春夏秋冬、いつでも道着1枚の凍鉉。上着と共に白い肌着を脱がせ、その背をベッドに押し付けて見下ろせば、左手が尚久の視界を塞ごうとする。
「見るな」
「無理だよ、って何度も言ったよね」
別れる前にも繰り返したやり取り。右手でそれを捕まえてベッドに縫い付ければ、ほんのり赤く染まった横顔が見える。表情は不機嫌そうではあったが、羞恥の表れだと知っている尚久は笑みを零さずにはいられない。
「いつもは見ても怒らないのに、エッチの時だけどうして?」
「そんなこと…言、わせるな…っ」
開いた右手で隠そうとしたその顔は、普段、表情の薄い彼からは想像できないもので、しっかりとそれも縛めて、ジッと見つめる相手が耳まで真っ赤に染まるのを確認して唇を落とす。
「可愛い、凍鉉」
「んっ、ふ……」
最初は触れるだけだった口づけも、数を増やすにつれて深く、長くなっていく。薄い唇を覆えば、凍鉉のそこが誘うように開き、差し入れた舌で口内を擽って絡め取る。
チュ…と音を立てて唇を離せば、足りない酸素を得ようと大きく胸が上下する。その間に、ズボンの下でうっすらと熱を持ち始めた足の間に手を滑らせる。
「凍鉉のここに触れたのは、俺だけ…?」
「っ! わ、かってることを聞くな!」
「聞きたい」
「…っ!」
やわやわとそこを揉みしだいても、唇を噛んで声を堪える凍鉉。尚久はその様子を見上げながらツンと立ち上がる乳首に舌を伸ばす。
「ここも?」
「ぅ、ん…」
「こっちも?」
「ぁっ!」
前を触っていた手で後ろの窄まりに触れれば、尚久が見ている己に耐えられなくなったのか。その後頭部を抱き寄せるようにして視界を遮られた中で、微かに聞こえる言葉。
「……志乃だけに決まってる……んっ!」
嬉しさのあまり、すぐ傍にあった胸の突起を口に含めば、鼻にかかった甘い声が上がる。もっともっとその声が聞きたくなった尚久は、反対側を指先で捏ねつつ、わざとチュルリと音を立てて吸い付く。そして、固さの増したその周囲を尖らせた舌でくるりと刺激すると反らされる胸。まるで訴えるようなその動きに、もう一度そこを口に含んで引っ張り、ちゅぱと音を立ててそこを解放する。
「はっ、やく…早く…んぅ」
下にも触れて、と催促する口を塞いで口腔内を犯しながら、濡れて光る乳首をキュッと摘まみ爪先で押し潰す。
「ふぁ、ん…」
合わせた唇の隙間から零れる声も飲み込むように角度を変え、伸ばされた舌を吸い上げる。その間に指先で脇腹を撫で下ろし、質のよい筋肉がついた腹筋をなぞる。もう片方の手は膝から腿へと移動して、足の付け根の敏感な部分を触れるか触れないかの微妙なタッチで擽る。
「…っ…」
尚久が触れる場所触れる場所でビクリと震える身体が愛しくて。キスを止め、下着ごとズボンを足から抜いて、凍鉉の下半身を露わにさせる。
「あ、」
既に自立したそこを意思を持って見つめるだけで、その先にある快感を想像してトロリとした液体を零す熱。尚久は、敢えてねっとりとした視線でなめ回した後、漸くそこに手を伸ばす。
「んんん」
手の平よりも熱く脈打っているもの。
本当に人を凍らせるほどの体温の持ち主なのか…と、尚久は、凍鉉に触れる度に不思議に思う。確かに、友人であった最初の頃は触れることも許されなかったのだが……。
その変化も自分だからと思えば喜びが湧き上がり、尚久自身にも熱が集まり息が上がる。
「し、の…志乃も…っ」
「く…っ」
探るように触れてきた手が張った下腹を包み込み、うっと息が詰まる。前を開いた手が直にそこを握ったことで、自分に余裕などなかったことに気づかされた。
自分の身体もベッドに横たえ、互いの吐息が届くほどの距離で向き合う。
「…ぅ、ん…っ」
竿を握った手を上下に揺すり、反対の指先で先端に触れれば、同じように返ってくる愛撫。尚久のそれを追ってくることもまた愛しくて、零れる吐息を吸い上げながら快感に溺れて行く凍鉉を見つめる。
「あっ、ぅ…見る、な…ぁっ!!」
尚久の視界が闇に閉ざされない限り、瞼を閉じていても見えてしまうらしく、ギュッと身を縮めて少しでも己を隠そうとする凍鉉。
「…っ!!」
緊張した身体から吐き出される白濁を手の平で受け止める。その絶頂時の顔に煽られるように凍鉉の指や腹を汚した尚久は、弛緩と共にゴロリとと仰向けになった。
しばし気だるさに身を委ねていると、そっと腹に触れる手。え、と思っているうちに少し力を失った欲望を掴まれ、パクりと咥えられる。
「ちょっ、んっ! 凍鉉!」
腕を引っ張ってやめさせようにも抵抗が強くて難しい。そっちがその気なら…と、凍鉉の下半身を己の上に乗せる…という相手が一番嫌がる体勢にし、未だ濡れたままであった手の平を、露わにさせた秘部に擦り付ける。と、ビクリとした反応は返ってきたが、嫌がる様子は見せない。その理由の一端を、一度吐き出したはずなのに既にパンパンになった凍鉉のものに見て、クスリと笑む。
「そんなに俺のが欲し、い…っ?」
しかし、その問いかけに声も動きも返って来ない。聞きたい答えを貰えず焦れた尚久は、柔らかくするために揉んでいた指先をツプリと突き刺す。
「っ!」
息を詰め、侵入者を締め付ける凍鉉。収縮する襞の一本一本にまで視線を這わせてその身体をブルリと震えさせてながら根元まで押し込むと、苦しげな声が混ざる。
凍鉉に触れた人物が尚久だけであるならば、実に5年ぶりのことだ。苦痛を与えないために念入りに解してやらなければ、と舌と指を使ってそこを少しずつ緩めているうちに、段々と凍鉉の口淫が弱まっていく。
「ひぁ、あ!」
二本に増やしたそこで、彼が一番乱れた場所を押してやると背が丸まると同時に、尚久の欲望が口から外れる。
「そこ…っん、はっ!」
否応なしに与えられる快感に力が入らず、思い通りにならない身体。立ち上がったそこまで飲み込まれてしまえば、凍鉉はもう、尚久の熱に触れたまま悶えるしかなかった。
再びの絶頂に追い込まれた凍鉉は、尚久の上でくたりとなる。その下から抜け出した尚久は、彼の身体を反転させて膝裏い手を添えて足を開かせる。
「凍鉉」
「…っん、志乃…」
秘所に宛がわれた塊に固くなる身体。それが快楽を与えてくれるものだと知っていても、受け入れるときに訪れる苦痛は消えない。
そんな彼に大丈夫だと告げるように何度か口づけ、詰めてしまった息を吐いた瞬間にグッと押し入る。
「いっ…あ…っ」
苦しげな声に罪悪感を覚えながらも、その行為を止めることはできない。侵入する場所の狭さに眉を寄せつつ、ゆっくりと、そこが緩む瞬間を狙って少しずつ己を埋め込みピタリと隙間なくくっついた。
「んぅ…」
荒い息を繰り返す凍鉉の唇を貪り、すぐにでも抽挿を始めたい気持ちを必死に耐える。その深い深い口づけに彼の身体がとろりと溶けたのを繋がったそこで感じ、耳元で囁く。
「…動くよ?」
返事を聞く余裕は、なかった。
「ひぁ、あ、う…」
「凍鉉…綺麗…っ…」
「やぁ! 見るなぁ…んっ!」
「隠さない、で…っ。見られるの、好きでしょ?」
「あ、っあ、ん、やあぁぁっ!」
目尻から涙を溢れさせながら、必死に縋りついてくる愛しい相手。仰け反る喉に舌を這わせながら問いかける。
「気持ち、いい?」
「いっ…い、いいっ! し、の…」
もう、快感を追うしかできなくなった凍鉉に尚久の視界を遮る余裕はなく。ただ彼の言う通りに繰り返しながら、より強い快楽を得ようと腰を振ることしかできない。
「こんな姿、誰にも見せちゃだめだからね」
小さな小さな呟き。それは、大きな声では言えない尚久の本心。
「志乃…し、のっ!!」
「凍鉉…っ!」
加速度の増す動きに、肌を打ち合わせる音が大きくなる。
「―――…っ!!」
「く…っ」
腹の上に出された白濁に汚れる自分の姿。それに反応を返す余裕もないままに、意識を失う凍鉉。
「おやすみ」
しばし艶かしいその姿を堪能した尚久は、涙に塗れる目尻にそっとキスを落とす。そして自らも寝台に横になると、その身体を優しく抱き締めた。
- continue -
2013-12-12
我が子、凍鉉(いづる)の14話目。一応ひと段落…ですね。
屑深星夜 2013.12.11完成