どうしよう…。六花ちゃん、早く帰ってきて…。
オレの目の前でバラ色の瞳を潤ませて泣くのは、この城の妖精ローズちゃん。人形師をしてる朝倉六花ちゃんが大好きで、今も彼女が作った自分の人形を大事そうに抱えてる。
少し前から、ローズちゃんのお気に入りの六花ちゃんが自分の個展のために実家に帰ってるせいで、ずっとさみしそうだった。そのおかげか、普段は絶対に来てくれないオレの部屋にローズちゃんが現れたんだ。
ローズちゃんはさみしそうに、つまんなそうに課題やってるオレを見てた。そのままにしておけばよかったのかもしれないけど、元気のないローズちゃんを見たら、話しかけずにはいられないじゃないか。それで元気づけようといろいろ話してて、『オレは就職でもしたらきっと城から出ていくことになる』って口にしたら泣きだしちゃって…さ。オレがいなくなるのがイヤだと思ってくれてるのはうれしいんだけど、泣かれるのは得意じゃないんだよ…。
だからって、自分の就職先をこの城から通えるとこにできるかは…実際決まらないことにはわからないだろ? はっきりしないのに、ローズちゃんと約束はできないじゃないか。その場限りの嘘をついちゃって、後でローズちゃんを泣かせることはしたくないしね。
「六花ちゃん、すぐに帰ってくるよ。だから元気だしなよ、ローズちゃん」
オレの部屋にやってきたときよりも暗くなっちゃった彼女に、できるだけ優しく声をかけた。
「ローズちゃんが泣いてると、オレ、どうしていいかホントわかんなくなるよ……」
机ごしに右手を伸ばして頬に流れ落ちる涙をすくうと、下を向いていたバラ色の瞳がオレを捕えた。ドキッと胸が高鳴り、彼女から目を離せなくなる。オレが、咲き乱れるバラの中にいるような感覚に襲われているうちに、伸ばした手を小さな手でギュッと握られた。
うわ……あったかい。ローズちゃんにも体温あったん……だっ!?
一瞬のできごとに目が点になる。
だって、ローズちゃんが握ったオレの手の甲にチューしたんだから。
「う……そ……だ、ろ?」
かろうじてひねり出したオレの声に、ローズちゃんがこたえることはなかった。でも、そのかわりに人形と一緒にオレの手を抱きしめる。
オレ…これからどうなるんだろ?
幸運を運ぶって言われてるお城の精のkissが、自分にどんな幸せを運んでくれるのか。それがわかるのは、もっとずっと先のこと…。
- end -
2013-11-23
管理人が天原ふおん先生の作品にはまるきっかけになったのが、この漫画。
「ないしょのラッキードール」でした。
当時の日記でその話をしたところ、某方がイラストをくださり、お礼の意味も込めて書いたものになります。
漫画で語られていない分の個人的補完です〜。
屑深星夜 2005.6.4完成