12月24日






 ―― 朝



 まだ深い夢の国を冒険している、ルーミィの腕の中から抜け出したシロは、静かに部屋を抜け出して外へ出た。
 ヒュウ…と冷たい風が通り抜け、一瞬目を閉じる。
白い毛を揺らしていったそれは、吐いた白い息もさらっていった。
 真っ黒の瞳を上へ向けると、そこには少し霞んだ青色の空が広がっていた。
「……いい天気デシ…」
 いい天気のどこが悪いのか、悲しそうに首を垂れたシロは、はぁ…とため息をつく。
「このままじゃ、ホワイトクリスマスにならないデシ……」
 空を舞う小鳥の声が、高く高く無邪気に響く。
「お願いデシ……雪しゃん、降ってくださいデシ!」
 キッと空を再び見上げた彼の頭の中では、真っ白な風景の中に立って笑っているパステルがいた。





 ―― 夕方



 西に沈む太陽が雲に阻まれ、夜の訪れが早く感じるシルバーリーブ商店街。
 すでにイルミネーションも点灯され、通りには、クリスマスソングが流れている。
 人々は、楽しげに笑いながら、早足で家路についているようだった。
 そんな中、配達のバイトを終えたトラップの足は…ある店の前で止まっていた。
 彼の視線は、小さな小物から、アクセサリー、文具まで置いてあるその店先。
クリスマスのイラストの入った小さなカードに向けられていた。



 バイトで手紙を配達していたトラップは、最近、グリーティングカードが多いことに気付いていた。
 もちろん、昨日よりも今日の方が多い。
 イラストは様々…サンタやトナカイ、スノーマン、ツリー、リース、天使など。
 思いを込めて選ばれただろうそれらは、遠く離れた家族から、いつも顔を合わせる友達まで、あらゆる人へ向けて贈られている。



 ここ数日、そんな人々の心に触れていたトラップ。
 頭の中には、もうあたりまえのようにそばにいる仲間たちの姿。
 ちっ…と小さく舌打ちした彼は、ズボンのポケットに入れていた手を出し、6枚セットのカードをつかんだ。



「今日は一段とさみぃな……」
 声と一緒に白い息が宙へと上る。
 店員から受け取った小さな紙袋を脇にはさんだトラップは、寒そうに首をすくめながら旅館への道を歩いて行った。





 ―― 夜



 すっかり暗くなった窓の外は、キラキラとイルミネーションの光で彩られている。
 そんな中、みすず旅館の一室では…パステルがガサゴソと何かをしている。
 手には小さな赤いリボン。
 それを、何かが入っているツリーの絵がプリントされた紙袋につけているようだ。
 彼女のベッドには、中に何かが入っている大きな白い布袋が置いてある。
「これでよしっ…と!」
 ポンポンと、軽く紙袋を叩いたパステルは満足そうに微笑んだ。
『パステルー! そろそろ猪鹿亭へ行く時間だぞ!』
「あ、はーい!!」
 階下から聞こえた声に、返事をした彼女は、ベッドに置いた袋の上にふわりと毛布をかぶせる。
 そして、薄いピンク色のコートを着て、オレンジ色のマフラーをした後、最後にラッピングしていた紙袋を持った。
『ぱーるぅ!! はやくぅー!』
「今行くからー!」
 自分を呼ぶ声に答えながら、バタバタとあわただしく部屋を出た。



「あんまりにも遅ぇから、置いてこうかと思ったぜ」
 階段に差し掛かったとき、意地悪そうな声がパステルを出迎えた。
「ごめんごめん! リタへのプレゼント、用意してたのよ」
 降りながら、持っていた紙袋を見せる。
 それを見るか見ないかのうちに、声の主 ―― トラップは、外へ向かっていた。
「中身は何ですか?」
 キットンが、それに続いて歩きながら聞いた。
「マフラーよ。ピンクのふわふわのやつ」
「ふあふあ、あったかいお!」
「リタしゃんもきっと喜んでくれるデシね」
 シロとルーミィは1階にたどり着いたパステルに笑いかけると、仲良く外へと歩いて行った。
 旅館から一歩出たとたん、ビュウと吹く風に震えが走る。
「うぅ、寒っ……」
 白く立ち上った息が、闇に溶けて消えていく。
「もう、パーティーはじまってるかもしれないな」
「わたしが遅かったから…ごめんね! 急ご!」
 後から出てきたクレイとうなずきあうと、2人は少し先を歩く仲間の下へ駆け出した。







 クリスマスは、いよいよ明日。




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