新しい世界へ

新しい世界へ


 広大な大地の向こう側から顔を出した太陽の欠片。夜と昼との混じった空と交わる地平の果てから光が広がっていく。
 元々緑の少ない土地ではあるが、この枯れた大地を照らすそれは、新しい年を迎えるにふさわしい神々しさがある。とはいえ、強い風にバンダナと外套をはためかせながら立ち尽くす“少年”にとっては、ただ目の前を過ぎていくだけの何の変哲もない1日と変わりはなかった。
 人との関わりを避けて生きるようになってどれほどか。
 『新年』を祝うことも忘れる程ひとりきりで旅をし続けた彼にとって、感情を揺さぶられるほどの出来事ではなかったはずであった。しかし、ふと思い浮かんだ遠い遠い1つの記憶。


 まだ、友と呼べる唯一の人物が隣にいる時だった。

 後でたっぷり怒られることがわかっていても、好奇心を止められなかった年の頃。屋敷の屋根に上って街を……その外に広がる世界を眺めた。
 太陽が顔を出す前から段々と明るくなっていたにも関わらず、直視できないほどの強い光が見えたとたんに身動きができなくなった。
「……」
 息を飲むような、と言うのはこのことを言うのだろうか。言葉を発することすらできなかった美しい日の出の瞬間。
 彼も見とれているのだろう。音も動きもない中でも流れ続ける時間。

「きれいだな……」

 ポツリと零れた呟きに、発した親友へと視線が吸い寄せられる。
 正面から光を受けて、逆に影が濃くなったように感じるその横顔は、喜びとも悲しみともつかない表情が浮かんでいた。


 きっと、今の自分には彼と同じ顔をしているだろう。自分で自分の横顔が見えるはずがないのに、思い出に重なる己の姿。

「……うん、きれいだね」

 呟くと同時に涙が溢れ出した。
 それは、今もまだ『美しい』と思える喜びからか。それとも、思い出さなければ感じることもなかった切なさからか。

 この、震える胸の内を知る者は自分だけでいい。
 もう誰も…こんな思いをする必要はない。

 瞼を閉じて光を遮断した少年は、クルリと踵を返して太陽に背を向けて歩き出す。今日も生まれた新しい世界へ、己の影を濃くしながら。

- end -

2015-1-1

15'年賀もの。

切ないけれども、一応「初日の出」ネタということで。

親友が屋根に上っているのは、某B様のイラスト(30日のワンドロ企画)の影響です…。


屑深星夜 2014.12.31完成