12月18日






「これで、いいかな」
「うん、いい感じ!」
 パステルとノルが、旅館のドアに緑色のモミの葉っぱで作られたリースを飾っていると、ルーミィたちが帰ってきた。
 いつの間にか、もう夕方だ。
「ぱーるぅ! ただいまだお!」
「わんデシ!」
「ルーミィ、シロちゃん、おかえり」
「おかえり」
 パステルが自分の手で、真っ赤になったルーミィのほっペを包む。
冷たいがほわっとした暖かさが伝わってきて、自然と笑みが零れる。
「パステルおねーしゃん。それ、何デシか?」
 シロの視線は、ドアにつけられたものを見ていた。
そんな彼の頭を優しくなぜながらパステルが答える。
「クリスマスリースよ」
「メルが、送ってくれた」
「メルしゃんが送ってくれたんデシね! よかったデシね、ノルしゃん」
 うれしそうなノルに、シロはパタパタとしっぽを振った。
「みどいがきえいだお」
「生のモミの葉を使ってるからね」
 ルーミィと同じ視線からリースを見ると、不思議と立っていたときよりきれいに見えた。
「まつぼっくりがついてるんデシね」
「そうよ。また次の年もたくさんの食べ物がとれますようにって願いが込められてるんだって」
「じゃ、ベルはどうしてつけられてるんデシ?」
 首を傾げて自分を見るシロに、パステルは立ち上がって金色のベルをチリリ…と鳴らす。
「ベルの音が、悪いものが近寄れないようにしてくれるの」
「そうなんデシか」
「う〜ん…後1つ、ヒイラギがあれば完璧なんだけどなぁ」
 ふんふんとうなずくシロの横で、パステルは少し残念そうに腕を組んだ。
「ただいま」
「あ、おかえり」
「くりぇい、とりゃー、おかえい!」
 背後からの声に振り向くと、クレイとトラップが立っていた。
 バイト帰りに一緒になったらしい。 
「おっ、リースじゃねぇか。いつ買ったんだよ」
「違うわよ。メルが作って送ってくれたの」
「へ〜、手作りか」
 ひょいひょいとドアに近づいたトラップは、それを聞いて感心したようで、まじまじとリースを見る。
 モミの葉や、リボンに触るトラップを見ながら、クレイが口を開く。
「あぁ、ヒイラギがないんだ。だからヒイラギがあれば…って言ってたんだね」
「そうなの。メルのところじゃみつからなかったんだって」
 そうか、とうなづく彼の足元にちょこちょことやってきたシロ。
「そのヒイラギは、なんでリースにつけるんデシ?」
「ヒイラギは…確か、赤い実が太陽の炎とか生命を表してて、葉っぱの刺がベルの音と同じで魔よけになるからだよ」
「よく知ってるわね、クレイ」
 驚くパステルに、少し照れ笑いしたクレイが肩をすくめる。
「家で毎年飾られてたからね。母さんが教えてくれたんだ」
「そういや、この何倍もあるでっけーのが飾ってあったよな」
 懐かしそうに会話に交じってきたトラップは、旅館のドアを見ながらも、クレイの家のリースを想像しているようだ。
 何倍もある、と聞いたパステルたちも一体どんなものなんだろうと、メルのリースを見ながらじっと考えている。
 しかし、そのイメージは、能天気な声によって消えてなくなることになる。
「おや、みなさん。そんなところでどうしたんですか?」
「キットン! おかえり」
 パーティのそれぞれがキットンに声をかける。
 彼の視線は、仲間をひと通り見た後、ドアにある緑色のものに固定された。
「あぁ、リースをつけてたんですね。もうすぐクリスマスですねぇ〜」
「でも、ヒイラギがなくって……キットン、ヒイラギが生えてるところ知らない?」
 キットンなら知っているかも、とリースが届いたときから考えていたパステルは、ようやくそれを当人に聞くことができた。
 聞かれた方はというと、
「ヒイラギ?」
言いながら、リースにヒイラギがついてないのを確認する。
そして、弾かれたように大声で笑い始めたのだ。
「ギャハハハハハっ!!」
「キットン! うるせぇぞっ!」
「ギャッ! 痛いじゃないですか、トラップ!」
 ポコンと頭を叩かれたキットンは、叩いた本人に向かって拳を上げる。
しかし、とっくに手の届かない場所へと逃げていたトラップを見て、ため息をついた。
「突然笑い出してどうしたんだよ」
「あぁ、そうでした!」
 クレイにそう声をかけられて、自分が何を考えて笑ったのかを思い出したキットン。
さっきとは違い、不気味な笑い声を出し始めた。
「グフグフグフ……これ、これですよっ!」
 そう言いながら、肩から下げていた鞄の中から取り出したのは…パステルが求めていたもの。
 刺のある濃い緑の葉に、赤い実がいくつもついたヒイラギの枝だった。
「えぇっ…うそ!」
「今日、森で丁度みつけましてね。あまりいい薬草がみつからなかったので、変わりに摘んできたところだったんですよ」
 ボリボリと頭をかくキットンに、呆れたようなトラップの声が飛ぶ。
「タイミングよすぎだろ」
「ですよねー! ギャハハハ…っ!」
 再び大きな声で笑い出したキットンから、ヒイラギの枝をもらうパステル。
 うるさそうにしているが、目の奥底は笑っている。
「これでリースも完璧ね!」
「そう、だな」
 ノルと笑いあった後、リースの右下の空いたスペースにヒイラギの枝を差し込んだ。







 クリスマスは、もうすぐそこ。




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