ジリジリと照りつける太陽によって温められた空気。石造りの城内に籠ったそれは、大抵はデュナン湖からの風によって緩和されるのだが。会議のために使われている部屋は、機密性を求めてなのか、小さな窓が申し訳程度にひとつあるだけ。その部屋に満ちるのは、熱気だけではない。

「あ゛ぁ゛―――――――――………」

「…おい、リオウ」

 フリックが溜め息交じりに名を呼んでも。

「あ゛ぁ゛ぁ゛―――――――――………」

「リ、リオウ…今、会議中だぞっ」

 アイリの手が、机に突っ伏した背を叩いても。

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛―――――――――………」

 軍主が発する声は止まらない。
 ……だが。

「…リオウ殿……」

 議題を読む声を止めたまま無反応だった軍師が、こめかみをピクリとさせた瞬間に息が止まったかのように音がなくなった。が、それはほんの一瞬で……。


「……っついよこの城っ!!!」


 リオウの叫び声によって再び時が動き出し、ビクトールの拳が机を叩く。
「んな分かり切ったことわざわざ言うんじゃねぇよ!!!」
「言わなきゃやってらんないでしょ!! ただでさえ暑いのに、こんな狭い部屋にこの人数が集まってさぁっ!?」
 彼が広げた両手で示すように、普段なら10人程度が集まる部屋に、倍近い人間がひしめいている。全員が椅子に座れているならまだしも、大テーブルを囲んでの会議のため、横や背後に立っている人間もいるくらいだ。
「みんなだって暑いよね! 暑いんだよね!!」
「うん!! 暑い!!!」
「ナナミ……」
 リオウの訴えに真っ先に同意したのは義姉である少女。他の者は、声を大にして言うことはないが、額を流れる汗が暑いと言っていた。
 しかし、眉間の皺を深くしたシュウは涼しい顔で告げるのだ。
「申し訳ありませんが、今は検討しなければならないことが山積みになっておりますので、邪魔しないでいただけますか」
「っ!!! くっそぉ!! 何でシュウは汗ひとつかいてないんだよぉぉ……!」

 ダンッ!

 大きな音が響いた、と思えばリオウが机の上に立っていた。静かにそれを見上げていたシュウだったが、目を細めて椅子から立ち上がる。
「……許さんぞ、リオウ」
「許さないのはこっちだよ!!! こんな日にこんな場所で会議なんかするなぁぁぁぁ!!!!」
 まるで駄々っ子のように机を踏み鳴らす少年に周囲は唖然として動けない。それでも軍師は冷静な声で問い返す。
「他にどこですると?」
 その言葉を待ってました、とでも言うように。ピタリと騒音を出すことをやめたリオウは、立てた親指で背後を指す。


『ついて来い』


 無言でそう言った彼が皆を連れて行った場所は、ヤム・クーが釣り針を浮かべる湖だった。
「……聞いておられますか、リオウ殿」
「えぇー! 呼んだ――――っ!」
 バシャバシャと水音を立てながら泳いでいるリオウは、桟橋を会場とした会議の輪の中にいない。
「……聞いておられませんね」
 はぁ、と深く息を吐く軍師に、頭の後ろで腕を組んだビクトールが苦々しく笑う。
「まぁ、こうなることはわかってただろ。邪魔しないだけマシだ」
「特に問題点はみられませんし、このまま進めていただいて問題ないと思います」
「そうだな」
 微笑を浮かべたテレーズの言葉に、リドリー含め主だった者たちが同意する。
「涼しい風が吹いているとはいえ、この真夏の太陽の下でジッと座ってるのは地獄だぜ」
「そうそう。そろそろ俺たちも切り上げねぇか? 軍師さんよ」

 はぁ〜…。

 先ほどよりも長い溜息を吐いたシュウは、スッと立ち上がると暑さを感じさせない目をビクトールに向ける。
「夜部屋に行くとリオウに言っておけ」
 そのままスタスタと立ち去る背を見送る空間には、子どもたちの無邪気な笑い声が響く。

「あー……あいつ、今日は寝れそうもないな?」
「自業自得だろ?」

 顔を見合わせ苦笑を交わした残りの大人たちは、ゆっくりとそちらに目を向け、キラキラと太陽の光が反射する湖の眩しさに目を細めたのだった。

- end -

2013-11-23

九月麻人様のサイト「Nine Moon」の幻水絵茶にお邪魔しつつ、書かせていただいた作品です。

夏だし、水着絵だったし……と考えはじめた結果がこれでした。

本拠地の間取り的にありえない部屋のお話ですが、その辺は突っ込まないでやってください〜。


屑深星夜 2013.9.8完成