いつか、時がくるまでは

いつか、時が来るまでは


 はぁ…。おれ、なんで野宿してんだろ…?
 漆黒の闇に瞬く星々を見上げながら、おれは物思いに耽っていた。


 おれは、クレイ。クレイ・S・アンダーソン。冒険者試験を受けるために、故郷のドーマを旅立ち、エベリンに向かっているところだ。
 本当なら、今ごろはもうエベリンに着いていてもおかしくなかったのに…まだ、ズール森の手前で野宿してるなんて…。

 それもこれも、あいつがポーカーなんかやるから…っ!

 おれは、パチパチと炎のはぜる焚き火の向こう側で、顔に帽子を乗せて眠っている、幼なじみの方を睨んだ。


 あいつの名はトラップ。盗賊団の1人息子で、おれと一緒に、冒険者試験を受けるために、故郷を出てきた。
 さすが、跡取りってこともあるのか、盗賊としての技能は相当なものだ。(毎日の厳しい修行の賜物でもあるけど)でも、口が悪くて、ギャンブル好きのトラブルメーカー…ってのがいただけない。
 今回だって、乗り合い馬車に乗ってエベリンへ行けるだけの金を持ってきていたのに、それをポーカーなんかですっちまうなんてっ! それも、借金まで作ったんだぜ!?
 おかげで、泊まってた宿屋に払う金もない、食べるための金すらなくなって…おれは、家から持ってきたアーマーを売らなきゃならなくなったんだぞ…。

 おれがため息吐くのもわかるだろ?

 今までだって、あいつが持ち込んだトラブルのせいで何度大変な目にあったことか…。
 面白半分で首突っ込んだ後、後始末するのはおれの役目だろ? 売り言葉に買い言葉、相手を煽った末にさっさと逃げちまうあいつの代わりに文句言われるのはおれだろ? あいつに貸した金が返ってきたためしはないし…。…挙げ出したらきりがないな。
 でも、なんでかこいつと離れる気にはならないんだ。一緒にいるせいで、いつも厄介ごとを背負い込んでるってのに。
 ……どうしてなんだ?

 夜空を見上げてしばらく考えるけど、理由なんか思いつきはしなかった。

 けど、こいつが隣にいないと寂しいってことだけはわかった。
 他愛もない会話をして、笑い合って、時にはケンカして…。当たり前の日常の中に、トラップがいないなんて、考えられないんだ。

 そんなこと、って他人は言うかもしれない。でも、おれにはそれが大切なこと。
 だから、おれはこいつと一緒にいるんだ。

 ……側にいる理由なんて、ほんと、些細なこと。人にはどうでもいいような理由で譲れなかったり、こだわってたりすることもいっぱいあるしな。
 でも、それが、自分にとっては唯一の真実で……。

 真実が変わらないうちは、おれはこいつと一緒にいるんだろう。


 おれは、諦めの入った息を吐いた。
 そのとき、1つの小さな星が流れた。

 流れている間に3回願い事を言うと、願いが叶うんだっけ?

 そう考えながらも、その通りに実行する気はさらさらなく。おれは、闇夜に瞬く多くの星たちに、たった1回、こう願った。


 いつか、時がくるまでは、こいつと一緒に笑い合っていられますように。 

- end -

2013-11-23

08'年賀もの。


屑深星夜 2007.12.31完成