吸い込まれそうな青の下

吸い込まれそうな青の下


 シトロ村のすぐ側にある丘の上。大の字になって寝転んだシグは、視界いっぱいに広がる空に想いを馳せる。

 吸い込まれそうな青。

 雲ひとつないその色は、いつまで経っても薄れることのない記憶を呼び覚ます。


―― お前はいつか、俺を超える人間になるぞ。


 うっすらと浮かべられた微笑み。慕っていた兄とも言える男の言葉は、今も彼の目指すものとなっている。

「…今もオレは、勝ったなんて思ってねぇからな」

 勝負の続きは、オレがそっちに行ったときだっ!

 一方的に胸の中で言い切って、勢いつけて起き上がる。と、こちらに駆けてくる3人の姿に気がついた。
「ここにいたのか」
「ちょっとシグ! いきなり消えないでよね! もう…っ」
「勘弁しろよ〜。お前がいなくなるとオレたちの仕事が増えるんだよ」
 幼馴染でもあり、信頼できる仲間でもある、友。
 ため息を吐くだけのジェイルに頬を膨らませて怒り顔のマリカ、困り顔で頭を掻くリウ。三者三様の反応に目を細め、シグは上を指差す。
「この空見たら、いてもたってもいらんなくなってさ」
 3人は、素直にその先を目で追い、息を飲む。
「なんか、吸い込まれちゃいそう…」
「だろ?」
「前にもこんな空見たよな〜」
「うんうん」
「…それでここか」
「おう!」
 空の色によって蘇った記憶は同じもの。

 まだ村を出る前の…今よりもっと幼いころのこと。
 優しい愛情を注いでくれた、彼の人の思い出。

 しばし、無言で懐かしさに浸っていたが、誰よりも早く正気を取り戻したリウが視線を戻す。
「って、こんなことしてる場合じゃねぇよ! シグ、早く帰るぞ!」
「急ぎでお前に任せたい仕事あると村長が言ってたぞ」
「黙っていなくなるからシス姉も心配してるわよ!」
「あー…」
 せめて、透き通るようなこの空に白い雲がかかるまで、もう少しここで彼らと共に“彼”に会っていたかった。けれど、自分をご指名だと言われれば、動かないわけにはいかなかった。
「お呼びとあらば行きますか!」

 またな、ディルク!

 もう1度見上げた空にそう告げて。

「やってやろうじゃねぇか!」

 拳を振り上げたシグは、村に向かって駆け出したのだった。

- end -

2013-11-23

ティアクライス発売4周年おめでとう! の気持ちを込めて書いた作品。

シトロっ子を出したいが一心に、その後の彼らのつもりで書いてみました。

素敵イラストをどうもありがとうございました!


屑深星夜 2012.12.18完成