一緒に

「パステルー！！　こっちこっち！」
　街灯と家々の灯り、月明かりに照らされた夜。神社の鳥居の近く、人ごみから少し離れた場所で、マリーナが手を振って立ってるのが見えた。
「マリーナ！　遅くなってごめんね！」
　薄い紫色のきれいな着物を着てる彼女の方へ行くと、側にいた黒い影がわたしに声をかけた。
「大丈夫だよ。おれたちも今さっき来たところだし」
　やさしく笑いかけてきた彼は、マリーナの彼、クレイ。黒のシンプルなコートを着て、温かそうな薄水色のマフラーと手袋をしてた。それを見て、わたしはマリーナに小さな声で話しかけた。
「よかったね！　気に入ってくれてるみたいじゃない」
　彼女は少し照れくさそうに笑った。
　実は、クレイがしてるマフラーと手袋はマリーナの手作りなの。クリスマスプレゼントにするんだって、頑張って作ってたの見てたから、クレイがつけてるのを見てわたしまで嬉しくなっちゃった。
「……なに気持ち悪ぃ笑いかたしてんだよ、おめぇは」
　溜め息と一緒に聞こえてきた声に振り向くと、暖かいダウンジャケットを着てるのに、寒そうに肩をすくめてるトラップがいたんだ。
「わたしが笑ってちゃ悪いの？」
「いーや？　ただ、そんな顔見せられるやつらが不幸かなー…ってな」
　にっと笑ってそんなこと言うトラップに思わず拳を上げたとき、ゴンっていう音と一緒に聞きなれた声がトラップの後ろから聞こえてきた。
「いてっ！」
「パステルになんてこと言ってるのよ、トラップ！」
　トラップの影から顔を出したのは、弟のルタを連れたリタだったの。
「パステルの笑顔は何でも溶かしちゃうくらい暖かくって可愛いのに、ねぇ、マリーナ」
「そうよね、リタ」
　フワフワのファーがついた白いコートを着たリタの後ろで、ルタが困ったみたいに頭をかいてた。
「あにすんだ、リタ！」
「あんたが失礼なこと言ったからでしょ？　当然の報いよ」
　リタに拳で殴られたところをさすりながらトラップが諦めの溜め息をついたのをみて、わたしはマリーナと笑い合った。
　その時、まだみんなに新年の挨拶をしてなかったことに気づいたの。
「あ、そういえばまだ言ってなかった！」
　そう言うと、みんな不思議そうな顔してわたしを見た。
「みんな、あけましておめでとう！　今年もよろしくね」
「今年もよろしく！」
　みんながそれぞれそう言いかえしてくれて、やっと新年はじまったなって気がしたんだ。
「さぁ、みんなそろったんだからそろそろ並ぼう」
「そうね、行きましょ」
　クレイの言葉にマリーナが微笑んで、みんなで神社の境内に入ることにした。


　境内には大きな焚き火があって、その横をたくさんの人が列をつくって待ってたの。まだ年が明けたすぐの深夜だっていうのに、すごい人。１人で並んでたら絶対途中で諦めそうだったけど、みんなが一緒にいたから全然気にならなかった。学校のこととか、芸能人のことなんか話してるうちに、すぐにわたしたちの番になった。
　２回礼をして、２回手を叩き、もう１回礼をする。
　そして、目を閉じた。

　今年こそ、トラップと両思いになれますように！

　そう願いながら、隣にいたトラップの横顔を盗み見る。驚くほど真剣な表情で何か願っているその姿がかっこよくって、
「何見てんだよ、パステル」
見つめていた本人にそう言われるまで目を離すことができなかった。
「だって、トラップすっごい真剣な顔だったんだもん。何願ったのかなって気になっちゃって」
　そんな言い訳しながら列から外れたわたしに、トラップがにやっと笑って肩をすくめてみせる。
「内緒だよ、内緒。言ったら叶わなねぇって言うだろ？　お前こそ、何願ったんだよ」
「教えないよーだ」
　少しだけ舌を見せてこう言うと、そんなことだと思ったとでも言うようにふぅっと息を吐いたの。わたしは、白い息に一瞬覆われたトラップの横顔を見ながら、ドキドキする心臓を抑えてこう付け足した。
「……トラップが教えてくれたら考えないでもないけど？」
　ピクリと彼の肩が動いたのがわかった。同時にわたしの心臓もドクンと高鳴る。
　本当に教えられても困るんだけど、それならそれで…言っちゃってもいいかな？　って思ったんだ。
　だって、あの願いごとがわたしの今年の目標でもあるんだもん。新年早々挑戦してみてもいいでしょ？
　そんな風にちょっと期待してたら、ぐいっっと１つに結んでた髪の毛を引っ張られた。
「ばぁーか！　お前の願いごとなんか知ってもしかたねぇだろ」
　わたしが少しバランスを崩した隙に、トラップは少し前を歩いてたクレイとマリーナのところに行っちゃったんだ。
「いったーい！！　なによぉ！　トラップのバカ！」
　その後姿に思いっきり舌を出してやった。


　リタとルタがすぐ後ろで笑ってるのに気づいたのは…ほんのちょっと後のこと。

- end -

2013-11-23

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