新年初めての夜。いつもならほとんどの家の明かりが消え、闇の広がる夜中だったが、昨日に引き続いて今日も、多くの暖かい灯がともっていた。
「ルーミィ、ルーミィ、起きて」
「…ん〜……」
パステルは、そう言ってベッドの上に丸くなって眠っている小さな身体を揺らした。しかし、当の本人は全く起きる様子は無く、眠そうな声をあげて、ゴロンと寝返りをうった。その様子を見て、トラップが肩をすくめる。
「……やっぱ、無理だったみてぇだな」
「昨日起きてられなかったから、今日こそはって言ってたのになぁ」
剣を研ぐ手を止めて、微笑むクレイに、薬草をより分けながらキットンが言う。
「まぁ、仕方ないでしょう。いつもはもっと早く眠ってるんですし」
「ルーミィ、頑張った」
ノルも、にっこり笑ってうなずく。パステルはその様子を横目に見ながら、ルーミィと、その隣に寄り添うように眠っているシロに笑顔を向けた。
「…おやすみ、いい夢見てね」
「……………」
雲ひとつ無い青空の下、シルバーブロンドの髪を風になびかせ、何かを見上げているルーミィがいた。
「ルーミィーしゃーん!!」
呼ばれて振り向くと、緑の大地の上を駆け寄ってくるシロがいた。
「ここで何してるんデシか?」
「あのね、ルーミィね、あのおっきなお山、見てたんだお」
指差す方向を見ると、天にも届きそうなくらい大きい山があった。
「うわ〜…ホントにおっきいデシね」
それ以上の言葉が出ないのか、半ば口を開いたまま、てっぺんに雪をかぶったその山を見つめていた。そんな時、2人の視界にすいっと飛び込む影があった。
「あ!」
「鳥さんだお!」
自分たちの頭上を、風に乗りながら旋回する姿に見とれていると、ふとシロが口を開いた。
「僕もあんなに上手に飛べたらいいんデシけど……」
「練習すればできるようになるおう!」
ルーミィが、落ち込んでいるシロを励ますと、彼は小さな羽をパタパタさせて少しだけ飛んだ。
「そうデシね! がんばるデシっ!!」
シロは飛ぶ練習をしながら…ルーミィはそれを追いかけながら草原を移動していると、遠くに小さく何かの畑が見えてきた。
「あ、何かの畑が見えてきたデシ」
その言葉に、ルーミィは走りながらその畑をじっと見つめた。シロには、こんもりと茂った緑の中に、何か黒っぽいものがなっているようにしか見えなかったが、ルーミィにはそれがきちんと見えたようで、はっきりと植物の名を口にした。
「……なすさんの畑だお」
「え?」
「………うみゅ…?」
気がついた時、目の前は見覚えのある天井だった。ルーミィはぼーっとしたまま起き上がり、部屋の中を一通り見回した後、ふと隣に目を止めた。そこには、静かな寝息を立てて眠っている、パステルとシロがいた。
あなたにも、よい夢が訪れますように ―― 願いを込めて。
- end -
2013-11-23
04'年賀もの。
初夢は1月1日の夜に見る夢だそうですね…。
屑深星夜 2003.12.31完成(2013.11.18修正)