昼食を食べて再びの稽古。木刀を使っての手合わせで汗を流した俺たちは、ロルフの持ってきた干し芋をおやつに、秋深まる砦の壁に背を預けながら休憩していた。
「あぁ! それで結局君がオロスク村まで行くことになったんだったね」
「そうそう。頭領の豪快さは人を引き付けるけど、時々厄介なことも運んでくるからな〜」
「それも、大体君のところにね」
ロルフと何年か前の昔話で盛り上がっていたら、トン、と右肩に感じる重み。何事かと視線をやれば、そちら側に座っていたトワの頭が乗っていた。
どうやら眠ってしまったらしい。
「あれ、眠っちゃったのかい? つまらなかったかな、ぼくたちの話」
悪いことしたな、という表情を見せるロルフに、俺は首を振って見せる。
「きっと疲れてたんだ。ここのところ色々あったみたいだしな」
トワが俺たちのところに顔を見せたのは、実のところ2週間ぶりだった。
おはようございます、と微笑む表情にどことなく疲れが見えたのも…来れなかった間に起こったことを聞いて納得できた。
彼らの本当の敵は朱キ斧ではなくアイオニアだったのだ。
信じがたい話ではあったが、その後のことも考えれば嘘とは思えない。浮城を使ってシュラートとテルベを狙う奴らを、“船”を使って足止めしたと言うのだから。
今日、彼が会いに来たのも、俺たちに注意を喚起するためだったしな。アイオニア側にも時代樹を使って歴史を変えることができるから、トワという存在を無くすためにこの時代のテルベやシュラートが襲われるかもしれない…って。
一応用心しておく、と軽く返しておいたが、万が一ということもある。
…この子を失うわけにはいかないからな。彼が帰った後にロルフと対策を練らなければいけないと思っていたんだ。
「すまない、ロルフ。ちょっといいかい?」
「どうしたんですか?」
遠慮がちにインゴルフに声をかけられたロルフは、立ち上がると俺たちから離れて行く。きっとトワを起こさないように配慮してくれたんだろう。
ありがとうな。…心の中で礼を言って背中を見送った。
砦を抜ける風がカサカサと枯葉を舞い上げて行く音をしばらく聞きながら、トワのあどけない寝顔を見ていた。年齢よりも大人びて見える彼も寝ているときは年相応か…と笑えば、急にその身体がグラリと傾いだ。
「…っと!」
地面が待ちうける方へと近づくのを慌てて抱き止める。
休める時くらい休ませてやりたい。この小さな肩に圧し掛かる重さは…今や、テルベの里を守るだけではなくなってしまっている。
俺の元へ来るのも、信じる道を進むためだというのはわかっている。それでも、団長として気を張る必要のないこの時代へ来た時くらいは、ゆっくりして欲しかった。
だから、起こさないようにそっと体勢を直した時。
「んー…」
発せられた声は俺の中に、起こしたかもという焦りと…欲望を生んだ。
このまま抱きしめたい。体温が感じられるほど近く…強く。俺の腕の中に閉じ込めてしまいたい。
曾孫に対して持っていい感情ではないのはわかってる。けれどもそれは、いつしか生まれていた己の中の正直な想い。
―― どうしようもなく、彼が、愛おしい。
だが、心のままに動くことなどできず。俺は唇を噛んで衝動をやり過ごし、何事もなかったかのように右肩に少年の頭を乗せた。
「…トルワド…さん…」
微かに耳に届いた…声。それは、堪えたはずの想いで再び胸の内を満たし。すぐそこにあった前髪に、唇を押し当てる。
トワが起きていたら、絶対にできないこと。けれども、紛れもない俺の本当の気持ち。
ふわり、と嬉しそうな笑みが寝顔に広がったような気がして。
―― これは…夢。一時の幻。
苦しくなる胸を左手で抑えつつ、その“幻”を噛みしめた。
- end -
2014-02-17
Twitterである方のリクストに甘々トル主を書くつもりが…切なくなってしまったので、リクエスト品とは別に書いたお話です。
…思いついたネタを捨てるのがもったいなかったんですっ!
屑深星夜 2012.6.23完成