12月1日






「ただいま〜」
「あ、おかえり!」
「おかえいだお!」
 ガチャリと開いたドアの向こうはもうすっかり夜の色。
そこから、冷たい空気をまとったクレイたちが入ってきた。
「みんなお疲れさま。寒かったでしょう?」
「あーさみぃぜ。なんでおれたちがんなこと…」
 薄手の上着の上から自分の両腕をさすってるのはトラップ。
日が暮れたら寒くなるのはあたりまえなのに、厚着していかなかったみたい。



 毎年、12月1日は、町中にクリスマスの飾り付けをする日なの。
この日、町の男の人たちはみんな、お昼までで自分の仕事を切り上げて作業に参加するのよ。
 広場の大きな木の飾り付けをしたり、並木道にイルミネーションを取り付けたりするんだ。
 作業が終わった夜からは、クリスマスムードたっぷり。
おかげで、もうすぐなんだなって実感できるのよね!



「わたしたちだってシルバーリーブの住人なんだから、参加してあたりまえでしょ?」
「へぇへぇ」
 肩をすくめながらイスに座ったトラップが本当に寒そうだったから、あったかい飲み物でも入れてあげようかな、と立ち上がってキッチンに向かった。
「あ、ねぇ。それで、飾り付けは?」
 カチャカチャとカップの準備をしながら聞くと、クレイとキットンが微笑みあうの。
「無事に完了したよ」
「えぇ。大変でしたけど、イルミネーションの電源が入ると感動しますね〜」
「見るのが楽しみね! ルーミィ」
「たのしみだお!」
 コーヒーとココアを入れながら、テーブルにいるルーミィと視線を交わす。
「? クレイしゃん、その袋、なんデシ?」
 クレイの足元で、シロちゃんが小さな声で聞いた。
 そんなの持ってたかな? と思ってクレイを見ると、右手に紙袋を下げてた。
「ああ、これ?」
 ひょいとそれを持ち上げてテーブルの上に置いた彼は、その中に手を入れて、大きな金色のベルを取り出した。
「ツリーであまった飾りだよ。よかったら旅館でも何か飾ってくれって」
 お盆に乗せてコーヒーを持っていく間に、赤いリボン、プレゼントや丸い飾りなどが次々を並べられてた。
「きえーだお!」
「そうデシね!」
 キラキラした瞳でテーブルの上の飾りを見つめるルーミィたちを見ながら、わたしたちはコーヒーをひと口飲んだ。
「あー…あったけ」
 そんな中、トラップはカップを両手で包んで温まってたの。
 その姿をみて苦笑するクレイ。
「お前、コーヒーで温まる前にもっと服を着てこいよ」
「取りに行くのがめんどくせーんだよ」
「風邪、ひく」
 大きな手でカップを持ったノルも少し心配そうにそう言った。
「そうですよ。それで看病するのはわたしやパステルですよ? いい迷惑ですから、早い所何か着てください」
「あーもー…わかったよ!」
 ドンとテーブルにカップを置いたトラップは、ぶつぶつと文句を言いながら上着を取りに行ったの。
「帰ってきたときに早く取りに行ってればよかったのに」
「だよな」
 言いながら、クスクスとみんなで笑いあった。
「ね、ぱーるぅ! こえでなにすうんだ?」
「え? そうね〜…旅館にはツリーになりそうな木はないからね」
 ルーミィの期待に満ちたブルーアイに見つめられながら、わたしは一生懸命頭を働かせる。
 すると、ノルが優しい顔でこう言うの。
「いい木、探そうか?」
 あ、それいいかも!
広場みたいに生の木でツリーを作ると、とっても味わい深くなるし。
 でも、キットンのこの声で、またまた考え直すことになる。
「しかし、この飾りの大きさに合う木を探すとなると、とっても大きくなりますよ」
「それだと置き場に困るな」
「そうよね〜」
 もともとは広場にある、2階建ての家の高さと同じくらいある木のための飾りなわけでしょ?
バランスを考えるとそれくらいの大きさの木が一番いいんだろうけど、置く場所にも困るし、切って持ってくるのも大変じゃない!
 じゃあ、どうしようか…とみんなでまた悩みはじめたそのとき、
「別に木にこだわる必要はねぇだろうが」
後ろから呆れたようなトラップの言葉が聞こえた。
 振り向くと、ちゃんとあったかいコートに着替えてきたトラップが、腕組みして立ってたの。
 木にこだわらなくてもいい?
「あ!!」
 そう思ったらいいアイディアが浮かんできちゃった!
「ね、こんなのどうかな?」
 頭の中に生まれたイメージをみんなに話す。
「いいと、思う」
「イルミネーションも余ってたと思いますから、それを借りて来ましょうか」
「パステルにしちゃ、上出来だな」
「トラップは一言余計!」
 もうっ、せっかくみんなに褒められていい気分だったのに、台無しじゃない!
 そんなわたしとトラップの様子を見ながら、クレイがクスクス笑うの。
「じゃあ、おかみさんに了解とってから実行だな」
「ルーミィしゃん、楽しみデシね!」
「うん!」
 2人のうれしそうな顔を見ながら、わたしは、ほんわり暖かいコーヒーをひと口飲んだ。






―― 次の日の夜。
 みすず旅館の壁には、イルミネーションで作ったツリーが光り、様々な飾りがぶら下がっていた。




 クリスマスまで、あと少し。




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