「マクドールさん、おはようございまーす!」
「……」
「マクドールさん?」
硝子越しに見える瞳は手元の本に注がれたまま。リオウの声は耳に届いていないようだ。
授業中はいつも眼鏡をかけているティルだが、彼の後ろの席にいる以上、リオウがその姿を正面から見ることはなかなかない。かけていると普段よりも男前度が上がっている彼にしばらくドキドキしていたが、数分しても己に気づかず、ペラリとページをめくるだけ。さすがのリオウも面白くない。
誰よりも早く教室に来ているティルと遊ぼうと思って苦手な早起きをしたというのに、そうさせた本人は本に夢中で自分の存在にすら気がついていないのだ。ちょっとしたイタズラ心が芽生えてもおかしくはない。
気づかれないように自分の席へ行き、荷物を置く。そして机に乗って背後からティルに近づき…。
「とーった!」
「!?」
急に視界がぼやけて驚いたティルが振り向くと、嬉しそうな顔で己の眼鏡をかけるリオウが。
「…リオウ? いつからいたの?」
「もう5分以上前からいました〜」
「そう。いつも遅刻ギリギリの君が珍しいね」
「マクドールさんと遊ぼうと思ったんです〜」
「ふぅん、そう」
会話しながらも視線を合わせず、いつもと違う眼鏡越しの世界を楽しむリオウを暫く眺めていたが、ティルの手の中では読みかけの本が開かれたまま。続きが気になるが、クリアな視界でないと読んでも頭に入ってこない。
「……そろそろ返してくれる?」
左手を出して眼鏡を返すように言ったとたん、ピタリとリオウと目が合った。ニヤリ。それはそれは面白そうに笑った彼は、ピョンと立ち上がると口を開く。
「返して欲しかったら捕まえてくださいね?」
言うや否や教室から駆け出るリオウを呆然と見送るティル。
「……いい度胸じゃないか。覚悟しときなよ?」
低い呟きを知る由もないリオウは、やっと遊べる、とただただワクワクした気持ちで一杯であった。
- end -
2013-11-23
2主(Wリーダー)絵茶にお邪魔しつつ書かせていただいた作品です。
某方のイラストから発展させていただきました〜。
屑深星夜 2013.6.4完成