呟きの答え

呟きの答え


 休み明けにつきものなのって…何だと思う?

 わたしは『テスト』だと思うんだよね。
 だってそうじゃない? 長い休みの後って、必ずっていっていいほど実力テストがあるんだもん。


 冬休みが終わって3学期が始まった1月。始業式の翌日から実力テストがあったの。
 宿題もたっぷり出てからそれでしっかり勉強したつもりたったんだけど、やっぱり今まで習ったところ全部が出題範囲だからね。すっかり忘れちゃってるところもあって、国語や英語は問題なかったんだけど数学がね……。
 今日返ってきた結果を見たらホント散々で。あまりの酷さに、復習と解説を兼ねた補習に強制参加させられたくらいだったんだ。

 …あ〜あ! 1年の学年末テストはびっくりするくらいよかったのになぁ〜。

 2年生から文系と理系にクラス分けされたんだけど、そのせいでトラップとはクラスが別れちゃったんだ。
 それに、部活動は2年生が中心になってやるでしょ? トラップもサッカー部が忙しくなって、木曜日にやってた勉強会も進級してからはなくなっちゃったんだよね。

 それでも、マリーナにリタとは同じクラスだから行事があればみんなで集まるし、今年も初詣に一緒に行ったり年賀状やりとりしたんだ。クラスメイトではなくなっちゃったけど、こうやって繋がりが切れていないっていうのは、彼のこと好きなわたしにしたらすっごく嬉しいことだった。


「あー…疲れたぁ! ギア先生って普段は優しいくせに、こういうときはスパルタだよね」
 靴に履き替えて昇降口から校門に向かって歩き出したわたしは、そう呟いた。
 本当は“熱心”って言うのが正解なのかもしれないけど、数学苦手な人にとっては辛いだけなんだよね…。もう、半分泣きそうになりながら問題に向き合ってたから、今も数字が目の前をちらついてすっごい嫌な気分。
 重い足取りで歩いてたら、少し離れたところから聞こえてきた音にピクリと耳が反応したの。

 あ、この声!

 …そうなの!!  校庭との境であるフェンスの向こう側で声を張り上げてたの、トラップだったんだ!
 テストが終わったから、今日から部活再開してたんだ…。
 強い風が時々校庭の砂を巻き上げてその冷たさに思わず首をすくめるくらい寒いんだけど、ボール追いかけて走り回ってるから薄着でも汗かいてるみたい。でも、それがすっごく気持ちよさそうで、生き生きと校庭を駆け回ってる姿に思わず見とれてたんだ。そうしたら…
「……何してんだよ?」
「え?」
…コートの外に出たボールを取りに来たトラップがいつの間にか目の前にいたんだよね。
 突然のことに驚いたわたしは、ジーッと見つめちゃってた視線をあちこちに散らしながら引きつった笑みを浮かべる。
「あ、あれ? トラップ? ど…どうしたの?」
「どうしたってボール取りに来たに決まってんだろ?」
「そ、そっか!」
 わたしのバカッ! いくら焦ってるからって、そんな見ればわかるようなこと聞いちゃうなんて!!
 心の中で突っ込んでたら、呆れたため息ついたトラップが肩を竦めるの。
「おめぇはこんな時間まで何してたんだよ?」
「え? えぇっと…実力テストの補習…?」
「補習〜? まーた数学かよ?」
「そ、そうだけど……」
「教えてやったときはよかったくせに、その場限りかよ?」
「!!」
 ……この言葉にわたし、ムカッときちゃったんだよね。
 トラップの言い方はからかいを含んだ感じで、わたしのことを怒ったり責めたりなんかしてなかったよ? でも、わたしのためにわざわざトラップが付き合ってくれたあの時間が、全部意味のないものだったって言われたみたいで悲しくって!

「教えてもらったとこはちゃんと覚えてるもん!」

無駄じゃなかったってことを伝えたくて、少し上にある顔を睨みつけたんだ。
 言ったことは嘘じゃないんだよ。一緒に勉強したところはなんでかちゃんと記憶に残ってて、数学が大の苦手っていうのは変わらなくても、1年生の時の基本ができてるからか赤点取るほど成績が悪かったことってないの。それくらい点数が悪かったのって今回の実力テストがはじめてなんだよ!
 そんなわたしの勢いに圧されてなのか。一瞬目を見開いたトラップは、すうっとわたしから視線を外して口を開く。

「……じゃあ、一緒に復習するか?」

「…え?」

「おい、トラップっ!!!! 何やってんだぁー! 女とイチャイチャしてないで早く戻って来ーい!!!」
「あぁ!? イチャイチャなんかしてねぇだろ!?」
 校庭の向こう側から飛んできた声に振り向いたトラップは、わたしが固まってる間に走って行っちゃった。
 自然と遠ざかる背中を視線が追う。そんなわたしの耳には、さっきの言葉が何度も何度もこだましてて……。


「……一緒に、してくれるの?」


 ポツリと飛び出した呟きに答えてくれたのは、丁度シュートを決めたトラップの気持ちよさそうな笑顔だったんだ。

- end -

2013-11-23

12'年賀もの。

またまたまた学園版で…。


屑深星夜 2011.12.31完成