ノゾミ - 1
おれは、まだ明けきらない空を窓辺で眺めながら、キュッと締めつけられる胸のあたりを右手で掴んだ。
これから自分しようとしていることが原因なのはわかりきっていた。
けれども、それをやめようなんてこれっぽっちも思えなかった。
昨夜、トラップと決めた。
今日 ―― 2月5日、パステルの誕生日に、彼女に告白しようって。
おれが彼女への想いに気がついたのは、サラに婚約解消を伝えられた時だ。
修行の旅に出る前とずい分変わった、と彼女は柔らかに微笑んだ。
おれ自身はそんなに変わった気はしないんだけど、久しぶりに会うと変化がよくわかるのかもしれない。
そんなサラが言ったんだ。
「それほどシーモアを成長させる何かが貴方の傍にあるのね」
――― 何かが傍に…
心の中でその言葉を繰り返したら、フワリと頭に浮かんだもの……。
金色の光にはしばみ色の宝石。
パーティの一員であるパステルの笑顔だった。
きっと、頭で考えてたらいつまでたっても気づけなかったと思う。
けど…おれの心はそれがパステルだってちゃんとわかってたんだ。
思えば、呪われた城の時からパステルはパーティの一員というだけじゃなく、おれにとって大切な人だった。
おれの弱さを受け止めて“そこがいい”と言ってくれた。
おれが変わったって言うなら、はじまりはきっとそこだ。
自分にとってパステルがなくてはならない存在だと気づいてからは、日に日に募るその想いに胸が押しつぶされそうだった。
彼女の笑顔に心射抜かれ、その言葉に湧き出す気持ち。
……もう、抑えられない。
「おれは君が欲しい。おれだけのものになって、傍でいつまでも笑いかけて欲しい。……おれにはパステルが必要なんだ」
朝食を食べ終えてバイトに出て行くキットンとノルを見送った彼女に声をかけ、おれは告げた。
まさかこんなことを言われるとは思ってなかったんだろう。
パステルは零れ落ちそうなほど大きく目を見開いて驚いている。
困らせてごめん、と思いながらおれはじっと待った。
おれの…おれたちの想いに気づいていない君に告白すれば、迷惑をかけるのはわかってた。
本当の家族のように、仲良く…時にはケンカして、あたたかい雰囲気の中で暮らせるのはとても幸せだよ。
家を出てしまえば1人で人生を歩まなければならない。
仲間になっても、そこは家族と共に過ごした時のように無条件で自分を預けられる場所ではないのが普通だろう。
それなのに、第2の故郷ともいえるこのパーティを得られたのは、幸福以外の何でもない。
けど、家族じゃだめなんだ。
それじゃあもう満足できない。
居心地のいい場所を壊してでも、パステルに男として自分を意識して欲しい。
自分だけを見つめて、自分だけに笑いかけて欲しい。
その全てを自分のものにしたい!
……その想いが止められなくなったからこそ、今日、行動を起こしたんだから。
ひたすら見つめ続けていたら、急にパステルの顔が赤く染まった。
「……ご、めん……。クレイがそんな風に思ってくれてたなんて……わたし、全然知らなかった」
それはわかっていたことだったから、おれは軽く横に首を振る。
「いいんだ。家族のように接してくれるのも嬉しかった。ただ、それだけじゃ満足できなくなってしまったんだ……」
「……」
視線を地面に落として困惑した様子の彼女に続けて言う。
「返事は…今日の夜でもいいかな? せっかくの誕生日に悪いなと思うんだけど……」
今日中に返事をもらう。
これもトラップと決めたことだった。
正直に言えば、いい返事がもらえるまでいつまでだって待っていたい。
けれども、おれとトラップ…パーティメンバーである2人から告白された上に無期限じゃあ、パステルを追い詰めるだけになる。
それは、おれたちの本意じゃないから。
焦らせることになるとも思うけど、できるだけ彼女の負担になる時間は少ない方がいいと考えての期限だった。
しばらく黙っていたパステルは、
「…うん、わかった」
視線を上げてそう頷くと、静かに自分の部屋に戻っていったんだ。
next...?
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