相合傘

相合傘


「あちゃー……しまった…」
 どんよりと雲に覆われた空から落ちてくる雨粒たちに、テッドは頭をかいた。
 出かけたときにはまだ太陽も微かに顔を出していたので、少しくらいの買出しなら大丈夫だろうと、雨具を持たずに出たのだ。
 同じグレッグミンスターの中。帰ろうと思えば帰れる距離ではあったが、石畳の地面にバラバラと激しく打ち付ける雨では躊躇するというもの。
 マクドール家の夕飯の準備が遅れることになるが、少し小降りになるまで待ってもらおう。…と、店先に留まることを決めたときだ。
「テッド!」
 パシャパシャと足音を立ててやってきたのは、雨よけのカッパを羽織った親友の姿だった。
「よかった、間に合った。急に降って来たから困ってるんじゃないかって走って来たんだけど」
 最初は突然現れた彼に驚いていたのだが、弾む息で話しかけてくる友人を見ているうちに気づく。その手に何も握られていないことに。
「……もう1枚カッパ持たずに?」
 雨具が1つしかなければ、結局はどちらかが濡れるしかないじゃないか?
…と苦笑するテッドの言葉に、ハッとする。
「ごめん! 濡れて帰ってくる前に…って焦ってたら忘れてた」
 まるで気づいていなかったらしい親友は、ポリポリと頬をかきながら視線を雨降る街中へと戻す。
 一度取りに戻ろうか…と思案してるらしい彼の横顔にテッドが声なく笑う。
「そんな遠くないし、2人でそれ被って行こうぜ」
「あ、うん」
 それ、と指差したカッパを脱いだ少年はバサバサと雫を払う。
 その後、彼に手招きされて寄り添うと、カッパをバサリと上から被った。頭の上で落ちないようにしっかりと布を持つと、頭だけはなんとか大丈夫だろう、という状態。
 しかし、目的地はそう遠くない場所だ。
「行くぞ」
「うん」
 2人は頷き合うと、勢いよく雨の中へと飛び出す。
 重なる足音は段々と雨粒の音に紛れて遠くなる。

 やがてそれは、姿と共に消えていった。

- end -

2013-12-8

AZURE PRISM」のryuga様宅の絵茶にて書いた作品です。

テ坊親友風味……ということでこんな感じになりました。
テーマはタイトルそのままですが…「相合傘」。

ryuga様からいただいたイラストはこちらからどうぞ!


屑深星夜 2009.6.11完成