「ハッピーニューイヤー!!」
「おめでとう!!」
「今年も頼むぞっ!」
新しい年へと変わったその瞬間、家を揺らすほどの声の波が起こった。酒の入ったジョッキやコップを合わせる音がひと通り聞こえ、皆が自然と笑い出す。彼らの中心には、たくさんの料理や飲み物が置かれた、いくつものテーブルがあった。
普段は20人ほどが食事する大きな食堂だが、今日だけは別。イスに座る人、立っている人、床に座っている人など…定員の倍以上の大人が、わいわいと新しい年の訪れを祝っていた。
その中に、10歳程度の男女の子どもがいた。自分たちのコップに入ったジュースを飲み干した2人は、もう一杯…とテーブルに近づく。が、その途中でドンと何かにぶち当たる。
顔を上げると、少年と同じ髪の色をした女性が、腰に手を当てて立っていた。
「はいはい、子どもはここまで。さっさとベッドで寝てきな」
「えぇー!?」
「母ちゃん! これからってときに…そりゃねーだろ? っと…」
日に焼けた顔で、にっこり笑う母の横をすり抜けようとした息子は、更に大きな壁につかまってしまう。
「まだまだだな、トラップ」
「オヤジ!!」
にぃっと意地の悪い笑みを向けるのは、ポップル酒を片手に持ったトラップの父だった。
「こっからは大人の楽しみ、ってもんよ。おら、子どもは寝た寝た!」
「んだよ! オーボー!! 今、寝に行ったって、うるさくて眠れねぇのに!」
がっちりした体格の彼に抱えられた少年は、母の立つ位置まで戻されてしまった。
「ね、母さん…どうしてもダメなの?」
せっかく12時まで起きてたのに…という呟きとともに、マリーナは茶色の瞳を曇らせる。
「明日のあんたたちのためだよ。言う通りにしておきな」
「わたしたちのため…?」
「ほら、行った行った」
笑顔で1つうなずいた母は、彼らの背を押して、寝室へと向かわせた。
無理やり寝るように言われても、すぐ側からは盗賊団の皆の騒ぎ声。自分たちも、気が高ぶって眠気すら感じない状態である。
マリーナは、トラップが他の団員とともに寝ている部屋に入り込んだ。
「んなにうるせえんだから、寝れるわけねぇっての」
ポスンと音を立てて自分のベッドに座り込んだトラップに、マリーナが言う。
「でも、母さん、わたしたちのためだからって言ってたわ」
「んだよ、おれたちのためって……」
わけわかんねぇ、とゴロンと横になったトラップを横目に、マリーナは窓に近づく。そこから見える空は澄み、満天の星空が広がっていた。
「……あ! 流れ星っ!!」
その声に起き上がったトラップは、ガタリと窓を開けて身を乗り出す。
「どこだっ!?」
寒い空気を肌で感じながら、2人で空とにらめっこして……待つこと数分。
「あ、こっち!」
指さす先に、流れ星がスゥッと線を描いて消えた。間をおかず、別の場所でも星が流れる。
いつしか無言でそれを追っていた2人の心は、落ち着きを取り戻していた。先ほどまでうるさく感じた皆の声も、心地よく耳に届く。
「なんか、とってもゆっくり眠れそう」
「……だな」
互いに笑みを交わした後、トラップはベッドに腰掛けた。それを見ながらマリーナは部屋の入口へ向かう。
「おやすみ、トラップ」
「じゃな」
パタンと閉まるドアを見届けたトラップは、ベッドに寝転び、ゆっくり瞳を閉じた。
次の朝。
母に起こされた2人は、眠い目をこすりながら玄関へ向かう。
ギィっとドアを開けた先には、待ってたと言わんばかりの父の顔。
そして ―― 赤く染まりはじめた東の空。
静かだが、少しずつ顔を出す初日。見ている者の心を熱くする、光の源。
さっきまでの眠気はどこへやら。トラップとマリーナは、身動き1つしないでそれを凝視している。その様子を見てクスリと笑った母も、視線を空へと向ける。
見つめる先は1つ。でも、思うことはそれぞれ。
今年最初の太陽は、それを見る人の心に、小さな光を灯していった。
- end -
2013-11-23
07'年賀もの。
こういう新年を迎えてるかも…という妄想から。
屑深星夜 2006.12.31完成(2013.11.18修正)