チチチ…
森のざわめきの中に響く、鳥たちの声。プカプカと水面に揺れる浮きを見ながら、少年は目を細める。
のんびりとした空気に浸る彼を楽しませているのは、水面を彩る落ち葉たち。赤や黄色、茶や橙…様々な色はもちろん、風に乗ってはらりと落ちる様、水面についた瞬間に広がる波紋もまた、時の流れを知らせてくれる。
己の身体に刻まれなくなった時間という概念を、この目に映せること。それは、少年の悲しみでもあったが、喜びでもあった。
「おきゃくさーん! そろそろおひるですよぉー!!」
背後から、少女の声が己を呼ぶ。
振り返って見た少女は、かつて、宿の看板娘だった者の面影を残しており、思わず笑みが漏れる。
「…あ、おじゃまでしたか?」
「大丈夫だよ。針はついてないから」
「え?」
「ぼくはここにいるのが好きなだけ」
竿を上げて立ち上がる少年に、首を傾げる。
「ふぅーん」
意味はわかっていないだろう。しかし、ここが好き、と言ってくれる人物に少女嬉しそうに笑みを浮かべる。
そんな彼女の背を押して、少年は宿へと向かう。
ぼくはね。“君”に会いにきたんだ。
ひそり、心の中で呟いて。
- end -
2013-11-23
Twitterで「CPなしの幻水キャラのお話」というリクエストをいただきまして、書いてみた作品です。
遠い遠い未来のバナーの村のイメージです。
屑深星夜 2013.2.21完成