「ねぇねぇシャット! アダのとこにきたこの手紙、どういうことかな?」
「そんなの文面通りよね?」
帰宅後、当たり前のように自分の部屋に入り込んできた2人が詰め寄ってくる。
シンが持っている封筒には“簡易書留”の印が押してあった。それは普通、その文書が重要なものである印のはずだが……。
「『明日までにこの手紙と同じものを5人に宛てて送らないと、お前は人魚姫のように泡となって消えるだろう…』だぁ? 何考えてるんだこいつ」
読んだ通り。中身は全くもってバカらしいもので。
「不幸の手紙みたいだな。こういうのは無視しとくのが一番だ」
呆れたため息をつきつつ、聞かれたことに答えると…
「あ、うん。そうするつもり」
「僕もそう言っといた」
…笑顔と共に、あっさりとそんな言葉が返ってきた。
「…は? わかってるなら俺に聞く必要はないだろ?」
思わず心の内を声に出してしまい、面倒なことになるかと思いきや。
「聞きたかったのはココよ!」
「うん、ココ!」
2人は手紙のある部分をそろって指差した。
―― 人魚姫のように泡となって消えるだろう…。
「ココがどうしたんだ?」
「人魚姫って泡になって消えなかったよね!?」
「泡になって消える方が本当よ! ね!?」
何がどうしてそうなったのか。
この2人の思考は計り知れないものだとわかっていたため、とりあえず、心の中だけでため息を吐いておく。また、答えが出るまで諦めない2人であることも知っているため、手っ取り早く回答を与えることにした。
「どっちも正解と言えるが……大元になった人魚姫の話じゃ、泡になって消えてるな」
「えええ〜!?」
「やっぱり! わたしのトラウマが当たってた!」
「トラウマ?」
ふて腐れるシンとは対照的に、両手を挙げて喜んだアダが機嫌のよいまま話してくれる。
「だって、おとぎ話ってお姫様と王子様が結婚してめでたしめでたし…が普通よね? それなのに人魚姫は死んじゃったでしょ? 幸せな話だと思って読み始めたのにそんな結末でショック受けて……それ以来おとぎ話、読まなくなっちゃったのよね」
そうだったか? つい最近も『本当は怖い〜』的なおとぎ話を嬉々として読んでいたはずだが。
……思ったが、あえて突っ込むことはしなかった。
触らぬ神(アダ・シン)に祟りなし。
1つのことわざがシャットの頭の中でリピートしていた。
- end -
2013-11-23