イミテーション「仕事の前の」

イミテーション「仕事の前の」


「おい、アデュー!! いつまで昼寝してんだよ!」
 ここは夏の避暑地として有名な町の外れの森。大きな湖の畔に怒声が響き渡った。
 声を発した人物は、耳をピンと立てて怒りをあらわにし、木の幹に背を預けて眠る人物の胸倉を掴んで揺すっていた。
「今日は仕事だって言っといただろうが!?」
 声というよりは、激しい揺れにうっすらと目を開けた人物はけだるそうに右手を上げた。
「……おはよう、シャット」
「おうっ」
「…おやすみ…」
「だぁ―――っ!! 寝るな! 起きたんじゃないのかよ!!」
 すぐに紫色の瞳を閉じてしまった年上のナンバー2を、それまで以上に揺り動かす。
「もう朝通り越して昼。それも…もうすぐ日も暮れるって時間だぞ。集合時刻に遅れるっ!」
 身体と共にすごい勢いで揺れる己の耳にペチペチと顔を叩かれること…少し。急にパチッと目を開いたアデューが、真っ直ぐに盗賊団の頭であるシャットを見た。
 やっと起きたか、と思って内心ホッとしたシャットだったが、
「俺は眠いから寝る。シャット頑張って」
そう言いきった男に再び声を荒げることになる。
「おぉい!! 右腕のお前がそれじゃあ、部下達に示しがつかないだろっ!?」
「……ぐぅ……」
「早っ!」
 くにゃりと力の抜けた首と耳。静かな寝息を立てる男が再び目を開けるには、相当な時間がかかりそうだった。
 こんな男とはいえ、ベイン盗賊団のナンバー2だ。何としても連れていかなければ、これから仕事のために集まる部下たちに示しがつかない。
「あー…もう、仕方ない……っ!!」
 大きなため息をついたシャットは、アデューの首根っこを掴むとズルズルと引っ張って部下の待つ場所へと歩いて行ったのだった。

 その日、アデューが役に立たなかったことは言うまでもない。

- end -

2013-11-23

ウサギの戯言」のエース様が書かれたオリジナル小説「イミテーション」のキャラをお借りいたしました。

某方のイラストを元に文章をつけさせていただいたものです。

どうもありがとうございました〜!


屑深星夜 2010.6.17完成