「あんでおれがついてかなきゃなんねーんだよ…」
 クレイでも、ノルでもいいじゃねーか。
 なんてブチブチ言いながらも、こうやってついてきちまうおれ…。
 言っとっけどな!?
こいつが方向音痴でさえなけりゃ、わざわざついてきたりしねぇんだからな!
迷ったこいつを探しにいくのは結局おれたちなんだぜ!?
その手間を省いてるだけだかんな!?



 満開だった桜も、ヒラヒラと散りはじめた並木道。
おれは、パステルの買い物に付き合わされてた。
 ま、他のやつらはバイトやら趣味やらで旅館にいなかったからな。
おれが借り出されんのは当たり前っちゃあ当たり前なんだが。
 食料品の入った紙袋を抱えなおしながら、ウキウキと少し先を歩くパステルに視線をやる。
 春だっつうことで、更に浮かれてんじゃねぇのか?
 白ともピンクとも言えねぇ、頭上の桜を見上げながらうれしそうに笑ってやがった。

 こいつのそんな顔見てるだけで、幸せな気分になってくる自分が悲しいぜ。
 この鈍感女がおれの気持ちに気付くことなんて、一生ねぇんじゃねぇか?

 はあぁ――…っ。

 呆れ半分、大きくため息をついた。


 このまんま、パステルを手に入れらんねぇのは嫌だ…って思いもある。
でもな、こいつが仲間としてでもそばにいて笑っててくれるなら、それでもいい…とも思っちまう。

 好きだからこそ、おれのものにしたい。
 好きだからこそ、その笑顔を守ってやりたい。

 おめぇにとって、どっちがいいんだろうな?



 ビュウゥゥゥ―――ッ!

 突然、東から暖かい風が押し寄せた。
 それは、おれの思考だけでなく、地面に敷き詰められた花びらさえもさらう。
 巻き上げられた桜の花びらは、視界をまっ白に染め、前にいたはずのパステルの姿をかき消した。


 とたん、言いようのない不安が背筋を這い上がる。


――― もし、こいつがいなくなったら。


 そんな風に考えたつもりはねぇ。
それでも、視界からあいつの姿が消えちまったことに、身体が震えた。


「パステルっ!」
 思わず駆け出し、白い幕の間から見えたあいつの腕を掴んだ。
「すごい風だったね、トラップ」
 驚いた顔でこちらを見上げるはしばみ色の瞳。
 そこにはしっかりとおれが映ってて、少しホッとした。 




 何より、失うのが怖い。


 春風のやつに、そう気付かされた。


 失うくらいなら、今のままがいい。
だが、今のままの状態がいつまでも続くはずがねぇ。 


 何もしねぇまま、なくしちまってもいいのか?



 んなの………いいわけねぇだろ!




「トラップ?」
 ずっと腕を掴んだまま離さねぇおれに、首を傾げるパステル。
おれは、拘束していた腕を開放したあと、何度か左右に首を振った。
「なんでもねぇ、行くぞ」
「え? ちょっと待ってよ、トラップ!」
 スタスタと自分を置いて歩き出したおれの背から、パタパタと追いかけてくる足音が聞こえる。


 ……おめぇはなんもわかってねぇだろうけどな。
 おれは決めたからな。



 覚悟しやがれっ!




     fin







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