理由

理由


 冬休みが終わって、久しぶりの学校。わたしは下駄箱でスリッパに履き替えた後、急ぎ足で自分の教室に向かったの。


「おはよー」
「おはよ」
 クラスメイトに挨拶しながら教室に入ると、わたしの前の席に座っているマリーナが目に入った。
「マリーナ、おはよ!」
「おはよ、パステル」
「冬休み、遊べなくてごめんね。うち、いろんな人が集まるもんだからその手伝いで忙しくって」
「そういうお家も大変だね〜」
 自分の机の上に荷物を置きながら話をしてたら、
「パステル、マリーナ」
と、横からポンと肩を叩かれた。振り向くと、リタがニッコリ笑って立ってたの。
「リタ、おはよ」
「おはよ〜」
「年賀状ありがと。マリーナのすごく可愛かった」
「あ、そうそう! あれ、マリーナが描いたの?」
 あれ、って言うのは…小さな女の子が今年の干支の被り物を被ってるイラストのこと。ポップな背景や文字も組み合わせてあって、マリーナのセンスが感じられる年賀状だったんだ。
 わたしとリタに見つめられてちょっとだけ照れた様子を見せた彼女は、肩をすくめて言うの。
「全部…ってわけじゃないけどね」
「すっごーい!」
「そういうリタだって、あの筆文字かっこよかったわよ」
「あ、うんうん!!」
「ありがと」
 マリーナの言う通り、リタのは何かの書を見てるみたいだったんだ。葉書いっぱいに書かれた文字はすごく勢いがあって、何年練習したらこんなのが書けるんだろうって感じだったな。
 リタの年賀状を頭の中で思い出してたら、ふと別の年賀状が頭の中に浮かんできたの。それは、彼女のと同じ筆文字だったんだけど……。
「ねぇ、筆文字って言えば…トラップの面白かったよね?」
「え、あいつどんなの書いたの?」
 面白そうに聞いてくるマリーナを見て気がついた。
 あ、そっか。同じ家に住んでるんだもんね、トラップの年賀状もらってないんだ。
「あのね、急いで書いたってのがよくわかるような字で…」
 わたしは、簡単になんだけどもらった年賀状についてマリーナに説明したんだ。そしたら……

「あはははは!!!」

…もう、お腹を抱えて笑い出しちゃって。隣にいたリタも、きっともらった年賀状を思い出してるんだろうな。口元押さえてクスクス笑ってるの。
 つられて笑顔になりながら、わたしはそれをもらったときのことを口にする。
「それ、わざわざ元旦に届けに来てくれたんだよね」
 初詣のときに渡そうと思って忘れてた、って言ってわざわざうちまで来てくれて…。
 自転車に乗って帰ってしまったその背中を思い出してたら、リタが不思議な顔をするの。
「え? うち宛てのはちゃんとポストに入ってたけど?」

 えぇぇ?

 ポストに入ってたって…
「トラップが入れてったんじゃないの?」
「ううん。ちゃんと年賀状の束の中にあったよ」
 …ということは、郵便局の人が届けてくれたってこと、だよね?
 わけがわからなくて首を傾げてたら、マリーナが言うの。
「あいつ、25日には間に合ってなかったけど、ちゃんと年賀状書き上げて投函してたはずよ?」

「えぇっ!?」

 うそっ! それなら、うちに届けにくる必要なんかないのに、なんで!?
 声を上げて驚くわたしの目の前で、マリーナとリタはニヤニヤするだけ。
 ホントなら、その視線が居心地悪いな…と思うはずなんだけどね? でも、わたしの頭の中はトラップのことでいっぱいだったんだ。


 どうして…わたしだけ? それってもしかして…特別…だったりするの、かなぁ?


 考えても考えても、自分にその理由がわかるわけなくって。ほんのり赤くなった頬のまま、わたしは新学期の始まりを迎えたんだ。

- end -

2013-11-23

11'年賀もの。

またまた学園版で…。


屑深星夜 2010.12.31完成