夕立
「うわっ!! 雨だっ!!」
ついさきほどまで晴れていたはずの空がいつの間にか雲に覆われ、そこから大粒の雨が降ってきた。
「夕立か……どこかやり過ごせる場所へ行くぞ!」
「クノック、お願いね!」
自らの主人の言葉を聞いた瞬間、スピードを上げたクノックは、一番前を歩いていたオルバを追い越し、左手にかすかに見える岩山の方へと走っていった。
「あ、アニエス、待ってよ!!」
「おらっ、急げよ!」
チラッと自分の方を見てそう言うと、オルバはさっさとクノックの後を追っていってしまった。
「ちょ…待ってよ! この荷物持って早く走るのは無理だよ!」
「オルバ、待て、ギィーッス!!」
残されたデュアンは、重い荷物を抱えながら、チェックと一緒に少しずつ後を追った。
「やっと…追いついたぁ……」
先に、岩陰で雨宿りをしていたアニエスとオルバにデュアンたちが追いついた頃には、雨はさらに強くなっていた。
「お疲れさん」
「手伝ってくれたってよかったのにさ……」
「荷物持ちでもなんでもやるって言って俺についてきたんじゃなかったか?」
オルバがにやりと笑って、デュアンを見ると彼は、うっと言葉に詰まった。
「それは、そうだけど……」
それ以上何も言えなくなったデュアンは、荷物を下に降ろし、岩肌に背を預けてしゃがみこむ。
そして、雨に濡れてべったりと額に張り付いた髪を横によけ、リュックの中からタオルを探し出した。
デュアンが頭や服を拭いているのを横目で見ながら、オルバが口を開く。
「んな長い時間はかからねぇとは思うが、早めにあがってくれねぇと困るな」
「今日の目的地につけなくなりそうなの?」
「まぁ、そうだな」
「早くあがれ、ギィーッス!」
2人の会話を聞いて、チェックがデュアンの肩の上で叫んだ。
しかし、その声は雨音に消され、辺りに響くことはなかった。
雨はますます強くなり、地面ではねる雨粒は、少しずつ大きな水溜りになっていった。
「……ま、いいかげん暑くてたまんなかったからな。湿度は上がるが、丁度よかったかもしれねぇな」
ポツリとそう言ったオルバを見ると、肩をすくめて笑っていた。
デュアンは微笑してその言葉に答えた。
雨は予定を狂わせるほど長くは降らなかった。
再び太陽が顔を出し、辺りを照らし始めたとき、チェックが空を指差した。
「デュアン、虹だ! ギィーッス!」
彼らは少しの間、空にかかる七色の橋を無言で見つめていた。
fin
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