「ねね、クレイ! そろそろお金も溜まってきたからクエストに挑戦しようよ」
「あぁ、そうだな」
「いいですね〜」
ベッドに座ったおれの視線の先には、楽しそうに会話してるパステルたち。
おれの方を見ることもなく盛り上がるやつらの姿を見てたら……知らず、足を小刻みに揺すってた。貧乏揺すりってやつだ。自分でもなんでこんなにイライラしてんのかわからねぇが…その気持ちが身体を勝手に動かしちまってるのはわかった。
バイトを終えた夜。猪鹿亭で夕飯食べた後、うとうとしはじめたルーミィを寝かしつけたパステルが、おれたちの部屋にやってきた。
他愛のない話をしてた間は何ともなかったのに、おれの存在を忘れたかのように、次に挑戦したいクエストの話や今までやってきたクエストの話をし始めた瞬間、モヤモヤした気持ちが胸に渦巻き始めた。
クレイたちが自分を無視して話に盛り上がることなんてよくあることじゃねぇか。なんでおれはこんなにムカムカしてんだ?
グルグルと答えの出ねぇ問いに頭を支配されてたせいで、おれは3人の会話が耳に入ってなかった。
「ね、どう思う? トラップ」
そうパステルに話しかけられたのは、そんなときだ。
「あ?」
間の抜けた返事をして声の主に視線をやると、はしばみ色の瞳とぶつかる。瞬間、わけもなく胸が高鳴った。
「トラップ?」
動きを止めたおれに不思議に思ったのか、パステルがゆっくり近づいてくる。その度に鼓動がどんどん早くなって、うるさいくらいドキドキしてきやがった。
まさか、話を聞いてなかったとは言えねぇ。それに、このままここにいたらいつもと違う自分の様子に気付かれちまいそうで……。
「おめぇらの好きにすればいいだろ!」
おれは、乱暴にそう吐き捨ててバタバタと部屋を出た。
駆け足で外へ出て、旅館の入口をバタンと閉める。
扉に背を預けながらおれははぁはぁと肩で息をしていた。いつもならこれくらいで息が上がるはずもねぇのに。それに、熱を持ったように顔が火照ってやがる。
なんだよ…これ………?
おれは、口元を押さえて自分に問う。
さっきまでのイライラは、どっかに行っちまってた。……パステルがこっちを振り向いた瞬間に、な。
スカッとしたはずの胸は、すぐに早鐘を打つことになっちまったんだが…。
まさか……?
一瞬浮かんだありえない考えに、おれは頭を振る。
おれがあんなうすっぺたい色気のねぇ女を……なんて、ありえねぇだろっ!?
鼻で笑ったら、スッと肩から力が抜ける。そのおかげでゆったりと息を吸えるようになり、だんだんとうるさかった心音がおさまっていった。
ほらな。さっきのは何かの間違いだ!
自分で自分に言い聞かせるように何度もそう唱えたおれは、数度うなずき、上着のポケットに手を入れた。ジャラリと小銭がぶつかり合う音を聞いたおれは、すぐ部屋に帰ることもできねぇからカジノに行くことに決めた。
こういうときこそ遊ぶに限る…ってな!
思えば、それが始まり。
胸の奥の方で、僅かにくすぶり始めた炎。あいつへの……思い。
認めたくなくて忘れた振りをしたが、熱はだんだん高くなるばかり。
あいつが好きだと認めるまでに、そう時間はかからなかった。
なんであいつなんだ?
そう思わねぇときはねぇ。
でも、あいつなんだ。他の誰でもねぇ。あいつじゃなきゃ、だめなんだ。
今はこのままでいい。
でも、いつか。いつか……おれと同じ思いをあいつにさせてやる。
おれじゃなきゃだめだと言わせてやるぜっ!
- end -
2013-11-23
「TRAP FESTA」参加作品です。
トラパスものは書いておかなきゃ、との気持ちから。
屑深星夜 2007.5.3完成