わたし、パステル。パステル・G・キング。
今、ストーンリバー近くの岸壁の洞窟に来てるの。
バイトばかりのわたしたちにとっての久々のクエストの最中。海辺の暗い洞窟の中にしか生えない苔を取ってきて欲しいっていうおつかいクエストなんだけど…今ちょっと最初の予定とは違う状況に陥ってるんだよね。
苔を見つけるまではとっても順調だったんだ。
潮が引いたことで姿を現した入口から入って、カンテラの灯りの中、慎重に進む。マップもあったから迷うこともなかったし、運良くモンスターに遭うこともなく目的の場所にたどり着いたの。
入口が特殊な場所になければ、1日あれば終わるはずのクエストなんだけどね。苔がある場所まで行くのに結構時間がかかって、その間に潮が満ちて入口が塞がっちゃうんだ。だから、次に潮が引くまで、洞窟内で一泊しなきゃいけないのよね。
明日、潮が引き始めたらすぐに外に向かえるように、わたしたちは満潮になっても沈まないギリギリのところまで戻って野宿することにした。
けど、じめじめした洞窟の中でしょ? 火を起こすことなんかできなくって、みんなで買っておいたパンや干し肉を食べて、かたまって寝たの。
「パステル、起きてください!」
キットンの大きな声に起こされた私は、モンスターでも出てきたのかと思って急いで飛び起きた。でも、周りにそんな様子はなくってホッと息をつく。
「どうしたの? キットン」
モンスターが来たわけでもないのに起こされる理由がわからなくてキットンに聞くと、とっても深刻そうな顔で説明してくれた。
「落ち着いて聞いてくださいね。……わたしたち、潮が引いてもこの洞窟から出られなくなりました」
「えぇぇっ!?」
驚いたわたしの声が洞窟内に響く。
「うっせぇぞ、パステル! 静かに聞け!」
「いっ……!」
トラップにゴチンと頭をぶたれて、自分の口を急いで押さえた。
モンスターがいるっていう洞窟内だもんね。昨日出会わなかったとはいえ、声を聞いて襲い掛かってきたら大変なことになる。
わたしが続きを聞く体勢になったのを確認して、キットンが口を開く。
「どうも風が強くなったみたいで、海が荒れてるんです。潮が引いても、波に身体をさらわれる可能性が高いので」
「それじゃあ、今日はこのまま待つのね。でも、明日なら外に戻れるんでしょ? それくらいの食料なら持ってきてるから…」
海が荒れてるって言っても大した問題ないじゃない、と思ってそう言ったんだけど、キットンだけじゃない。クレイやノルの表情まで暗いの。
「……他に、何か問題があるの?」
わたしが聞くと、クレイが静かにうなずいた。
「明日波が収まれば問題ないよ。でも、そのまま嵐にでもなったら…食料が持たないんだ」
そ……そっか! 風が出てきたってことは、雲を連れてきて嵐が起こる可能性が高いんだ。ホントに風だけで終わればいいけど、終わらなかったら……わたしたち、どうしたらいいんだろう!!
「パステル。落ち着いて」
内心の焦りに気付いてくれたノルがそう声をかけてくれたけど、簡単に落ち着けるものじゃない。
「心配しなくても、食料がなくても人間少しは生きていられます」
ギャハハと場違いなほど明るく笑われて、わたしは顔をしかめた。
そりゃあそうだけどさ! それ、ルーミィに耐えさせるのはとっても無理だと思うんだけど!
「大丈夫だって。ルーミィに無理させねぇ方法があんだよ」
わたしが考えてることがわかったのか、口を開いたトラップがにやりと笑う。
「おれはこの道の先に、別の出口があんじゃねぇかと思ってる」
トラップの言い分はこう。
海側の入口だけなら、海でふさがれた後は閉じられた空間になる。でも、この洞窟に出るって記述されてるモンスターたちには、海から自由に出入りできないものもいる。オークとか、ゴブリンとか…人間に比較的似たモンスターね。
そのモンスターたちが、入口が1つの下手したら食糧難に陥りそうな場所に住み着くはずはない。だから、地上に繋がる出口があるはずだって!
「このマップ、途中までしか書かれてねぇから行ってみなきゃわかんねぇけど」
「モンスターの心配はありますが、ここで待つよりも早く外に出られる可能性が高いと思いますよ」
「…クレイとノルは?」
もうそうするつもり満々の2人の意見を、クレイたちがどう思ってるのか気になってそっちに視線を向ける。そしたら、クレイの鳶色の瞳は、真剣だけどどこかわくわくした光を帯びてたの。
「危険かもしれないけど…やってみる価値はあるんじゃないかと思う」
「あぁ」
それにノルもうなずく。
そりゃあね。少しはクエストらしいこともあるかと思ってた今回のおつかい。でも、幸いモンスターに遭遇することなく目的の苔を手に入れちゃったわけでしょ。あっさり過ぎて拍子抜けしてたところもあったんだよね。
そこに、この状況じゃあ…。もう少し冒険らしいことをしたいと、ちょっと危険な道を選んでも仕方がないかもしれない。
もちろん、このままじっとしてても嵐が来ちゃったら危ない…ってのもあるんだけどね。
「みんながそう言うなら……いいよ。行ってみよう」
わたしはみんなに見つめられる中、首を縦に動かしたの。
まだ眠っていたルーミィとシロちゃんを起こしたわたしたちは、苔があった部屋にやってきた。この部屋は少し広いドーム型になってて、来た道とは別に2つの道があった。
天上にはいくつか小さな穴が開いてるみたいで、外の光が差し込んでる。でも、昨日よりはその光が弱いような気がするから…やっぱり天気が崩れて来てるのかもしれない。ヒューヒューと勢いのある風の音も聞こえるし。
壁にはびっしりと黒い苔が生えてるんだ。色が黒い以外は何の変哲もない普通の苔のように思えるんだけど…何で依頼人さんはこの苔を頼んだんだろう?
特別な何かがあるから、ここの苔、なんだよね? 一体、何があるんだろう…?
「ちっと行って見てきたけど、結構長いこと1本道が続いてる」
一足先に様子を見てきたトラップが指さしたのは、進行方向右の道。クレイくらいの背の人が立って通れるくらいの高さで、岩肌がごつごつしてる。
もう一方の道は、暗くて先が見えないのは同じだけどこっちよりも大きかった。
「じゃあ、とりあえずそっちに行ってみるか?」
「そうですね」
クレイとキットンの言葉にわたしたちがうなずいたとき、トラップが茶色の瞳をこっちに向けた。
「おい、パステル」
「え? 何? トラップ」
「おめぇ、わかってんだろうな?」
えぇ? わかってるって…なにが?
わけもわからず首を傾げていたら、大げさにため息をついた後、
「マッピングだよ、マッピング!!」
って、ビシッと右手の人差し指を突きつけられた。
「こっから先はマップがねぇんだからな。しっかりやれよ?」
「うぅぅ〜…わかったわよ」
唇を突き出しながら、わたしはしまってあったペンとマッピング用の紙を取り出した。
苦手でも…やらなきゃ上達もしないよね。よぉーし! 頑張ろう!
ノルも少し屈めば入れる道だったから、代わりにクレイがリュックを背負って行くことになった。
先頭はトラップ。その肩にシロちゃんが乗って、後ろにクレイ。わたしとルーミィ、キットン、そしてノルの順番に歩いた。
苔を採りに行くときもそうだったけど、この洞窟、すごく大きいんだ。
分かれ道がそんなにあるわけじゃないんだよ? それでも、行って帰るのに半日以上かかるわけで…。
今歩いてる道もほぼ直進なのに、終わりがないかと思えるくらい長く感じちゃう。
途中で音をあげたルーミィを、ノルとわたしで背負ったり抱えたりしながら歩いて3時間くらいしたころ。
ドンッ!
「いっ…!」
突然前が止まったせいで、クレイが背負っていたリュックに顔をぶつけちゃった。
「ごめん、パステル。大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
心配そうにわたしを見たクレイに、ぶつけた鼻を押さえながら微笑んだ。
「おめぇらちょっと待ってろ」
トラップはそう言うと、軽い足どりで先の様子を見に行った。
ほんの少しして、戻ってきたトラップに手招きされ、すぐ先にあったちょっと広い場所へとやってきた。
「行き止まり…か」
あたりを見回してクレイが言うように、先に進めそうな道はなかったんだ。
あーぁ…これだけ歩いて来たのに、また戻らなきゃいけないんだ。
ため息をついたわたしの隣に、いつの間にやってきたのかトラップがいた。
「おい、パステル。ここに罠がある」
「え、罠?」
書いてたマップの1点を指さされて、わたしは目を見張る。
こんなところに罠? 自然が創りあげた洞窟って感じだったから、そんなのないと思ってたのに…。これって、モンスターが仕掛けた…とかかなぁ?
「しっかり書いとけよ」
「うん、わかった」
わたしはうなずいて、しっかりとトラップが示した位置に罠があることを記した。忘れたら大変なことになるかもしれないもんね!
「ノルしゃん、大丈夫デシか?」
「あぁ、大丈夫だ」
シロちゃんに声をかけられたノルは、微笑みながら大きく伸びをした。
そういえば、ノルってずっと屈んだ体勢で歩いてたんだよね。普通に歩いてても大変だったのに、すごい!
その様子を見てなのか、クレイがリュックを下ろしながら口を開く。
「ちょっとここで休憩しようか」
「そうですね〜」
うなずいたキットンがその隣に腰を下ろす。
わたしも…と座ろうとしたときに、横からルーミィに抱きつかれた。
「ぱーるぅ、ルーミィおなかすいたおう」
「はいはい、ちょっと待ってね。チョコあげるから」
「わーい!」
彼女のフワフワの髪を撫でてあげたあと、リュックに入れておいたチョコを少しずつみんなに配って食べた。
口の中に広がる甘さが身体中に広がって、とってもおいしかった。
少しして、わたしたちは来た道を戻った。
行きと同じくらいの時間をかけて、苔が生えてる部屋へ戻ってきたときには部屋の雰囲気がちょっと変わっていた。天井から入っていた光が格段に弱くなってて、ポタポタ水が滴り落ちてきてるの。
風の音は相変わらずヒューヒューと聞こえてる。予想通り、嵐になっちゃったみたい…。
「ここではゆっくりしていられないですね」
キットンの言葉にみんなでうなずいて、わたしたちは右に少しくねってるもう一方の道を進んでいった。
ほんの少しすると、天上からも地面からも岩のつららができている部屋に出た。
ここ…鍾乳洞だったんだ。
見た目はぼこぼこしてるのに、触ってみるとつるっとしてる岩。ポタンポタンとゆっくりと水の落ちる音が響いて、部屋の半分ほどに澄んだ水が溜まってる。カンテラに照らされて、岩壁や水面に明かりがゆらゆらと揺れるのがとてもきれいだった。
「罠もねぇし、ここならとりあえずゆっくりできるんじゃねぇか?」
「そうだな。そろそろ昼飯食べよう」
「うん」
「ルーミィしゃん、ご飯デシ!」
「わぁ〜い!! ごはんごはん!」
わたしたちは、そこで腰をおろして、昨日の残りの干し肉やパンを食べて腹ごしらえをしたんだ。
この部屋から繋がっている道は3つ。向かって1番左は、入口からでも見えるくらいすぐのところで行き止まり。真ん中は平たんな道で、横に2人並んで通れるくらい大きな道。右の道は、ノルがやっと通れるくらいの大きさで、上り坂になってた。
昼食を食べ終えたあとに、まずは右の道を行ってみたの。地上に出ることのできる道なら、坂になってるかもって思っての選択だったんだけど…ねぇ。実はすぐに下り坂になってて、その先は海に沈んでたんだ。
この道ももしかしたら外に繋がっているかもしれないけど、海に浸かってちゃ通るに通れない。
すぐに諦めて、真ん中の道を進んだ。
またダラダラと続く道だったんだけど…1時間ほど歩いたとき、トラップがしっ…と口の前に指を立てた。慌てて口を押さえてその場に立ち止まると、トラップだけ足音を立てずに歩いていった。
そっちの様子を窺うと、天井に微かに明かりがうつってるのがわかった。何かがいるんだ!
しばらくして、トラップが戻ってきた。
「ゴブリンがうじゃうじゃいやがる」
息だけの声で言ったその言葉に、ごくりと唾を飲み込まずにはいられなかった。
モンスターがいる洞窟って聞いてたのに、今までは全然その影すらなかったでしょ? 遭遇することなく終わるかも…って思ってたとこもあったから、水をかけられたみたいに頭が冷えた。
そうだった。おつかいとはいえ、危険と隣り合わせのクエストだもん。しっかり気を引き締めていかないと!
「数は?」
「10匹以上だな。よくは見えなかったが…奥に続く道はあるみてぇだったぜ。どうする?」
「大量のゴブリンと戦えるほど余裕があるわけじゃないですしね…」
キットンの言葉に、わたしたちは顔を見合わせる。
腕の立つレベルの高いパーティなら迷うことなく進むんだろうけど……。
「……ここは一旦戻って対策を練ろう」
パーティのリーダーであるクレイは、わたしが思ってたとおりの答えを口にしたんだ。
クレイの剣の腕もいいし、ノルだって力があって強い。トラップも、コントロール抜群のパチンコでバッチリ援護もできるから、戦えないこともないはずなんだけどね。ルーミィやわたしたちがいるから、いつもできるだけ危険を避ける方法を考えてくれるんだ。それじゃあクレイたちの修行にはならないっていうのにさ。
でも、それを彼に言ったら絶対笑ってこう言うんだろうな。
戦って経験値を上げるだけが修行じゃないって。
わたしたちはリーダーの意見に従って、苔がある部屋まで戻ることにしたの。
天井から微かに窺える外の様子は…相変わらず嵐。外からの光はほとんど見えなくて、滴り落ちてくる雨水と風の音だけがそれを伝えてくれてた。
「この調子じゃあ、嵐はまだまだ居座りそうだな……。今日はこれで休んで、明日に備えよう」
「それで?」
腰に手をあてて、その先のことを聞くトラップにクレイが説明する。
「ゴブリンたちがいた場所以外に別の道がないか、もう一度探そう。それでも道がなかったら…」
「強行突破ってことだな」
「あぁ」
うなずきあった2人を見て、キットンが明るい声で言う。
「明日には、ゴブリンたちも移動していて、いないかもしれないですしね」
「そうね」
本当にそうなってるとうれしいんだけど…ね!
ゴブリンたちがいつやってくるかもわからないので、わたしたちは昨夜泊まった部屋まで移動して休んだ。
次の日。時間はわからなかったけど、見張りをしてたクレイがみんなを起こしてくれた。
支度を整えて、まずは1番最初に行った部屋に行くことにしたんだ。
そういえばそこに続く道って、他のところと手触りが違うのよね。他の所は、ぼこぼこしてても触っるとつるっとしてる鍾乳石。ここのはぼこぼこしてる見た目は一緒なんだけど、触るとざらざらしてるんだよね。それに、とっても通りやすい道が続いてるっていうか…。
よくあるじゃない? 入口は大きいけど、入ってみたらだんだん狭くなってる…とか、途中、岩が出っ張ってたりしてて、頭ぶつけそうになったり…とか。
そういうのがないの。
これって…何かあるのかなぁ?
行き止まりになってる部屋に入ったわたしたちは、あたりをキョロキョロ見回した。
トラップが細かく部屋を探し出したのを見て、わたしも手伝わなきゃ…と思ったのがそもそもの間違いだったのよね。
「あ、トラップ。わたしも手伝うよ」
何の気なしに歩いて行って、ある1か所を踏んだとき、嫌な音が耳に響いた。
「え?」
ふと右側を見ると、石壁だと思ってた一部がわたしの方に倒れてきてたの!!
「……パステルっ!!」
避けることも思いつかなくてその場で固まるしかなかったわたしに、何かがドンとぶつかった。
わけのわからないまま、ごろごろと転がった感覚があって、一瞬後にはズゥン…と重く響く音が聞こえた。
あ、れ? 痛く…ない? もしかして……わたし、生きてる?
つぶされたような痛みもなくって、おそるおそる目を開けて見たんだけど、目の前は真っ暗。なんで真っ暗なのかも全然理解できないまま、今度は自分の手を動かそうとしたんだけど、何かが身体に巻きついてて動けないの。
今思うと、それがどうしてなのか思いつけないほど、動転してたんだよね。
次の瞬間、パッと視界が明るくなって最初に目に映ったのは、真剣に怒ってるトラップの顔だった。
そう、わたし、トラップの腕の中にいたんだ。動けないままのわたしに飛びついて、罠から助けてくれてたの。
「おめぇはバカか! 罠があるから気をつけろって言っただろうがっ!!!」
「ご、ごめん……」
そんな言い方ないじゃん、と言いたくもなったけど、本当に心配させたのがわかってたから謝ることしかできなかった。
昨日、気をつけなきゃって思ってたはずなのに、思った自分が忘れてたら意味がないよね……。
トラップは息を荒げたまま立ち上がって、わたしから視線をそらした。
「ぱ…ぱーるぅっ!!」
「ルーミィ」
ブルーアイから涙を溢れさせながらわたしの方に駆けて来るルーミィを受け止め、その頭を撫ぜてやる。
「大丈夫よ。トラップが助けてくれたから」
ギュッとやわらかな身体を抱きしめながら辺りを窺うと、側には完全に地面に倒れた壁があった。
あのままトラップに助けてもらえなかったら、今ごろ下敷きになって……。
考えたとたん、ザッと全身の血の気が引いた。自分の意志とは関係なく身体の内側から震えが起こって、止めようと思っても止められないの。
「パステル……」
「ク…クレイ、心配かけて、ご、ごめんね。ちゃんとマッピングして…たのに、わたしが忘れちゃうなんて…ホ、ホント……」
責めるわけでもなく、本当に心配したって表情のクレイの横で、キットンとノルが微笑む。
「無事で本当によかったですよ」
「あぁ」
きっとトラップみたいにわたしに言いたいこといっぱいあったと思う。でも、震えの止まらないわたしを安心させようとしてくれたんだろうね。みんなの優しい笑顔にほっとして、ポロリと涙がこぼれてた。
ポンっと頭を触られて見上げると、そこには仏頂面ではあったけどさっきよりも落ち着いた感じのトラップ。
「バカだけどな、おめぇのおかげで道が開けたぜ」
「え…?」
指さされた先、倒れてきた壁の向こう側には石造りの階段があったの。
「この様子を見ると…この道は人間が作ったものだったのかもしれませんねぇ」
人間が作ったものって…?
首を傾げてキットンを見ると、得意そうに答えてくれる。
「罠の向こうに階段があるわけですからね。モンスターには入れないように人間が作ったと考えるのが妥当かと」
「そうかもしれないな」
「ってことは、この先は出口ってことか?」
「その可能性もありますね」
そんなことを話してるうちに、どうもみつけた階段を進んでみることに決まったみたい。
怪我の功名というのかなんというのか…ちょっと複雑な気持ちだなぁ。
そんな会話を聞いているうちに、ほとんど震えもおさまった。ルーミィもわたしの様子を見て泣き止んでくれたから、それじゃあ出発しようということになって立ち上がった。
ノルにルーミィを預けて、ゆっくりと階段を上る。
これからがまた長くて……。ダラダラと低い間隔の階段がずーっと続いてて、途中で休憩を入れながら進んだんだ。
あ、そうそう。この罠、ちゃーんと階段側から元に戻す仕掛けがあったんだ。
キットンの言うとおり誰かがこの道を作ったのかもしれないよね。
もうこれ以上進めない、ってところまで来たところで、トラップがバッチリ仕掛けを発見してくれた。壁にあった小さなボタンを押したら、天上がゆっくりとスライドして……開いた先には、夜空が広がってた。
出てきたところは、わたしたちが洞窟に入った場所がある崖の上。つる草や苔に隠された石碑の下に、階段が続いてたの。
いつの間にか嵐もすっかりおさまって、月と星がとってもきれいだった。
「これだったら、そのまま待ってても入口から出られたかもね」
まだ強い風に頬を撫ぜられながらそう言うと、キットンがギャハハと笑う。
「でも、わたしたちのおかげで別の道もみつけられたということですし、よかったんじゃないですか?」
「この道ならモンスターと出会う確率も格段に減るだろうし、潮の満ち引きも関係ないしな」
えぇぇ? もうっ…クレイまで一緒になって笑わなくてもいいじゃない!
確かに、苔を頼んだ本人は嬉しいかもしれないけどさぁ、危ない目にあいそうになったわたしの気持ちも考えてほしいなぁ……。
「そうだ。苔は無事か?」
「朝、見たときは大丈夫だった」
クレイの言葉に、ノルがリュックにしまっておいた苔を出したとき、ほんのりと周囲が明るくなった。
「何、これ!」
「光ってるデシ!」
よく見ると、真っ黒だった苔の所々に小さな光がキラキラしてたの!
「おほしさまみたいだお」
「ホント…お星さまみたいね」
丁度、今の夜空みたい。
闇に瞬く光。小さな星々。
「きれいだね」
みんなでしばらくの間それを見つめていた。
ぐぅぅぅ……
突然、静かだったあたりに響いたのは……お腹の音。そういえば、朝食以来、まともに食べてないんだった。休憩したときに、チョコとか少しずつ摘んではいたんだけどね。
「ルーミィ、おなかぺっこぺこだおう」
「わたしもぺっこぺこ!」
「うまい飯が食べたいな」
「暖かいものをお腹いっぱい食べたいですねぇ〜」
「そうだな」
みんなで顔を見合わせて、笑いあう。
「さっさと帰ろうぜ! 目的も果たしたことだし、こんなとこに長居する必要はねぇ」
「はいデシ!」
ずっと歩きっぱなしで疲れてたはずなのに、ご飯を食べるって目的ができると不思議なものだよね。足どりも軽くなって、わたしたちはすぐ近くの町を目指して歩き始めた。
あ〜! 早くお腹いっぱいおいしいご飯が食べたいな〜!
- end -
2013-11-23
「TRAP FESTA」参加作品です。
クエストもものも書きたいな…ということで。
屑深星夜 2007.7.28完成