メリークリスマス 前篇

メリークリスマス 前篇


「なあ、天斗ってさ、天使な訳だろ?」
「いきなりなんだ」

天斗は唐突に聞いてきた幸平をまだムッとした様子のまま聞いてきた。

「いや……、ていうかなんだよ、まだ怒ってんの?」
「当たり前だろ、気分が悪い」
「……はぁ」

大人げない様子でそんな事を言ってくる天斗を、幸平は呆れたように見ながらため息をつく。



今日はクリスマスイブであるとともに、幸平が学校で所属している学科のグループの忘年会だった。学校自体は随分前に冬休みに入っていたというのになぜ今日なんだと思いつつ、幸平はそれなりに適当に飲み食いして喋った後は早々に帰るつもりでいた。
盛り上がりを見せている中、一応自分が座っている周りにいた人達には断りを入れて幸平は席を立った。そして帰る前にトイレに寄り、用を足したところで同じグループに所属している男子に声をかけられた。

「不破、もう帰るのか?」
「ああ。またな」
「何か用でもあんのか?」

そう聞かれ、幸平は一瞬言い淀む。
はっきりした用がある訳ではない。
『ほのか』のアルバイトは今日も明日も幸平は休みである。クリスマスなんて普段より忙しいと思われるのに休んで良いのかとマスターに驚いて聞けば「最近は割と手が足りてるし大丈夫」との答えがかえってきて幸平は首を傾げていた。
だがとりあえず、一見雇っている人員は増えたような気がしないのだがと思いつつも、幸平はマスターの好意に甘えさせてもらうことにしたのだった。
だから予定がはっきりある訳ではない。
ただ、それでも早く家に帰りたかった。

今日はクリスマスイブ。
多分天斗はイブだからといって特にどうとも思っていないのかもしれないが、幸平としてはせっかくアルバイトも休みなのだしやはり二人でゆっくりと過ごしたいと思っていたのだ。
実はプレゼントも買ってある。
それを見つけた時にどうしても買いたくなったんだが、買った後で自分が少し恥ずかしいヤツのような気がどんどんしてきているので渡すかどうかは未定である。

だがいきなり人から用があるのかと聞かれると、どう答えていいのか分からない。
恋人がいると公言したことはないし、言うにしても説明し辛い。
もちろん相手がいつだって白いスーツを着た金髪の天使だとは誰にも言うつもりは、ない。なんていうか、憐れんだ目で見られるか頭を心配されると分かっているような事はしない。

「用がある訳じゃないのか?飲み会があまり好きじゃないとか?その、だったらさ俺も抜けるから今から改めて遊びに行かねえ?」
「え?は?あ、いや、その、用がないって訳じゃ……」
「彼女いるとか?」
「いねーけど」

ていうかいたためしないけどな、と幸平が内心憮然と思っていると腕をつかまれた。

「な、なんだよ」
「そ、そのさ、なんつーかさ、不破って……」

そこまで相手が言いかけた時あり得ないことに、ひっそりと少し離れたところから幸平を見守っていたであろう天斗が不意に降りてきて相手の頭をはたいてきた。
幸平がギョッとしながらもポカンと口を開けてその様子を見ていると殴られた同級生は当然天斗が見えない為、怪訝な様子で後ろを振り向きながら頭を押さえる。

「っ痛ぅ!?な、なんだ?」
「っさ、さあ!と、とりあえず、おれ、もーいくわ。じゃーまたな!」
「っあ、不破!」

相手が手を離してきたのを良い機会に、幸平はそそくさとその場を去った。
とりあえず天斗何してんだよ、などと思いながらも、急いでいる事を説明せずに済んでホッとしていたのだった。



そして冒頭に戻る。

「だってそんなの、分かる訳ないだろ!おれ男なんだぞ?んなの想像すらするか?」
「分かれよ。お前はこの俺が可愛がってるやつなんだぞ?だいたいんなもん幸のケツ狙ってんに決まってんだろうが」

天斗はジロリと幸平を見てきた。その青みがかった黒い瞳を見ると思わず吸い込まれそうになったが、幸平は言われた事が脳内に浸透し、ハッとする。

「っケ……ッて何言ってんだよ」

幸平は赤くなりながらも引いたように天斗を見返した。

「幸は可愛いんだよ。だからその辺自覚しろっつってんだよ」

だがそんな風に言われ顔が更に熱くなるのが分かった。天斗のこういった部分が、幸平は未だに慣れない。

「な、なに恥ずかしい事言ってんだよ……!バカじゃねーの?だいたいおれみたいな平凡な……っぅん」

抗議しかけるとそのままキスされた。
額を押され、顔を仰向けにされてあっという間に口を塞がれる。頬に添えられた手が冷たくて妙に心地よかった。
ようやく唇が離れると幸平は赤い顔で天斗を睨みつける。

「んな顔しても無駄だ。あとな、バカなとこも可愛いけどな」
「は?バカってなんだよ」

ムッとして聞くと、そのまま床の上に押し倒された。

「あの男に用事あるんか聞かれて困ってただろ?んなもん、ただ単に『ある』とだけ答えりゃ良いじゃねーか」
「……あ」

確かにそうだ。別に説明する必要なんて、ない。
思わず幸平はポカンと口を開けた。
そこに天斗の舌が入ってくる。

「っんぅ」
舌は幸平の咥内を犯し、甚振ってきた。上顎奥に舌を這わされると体がビクリと震えた。
その舌は歯の裏を這わせてきた後に更に幸平の舌をなぞっていく。

「っふ……っ」

その後軽く舌を吸われようやく唇が離れた。

「天斗……っ。いきなり……」
「ああ?いきなりじゃなかったらどーすんだ?いちいち今から『キスします』て断りいれんのか?」

幸平を押し倒したまま、天斗が意地悪く笑いながら聞いてきた。

「ざけんな、ちげーし!せっかくイブなんだしって」
「あー」

幸平が言うも、相変わらずおかしそうに天斗は幸平を見てくる。

「はぁ。さっきの質問に戻るけどさ、天斗、天使なんだろ?」
「今は辛うじて、な」
「なんかほら、クリスマスと天使ってなんとなくイメージ近いように思ってたんだけどさ、違うの?」
「あー、んなもん勝手な妄想だろ?別に関係ねーぞ」
「……」

別に天使に夢を見ている訳ではないが、なんとなくそれでも夢を壊されたような気がして幸平が微妙な顔をしていると、天斗が今度は優しく微笑んだ後でまたそっとキスをしてきた。

「なんかやたらお前クリスマスにこだわるが、なんなんだ?」
「……いや」

クリスマスが物凄く恋人との行事っぽいなんて恥ずかしくて言えない。
目を逸らしながら幸平がそう思っているとまた笑われた。
どうやら見透かされているらしい。
だったらいちいち聞くなと思うが、多分天斗は幸平の反応を楽しんでいるんだろうとため息をついた。

「俺はな、幸」

だが次の瞬間にはまた優しく笑いかけてくると静かに囁くように言ってきた。

「クリスマスだろうが誕生日だろうが大してこだわりは無い。毎日こうしてお前といられるので十分だ。だが、そうだな……桜が咲き乱れる季節になると嬉しくなるな」

一瞬何を言っているんだと幸平はポカンとした。
だが最後の言葉を聞くと一気にまた真っ赤になった。

桜の季節。

天斗と幸平が“約束”をした桜の木の下。

「……っ」

幸平はそのまま手を伸ばし、天斗を引き寄せ抱きしめた。

- continue -

2014-1-25

Guidepost」かなみ様にいただきましたぁぁぁ!!

「天の幸せ」の天斗と幸平のお話です。

続きも…あるんですよ! あるんですよ!?
あぁ、もう、幸せすぎるっ! 18歳以上の方はどうぞ、ご覧くださいませ…っ!

かなみ様、どうもありがとうございました!!