視線の先

視線の先


「ムクムク〜、一緒に遊ぼう!」
「ムム――っ!!」
 赤いマントを羽織ったムササビは、自分を呼ぶ赤い服の少年の腕の中に飛び込んだ。居心地のよいその場所に顔をうずめながら、ムクムクは彼と会ったときのことを思い出していた。



 初めて出会ったのは、今いる場所と同じ…小さな小さな町。いつもより遠出して来て、居心地のよさそうな木でちょっと休憩していたたら、その下に少年がいた。
 今よりももっと幼く、あどけない笑顔を見せた彼と、日が暮れるまで遊んだのだ。
 言葉が通じるわけじゃない。でも、その笑顔だけで何でも伝わってくるような気がした。

 以来、時々やってきては遊ぶようになっていたが……彼と一緒にその町を出ることになるなんて、ムクムクは想像してもいなかった。

 いつものように顔を出したら、とてもあせった少年に、
「一緒に来て?」
と言われて、ついて行ったのだ。
 行き着いた先がまた自分の縄張りだったのにも驚きだったのだが…それを彼が知ることはないだろう。


 ある人から見れば、とても短い期間かもしれない。でも、少年たちにとっては…とても長いと感じられる時。1つの戦いがあった。


 小さな小さな町で一緒に遊んだことのある金髪の少年と、彼が戦っていた。
 どちらもムクムクにとって友だちで、戦いの最中もその気持ちが変わらなかったように、少年たちの間でもきっとそうだったろう。

 それでも、戦争は避けられなかった。

 だから、いつも1人のときに、ふと顔を暗くさせている少年がいた。
 正直、ムクムク自身には関係のない戦ではあったが、いつでも辛そうな少年の顔が、自分と一緒にいるときは和らぐのを知っていたから、側にいて協力した。それを彼はとても喜んでくれていたが、向けられる笑顔は昔と違って、どこか悲しみを帯び……ムクムクをちょっとだけ切なくさせた。



「……? ……クっ! ムクムクっ!」
 呼び声にはっとして顔を上げると、心配そうに覗き込む少年と少女の姿。
「どうしたの? 何かあった?」
「ムムム〜」
 何でもない、と首を横に振ると、
「そっか、よかった」
にこりと微笑みが返って来る。
 それが、昔々、初めて会ったときと同じものに戻っていて、ムクムクは自分まで笑いたくなる。

 もう、彼が苦しむことはない。“彼ら”が、涙を流すこともない。

 その事実が、たまらなくうれしい。

 ピョンと勢いよく立ち上がったムクムクは、足早に木に駆け上る。
「ムム―――――――っ!!!!」
「わっ!」
 堪え切れなかった喜びを込めて叫ぶと、足元から3つ目の声がする。
「ムクムク、いきなり叫んでどうしたんだい?」
 緑の木々の間から見下ろしたそこには、金髪の少年。その左右には自分とおそろいの赤い服を着た少年と、元気なその姉。

 視線の先の並んだ姿。

「ムム〜♪」
 ムクムクはクルクルとそこから飛び降りると、大好きな少年の腕の中へと飛び込む。そして、その居心地のよい場所で…3人の笑顔に囲まれながら、1日を過ごしたのだった。

- end -

2013-11-23

九月麻人様のサイト「Nine Moon」の絵茶にお邪魔し、絢辻橙子様が書かれたイラストにアテレコさせていただいた作品です。

ムクムク視点っぽい三人称で。


屑深星夜 2009.5.18完成