俺が地上を覆う夜の闇ならば、あの男は夜空に浮かぶ白光の月。誰とも交わらず、ただただ天空に在って、夜の間輝き続ける天体……。
普段のあいつは、昼の空に紛れこむ月のように存在するのかしないのかわからない状態。けれど、稀に見せる姿は、夜の闇にその身を晒す月のように人々の視線を集め得る。
俺は、偶然目にしたその白い姿を忘れることができなかった。
人間と思えぬ動き。右腕から繰り出される数々の技。
自分と同等…いや、それ以上の腕に目を見張ったのもあるだろう。
しかし、何よりも俺の肌を粟立たせたのは……鮮血の紅(あか)だった。
相手のだったのか。あいつのだったのか。覚えてはいないが、透き通るような肌や銀の髪を染め上げる血の色に、ゴクリと喉が鳴った。
――― アレが欲しい……っ!!
気がつけば、その純粋な欲望に身体が震えていた。
最初は可愛らしいもんだった俺の想いも、時が経てばどす黒く変色していくもので。執着度の増したこの欲は、心の奥底でドロドロと渦巻き日に日に勢いを増幅させていた。
己の闇でその全てを塗り潰したくてたまらないのに。紅の映える白い姿のまま、いて欲しくもある。
多くの者に煌々と輝くその姿を見せたくてたまらないのに。自分だけのものにしたいと、全てから遠ざけ隠したくもある。
その全てを包み込んで優しくしてやりたいのに。縛り付けて、己しか見ないように調教したくもある。
これまでの人生で、これほど何かに執着したことがあっただろうか?
その想いの強さが、アレに触れる機会を与えてくれた。けれども、求めても求めても……決してその心までは得ることができないのだ。
黒は黒。
白は白。
己の色に染め上げることも、相手の色に染まることもできない。だからと言って、混ざり混ざって別の色になることもできない。
どこまで行っても交わることはないのだ。
あいつは、夜の闇にすら溶け出すことのない銀色の光。どれだけ手を伸ばしても、触れることすらできない天空の星。
だからこそ、貪欲なこの欲望は止まることを知らず……アレを求め続けるのだろう。
俺が俺である限り。
あいつがあいつである限り。
黒と白。
俺たちの関係は、相反する2色のまま変わることはない。それが嬉しくもあり悲しくもあるのは、“欲しい”と思ってしまったから……。
- end -
2013-11-23
2010.5.6に銀魂の映画を見て、書きたくなった作品の1つ。
土銀なのは、一緒に見に行った友人が土銀好きだから…。
最初は詩の予定でしたが、独白的な感じで伸ばしてみました。
屑深星夜 2010.5.15完成