振り返れば

　　振り返れば
　　そこにあなたがいる
　　それに期待できないから
　　いつも後ろにいて
　　見失わないよう
　　あなたを見ていた


「叔師！　叔師！　どこにいるんですか！」
　周の城をくまなく探したけれども、何処にもその姿はなかった。
　一体、何処へ行ってしまったんです？　あの人の姿が見えないだけでこんなにも不安になるなんて、今まで思ってもみなかった。

　崑崙と金剛の戦いの最中で、僕は自分の本当の姿を皆に……あの人に見せた。
　あの人はその姿を見ても何も言わず、ただ僕を見て微笑んだ。それだけでほっとして、自分はどんな姿であっても崑崙の道士だと自信を持てるようになった。
　他の誰かがお前などと一緒に戦いたくないと言われても、あの人が僕を認めてくれるなら僕は僕でいられる。

　そのことを悟ってしまって以来、あの人が視界の中に見えないだけで落ちつかなくなってしまったんだ。


「どうしたのだ？　楊ゼン」
　不安で押しつぶされそうな胸を抱えながら途方に暮れていると、背中から聞きたかった声がした。急いで振り返ってみると、不思議そうな顔をした太公望叔師の姿が目に入ってきた。
「……叔師！　探したんですよ！　一体どこに行ってたんです？」
「元始天尊様に会いに行っておった」
　いつもどおりの落ち着いた動きでそういう叔師。その姿を見ただけでさっきまでの不安が消し飛んでしまっていた。彼は何もかも見透かしたような目で僕を見る。
「わしを探しておったみたいだが、どうしたのだ？」
「……いえ、別に………何でもないんです。ただ……」
　探していた理由を言うに言えずにうつむくと、
「ただ？」
続きを促され、言わなくてはならない状況に陥る。僕はしばらく迷った挙句、正直に答えるために口を開いた。
「……叔師が居なかったので…」
「わしがおらんだけでそう不安にならんでもいいだろうに」
　カラカラと声を上げて笑う叔師を見て、やはりなにもかも知っていて僕に聞いたことを知る。いつでも僕の一歩先にいて、下を見下ろしているようなこの人がいじらしかった。
　そんな僕のその様子を見てだろうか？　叔師がいつのまにか僕のすぐ後ろに立って、背中にその暖かい手を置いた。
「安心しておれ。わしは、絶対に“ここ”に帰ってくる」
　“ここ”に特別な意味があることに気づいて、思わず振り返ると、微笑んだ叔師の顔が一瞬視界に映った。でも、そのすぐ後には体の向きを変えてしまっていたので、その表情を見ることはできなかった。
「さて、こんなところで話してる場合ではないぞ、楊ゼン。まだまだやらねばならぬ事は多いのだ」
　叔師にそう言われた僕は、何も言わずただうなずいて彼の後について歩いていった。


　　居なくなっても帰ってきてくれる
　　それが分かったから
　　あなたの姿が見えないくらいで不安になったりしない
　　いつか振り返れば
　　あなたの笑顔があると……いい

- end -

2013-11-23

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