけるかな?」
「もうすぐ近くまで来てるはずだから、大丈夫だと思うよ」
そっか、とうなずいた彼女は、自分のすぐ横で眠るルーミィを見てくすりと笑う。
「ね、見て見て。ルーミィったらよだれ垂らしてる」
「きっと何か食べてる夢でも見てるんだよ」
「やっぱりお菓子かな?」
「いや、猪鹿亭で飯食べてるときかも」
2人で想像しながら笑いあった後、パステルはルーミィのシルバーブロンドを優しく撫でた。
「もう…家族みたいなものだよね、わたしたち」
「そうだね。ルーミィがいるから余計かもしれないな」
冒険者のパーティは、一種の家族ではあると思う。
でも、“本当の家族”のようかといえば…そうでないパーティが多いだろうな。
その点、おれたちは、“本当”に近い。
ルーミィがいることがやっぱり、そうなっている一番の理由かな。
パステルは彼女の母のように、姉のように振る舞い、おれたちも…父や兄のように自然と関わってるんだから。
「みんなの前で飾る必要もないし、ありのままの自分でいられるから…とっても居心地がいいんだよね」
「……そうだね」
幸せそうに微笑む彼女に、それだけ言ったおれは…再び、炎に視線を戻した。
何事かを考えはじめたと思ったんだろう。
パステルはその後おれに話しかけてくることはなかった。
冒険者になろうと出てきた彼女と出会って…もう何年たったんだろう。
一度、家族を失った彼女が、こうやって幸せそうに笑ってくれているのはすごくうれしい。
このまま一緒にいられれば幸せだとも思う。
でも、おれの心の中には…彼女を自分だけのものにしたい、という気持ちもあるんだ。
おれのこの気持ちは、下手すればパーティを分裂させるかもしれない。
そうなれば、彼女は再び家族を失うことになる。
おれがいるから大丈夫。
そう言えるほど自分に自信があれば……こんなにも悩まないのに。
思いと一緒にため息をついたとき、視線の向こうが明るくなったのに気付いた。
森の木々の間から、赤く輝く大きな太陽が見える。
横を向くと、パステルの蜂蜜色の髪が、朝日の中で美しく光り輝いていた。
その眩しさにおれは目を細めながら、自分に誓う。
近い将来。
その輝きを全て、自分のものに……。
fin
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