“家族”って何だったっけ?
一瞬そう思うくらい、自分には関係ないものだったはずなのに。それに与えられた温もりなんか、とうに忘れ去っていたはずなのに。
「父さん! おかえりなさい!」
「おかえりなさいませ、テオ様」
辺境での任務から何か月ぶりかに戻ってきたテオ様を迎えるティルたちを遠目に見ながら、おれはポリポリと頬を掻いていた。
ティルにとっては大好きな父親。グレミオさん、クレオさん、パーンさんにとっては、大事な主。久しぶりに会えて嬉しくないわけがない。
でも、おれは違う。テオ様に拾われただけで、別に血の繋がりも、心の繋がりも……ない。
それなのに、抱き合って嬉しそうに笑い合う姿に、ツキンと胸が痛むんだ。
これは、嫉妬だ。
持っても仕方がない想い。元から持てるはずのない想い。それでも、自分ひとりその温もりを与えられない妬み。でも、「俺も」なんて言えるわけがないし、言える立場でもない。
……本当なら抱いてもいけない感情に、ズキリと右手が疼いた。
「テッド」
「は、はいっ?!」
左手でそこをそっと包もうとした時にテオ様に声をかけられて、思わず声が裏返る。だって、まさか呼ばれるなんて思ってなかったから驚いたんだ。
おいで、と手だけで呼ばれて近づけば、大きなそれが頭に乗せられて、ぐしゃぐしゃと髪をかき回される。
「元気にしていたか?」
覗きこまれた笑顔に、胸の痛みも手の甲の痛みも消え去って、湧き上がる喜びに返事するのも忘れてた。
「元気だったよね、テッド」
「あ? あぁ!」
慌てて頷いたけど、俺がどれだけ嬉しかったか、ティルにはバレてたみたいで。
「そんなに嬉しかった? 父さんに会えて」
「ば…っ!!」
図星指されて真っ赤になっちまった。周囲から零れる笑いにますます恥ずかしくなったけど、今なら言える。言いたかったこの言葉を。
「……おかえりなさい……」
ずっとずっと忘れてきた言葉。言ってはいけないと思ってきた言葉。
それでも、ここにいたいと思ったから。それが限られた時間であっても、この“家族”の輪の中にいたいと思ったから。
「あぁ、ただいま」
返ってきた言葉が胸を一杯にして、思わず目尻に涙が滲む。
気付かれたくはなかったかすぐに笑って誤魔化したけどな。肩を組まれたティルにウィンクされて、隠すのに失敗してたことを知る。
あぁ、この幸せがずっとずっと続いたらいいのに。
無理な願いと知りつつも、そう思わずにはいられない。
どうか、右手のこの紋章が、もうしばらく大人しくしていてくれますように……。
- end -
2013-11-24
卯木様脱稿祝いに何かプレゼントしますよ! とお約束していたブツです。
「ほのぼのなマクドール家」というリクエストだったのですが、テッド視点で思いついてしまったがために、ほのぼの感が薄れてますね…。
少しでもマクドール家の温かさが出せていたら嬉しいです。
遅くなりましたが、脱稿おめでとうございました!
屑深星夜 2013.11.23完成