12月25日






 12月25日 ―― クリスマスの朝。



「ぱーるぅ!! おきるお!!」
「みなしゃん、起きてくださいデシ!!」
 わたしたちは、2つの歓喜の声によって、心地いい眠りから叩き起こされた。
「ルーミィ…? シロ…?」
「んー…? なぁにぃ…?」
「…んだよ…もう少し寝かせろよ……」
「なんなんですかぁ…?」
 みんな眠い目をなんとか開けることはできたんだけど、まだ身体は起こせない状態。
 特に、昨日は猪鹿亭で遅くまでパーティーしてたからね。
 わたしはお酒はやめといたんだけど、クレイたちはビールとかぐいぐい飲んでたから、もっと辛いんじゃないかな?
 よいしょっ…と重たい頭を動かして、自分のすぐ横にいたルーミィのブルーアイを見る。
 それはとってもキラキラしてて、興奮してるせいか、ほっペがちょっと赤かった。
「さんたさん、きたんだお!!」
「来たんデシ!!」
「よかったな、ルーミィ、シロ」
「うん! のりゅ!」
「はいデシ!」
 いつの間に起きてたのか(たぶん、誰よりも早く起きてたんじゃないかな?)、ノルが嬉しくてたまらない様子の2人に優しく微笑んでた。
 そんなやりとりをボーっと見てるうちに、ようやく頭がはっきりしてきたの。
 ゆっくり身体を起こしたら、他のみんなも眠いながらも起き上がりはじめたとこだった。
 プレゼントをもらってうれしいのね。
 ルーミィとシロちゃんは、赤くて大きな、毛糸の靴下の中入ってたお菓子を、ひとつずつ取り出してはニコニコと眺めてる。
 2人の周りには、小さなお菓子がバラバラと落ちてたわ。
「サンタさんに、お菓子頼んだの?」
「そうらお!」
「あと、パステルおねーしゃんたちと一緒にいたいっておねがいしたんデシ!」
「おきたあ、ぱーるぅたち、ルーミィとしおちゃんといっしょにいたお!」
「サンタしゃんってすごいデシ!」
 やったね、クレイ! 大成功!
 キャッキャッともりあがる彼らを横目に、わたしはクレイと目配せした。
「でも…いつの間に僕たちをここに運んだんデシかね?」
「あぁ? そりゃ、お前たちが寝た後に…」
「ちょ…トラップ!!」
 シロちゃんの疑問に、寝起きで超不機嫌顔のトラップが口を滑らしそうになるもんだから、急いで口を塞ぐ。
 ルーミィたちを喜ばせられたっていう、さっきまでのいい気分はどこへやら。
 心臓がドキッと大きく跳ねたと思ったら、一気に心拍数があがったわよ。
 もう! 内緒にしといてってちゃんと頼んどいたでしょ!!
 口には出さなかったけど、そんな気持ちを込めてキッと睨むんだけど、まだ半分目がつぶれてて見えてないみたい。
「なんだお? とりゃー」
「トラップあんちゃん、何か知ってるデシか!?」
 そんなトラップに、2人が詰め寄るんだけど…その口はわたしがしっかり押さえてた。
 だって、目が覚めてない状態じゃ、また余計なことを言いそうじゃない?
「知らないわよ。ね? トラップ」
 無理やりうなずかせたんだけど、これじゃルーミィたちも納得してくれるはずない。
 だから、こっちを見てる2人の背後にいたクレイを必死に見つめる。
 お願いっ! なんとかごまかして〜!!
 こういうの苦手なクレイなのはわかってたけどさ、キットン、こっち見てないんだもん。
 頼まれた方は、焦った様子で視線をさまよわせる。
「い、いやぁ…おれたちも知らないから…き、きっと、みんなが寝た後に、気付かれないように運んだんだよ」
 言い方はどうあれ、なんとか無難なことを言ってくれてちょっとホッとするんだけど、ルーミィたちを信じさせるには至らなかったみたい。
 どうしよう!?
 何かいい言葉ないかな!?
 そう思ってたら、キットンが助け舟を出してくれたの。
「運ばれてる途中に誰も起きなかったわけですからねぇ。もしかしたら、ルーミィのフライみたいな魔法を使って運んだのかもしれませんよ?」
 ルーミィの名前が出てきたこともあって、クレイを見つめていた4つの瞳が一瞬にしてキットンの方を向いた。
 さっすがキットン!
 わたしも、ここぞとばかりにその話題に乗っかる。
「そうかも! それに、サンタさんは、ひとりで世界中の子どもたちにプレゼントを配るんだもの、魔法が使えてもおかしくないわね」
「ルーミィとおんなじまほーつかいか?」
「かもしれないね」
 ニコリと微笑むと、ルーミィとシロちゃんはまたキラキラした瞳に戻って、もらったプレゼントのお菓子を再び触りはじめた。
 もう大丈夫…かな?
 んもう! トラップがあんなこと言わなきゃ、こんなに焦らなくてもよかったのに。
 責めるような目で彼を見ると、やっと目が覚めたのか、バツの悪そうな顔してポリポリと頭をかいていた。
 それを見ながら大きく息を吐いたら、朝になったらやろうと思ってたことを思い出した。
 起きてからここまで、思い出す余裕がなかったのもあるんだけどね。
「あ、そうだ! 丁度、みんないるから…渡しとくね!」
 そう言って、昨日の夜に納屋へ持ってきておいた白い大きな布袋を、自分の側に寄せる。
 わたしの言葉に視線を寄せたみんなに、ちょっと照れながら笑ってみせた。
「わたしからみんなへのクリスマスプレゼント」
 ゴソゴソと袋の中から、手に取った物を、順に1つずつ取り出す。
 最初に出てきたのは、マフラーだった。
「マフラーは…ノルに。バイトの時とかに使ってね!」
「ありがとう」
 大きな手でそれを受け取ったノルが、つぶらな瞳を細めて言ってくれた。
「次は…耳あてだから、キットン。薬草取ったりするのに、これなら邪魔にならないかなって思って」
「ありがとうございます」
 ぺこりとお辞儀して受け取ったキットンは、早速それをつけ始める。
「手袋はトラップね。バイト中、手が冷たいと辛いでしょ? はい」
「……おう」
 これ、気に入ってくれた…かな?
 ギュって、それを握ったのを見て、少し嬉しくなっちゃった。
「あと、クレイにはセーター…は大変だったから、チョッキね。寒い日とかに着てね」
「ありがとう、パステル」
 嬉しそうに優しく微笑みかけてくれるクレイ。
「ルーミィにはあったかい靴下。外に遊びに行くときにはいてね」
「うん!」
 思いっきり首を縦に振る様子…すんごく喜んでくれてるみたい!
「最後…シロちゃんには、帽子!」
 言いながら、彼の頭の上にポスンとかぶせたのは…サンタさんみたいな三角帽子。
 でも、色は他のみんなと一緒で、とってもきれいなグリーン。
「使ってね」
「ありがとさんデシ!」
 ピョンピョン跳ね回ってルーミィと喜び合うシロちゃん。
 2ヶ月前にこの新緑の色みたいな毛糸を見つけてから、頑張って作ってよかった!
みんなの喜んだ顔を見たら、苦労したことなんてすっかり忘れちゃった。
 とっても満足した気持ちで、みんなを見てたら…急にトラップが立ち上がった。
「……やる」
 全員が彼に注目する以前に、ポイポイっと雑に投げてよこされたものは、ひらひらとそれぞれの手の届く位置に落ちる。
 さっすがトラップ!
 変な所で関心しながら、その手のひらサイズの白い封筒を開けてみた。
「なに? これ…」
 中に入ってたのは小さな紙。
 クリスマスのグリーティングカードだったの。

 あれ? まだ中にも入ってる…?

 わたしのは可愛らしい天使のイラスト。
 ルーミィとシロちゃんのを見せてもらったら、サンタとスノーマンだった。
「トラップ…」
「あ――…腹減った!」
 中を見たクレイが何か言おうとするのを、大声出して遮った。
 こちらに背を向けて、納屋の入口に立つトラップの顔は全く見えない。
 もしかして、柄にもないことをして照れてる…?
 思わずクスリと笑みが零れる。
 トラップはそれを感じたのか、
「おれは先に猪鹿亭へ行くからな!」
そう言って、ガタリッ…と納屋の戸を勢いよく開けた。




 その瞬間に広がるまっ白な世界。
 戸の向こう側の見慣れた景色が…一面、雪に覆われてたの。




 予想してなかった風景に、わたしたちはもちろん、外へ行こうとしてたトラップもその場に固まっちゃった。
 少しして、一番最初に我に返ったのは、シロちゃんだった。
 タタタッと外へ走って行って、キョロキョロと周りを確かめる。
 そして一言。
「ホワイトクリスマスになったデシっ!!」
「ゆきだお!! わーい!!」
 ルーミィも、シロちゃんを追って外へ出て行ってしまった。
「空しゃん、雪、降らせてくれて、ありがとさんデシっ!!」





 思いがけないクリスマスプレゼント。
 素晴らしい、天からの贈り物。






 あなたにも、きっと素晴らしい何かが届くはず。



 ほら、ね?







 Merry Christmas!




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