「おい、苦学生。ここ片付けとけよ」
「…はーい、わっかりました〜」
そう気のない声で答えた人物は、自分に命令した者を含む人間が教室からいなくなるのをジッと待っていた。
“彼女”の名はシラサギ。ルビーのような赤い瞳に短く駆った銀色の髪が少年と思わせることも多いが、これでも15になる年頃の女である。
やっと1人きりになった静かな教室は、その日出たゴミや資料の本などが散らかっていた。その様子をぐるり見渡したシラサギは、制服のブラウスを肩まで捲り上げてニヤリと笑う。
「おーっし、今日も一丁やってやりますか!」
声とともにパチンと指を鳴らすと、ブン…ッと音を立てて歪んだ空間から右目に傷を負った一匹のカラスが現れた。
「呼んだか?」
机に降り立ったそれは肢体と同じ漆黒の瞳で己の主を見、散らかった部屋の様子を把握してげんなりする。
「…また掃除か。いくらお前が国の補助を受けている苦学生とはいえ、能力を認められてこの王立魔法学校に所属しているんだ。好き好んで引き受けることはないだろうが」
「だからって学校の清掃員の魔法に任せられるわけないだろ? 整理下手で部屋は丸く掃くタイプ。それに、まだ使える物も簡単に捨てちゃうんだぞ! そんなもったいないことさせられるか!」
拳を握って力説するその姿を見るのも、もう3年目。毎日繰り返されるやり取りに、カラスの目は自然、据わっていた。
「……貧乏性……」
「貧乏性で何が悪い。貧しい生活してみればボクの気持ちがわかるぞ?」
ムン、と無い胸を張ってみせるシラサギにこれ以上何を言っても意味がないとわかっている彼は、
「あー…はいはい」
と頷きながら小さくため息を吐いた。
「ほら、ディアン。さっさとやっちゃうから来て」
肩を竦めた彼女はそう自分の使い魔を呼ぶと、左手を真横にスッと伸ばす。
「…仕方ないな」
この状況から離脱するためにはシラサギに協力するのが一番だ。故にカラスは、素直に伸ばされた腕に止まって静かに目を閉じた。
それを確認したシラサギは、開いた右手を口元に寄せる。息のかかる位置にある手の甲には髪と同じ色に輝く紋章があった。
「我が名はシラサギ、使い魔の名はオプシディアン=カラス。我が身に宿る魔法の力よ、右手の証より現れいでよ!!」
澄んだ声がそこに響き渡ったと同時に、紋章から現れた“魔法の力”がシラサギの身体を包み、教室中に広がった。
その一瞬後には、部屋の状況は一変。散らかっていた物は全て綺麗に片付いて、埃1つ落ちていない。ただ唯一、目の前の机に数枚の紙がキチンと揃えて置かれていた。
「よっし、完了! これは持って帰ってメモに使う、と」
ホクホクと彼女が手にしたのは裏の白い紙。わざわざそれを捨てずに残すよう魔法をかけたのだ。
「……貧乏性……」
「うるさい、ディアン!もう帰れ!」
呟く彼にギロリと鋭い視線を向けたシラサギは、左手に止まったままの使い魔の額にキスを落とす。
するとその身体は空気に溶け、みるみるうちに消えていった。
「…あーあ! ディアンの口うるさいとこ、すぐ下の弟そっくり! せっかく家を出て寮生活のスクールライフが台無しったらないよ」
もう、習慣のように同じ別れを繰り返しているため、シラサギのこの愚痴っぽい呟きも、もはや言わなくては落ち着かない域にまで達していた。
故に口にしたことで満足そうに笑った彼女は、今日1日の仕事を終えたこの部屋を後にしたのだった。
- continue -
2013-11-23
「縛りSSったー」を使用したシリーズです。
---
ryu__raは「カラス」「キス」「苦学生」に関わる、「一次創作」のSSを8ツイート以内で書きなさい。
---
8ツイート=1120文字で挑戦しましたが、こちらには、手直ししたものをUPしております。
色々と不都合のあるお題は、反則だろうという使い方をしておりますが、それはご愛嬌でひとつよろしくお願いします〜。
屑深星夜 2010.6.14完成