ノゾミ - 2
緊張した面持ちで朝飯を食べ終えたクレイがパステルに声をかける。
それを横目でチラ…と見ながら、おれは気づかれないようにテーブルの下で右手を強く握った。
今からクレイがしようとしてることもそうさせる原因の1つだったが、最大の要因は……おれも後で同じことをするからだ。
昨夜、クレイと決めた。
今日 ―― 2月5日、あいつの誕生日に告白するって。
おれがパステルに惚れてるのに気づいたのは……あれだ。
ギアの野郎が現れてからだ。
最初っからいけ好かねぇ奴だったけどよ、パステルにいやに馴れ馴れしいのが鼻についてたまんなかった。
その上、パステルにプロポーズなんかしやがってっ!!
あの野郎がいる間、すんげぇモヤモヤムカムカして、いらん八つ当たりをパステルにしちまったくらいだ。
…で、それが嫉妬からきてるって気づいて、想いを自覚したってわけだ。
ま、思えば、あいつに出会った時からなんか気になる存在ではあったんだよな。
ガキでおっちょこちょいな上、どうしようもねぇくらいの方向音痴。
クレイにも劣らねぇお人好しで……ほっとけねぇんだ。
あいつがおれを見てねぇのはわかってた。
んだから、どんな形でもいいからこっちを見て欲しいって思って、よくからかったりしたもんだ。
でも……もう限界だ。
おれからじゃねぇ。
あいつからおれを見て欲しい。
おれを……仲間以上に想って欲しい!!
「おめぇがおれを男して意識してねぇのは知ってるけどよ、もう、気づくまで待ってらんねぇんだ。おれを……愛してくれっ!」
昼過ぎにクレイがルーミィとシロを連れ出してくれた隙に、自分の部屋で1人になったパステルに言った。
もうどうしていいかわかんねぇんだろう。
不安げに瞳を揺らすパステルにハッとして顔を背ける。
「……悪ぃ。おめぇがこのパーティを壊したくねぇのもわかってるつもりだ。でも、このまんまでいたらおれの方が耐えられなくなりそうでよ」
「……」
目をそらして何も言わないこいつの顔からは、動揺してんのが丸わかり。
ま、同じ日にクレイだけじゃなくおれからも告白されたんだ。
全くもっておれたちの気持ちに気づいてなかったこいつがこうなんのも頷ける。
「…クレイから聞いたか?」
「えっ!?」
ビクッと弾かれるようにしておれを視界に入れたパステルに内心満足する。
パステルはきっと、クレイが自分に告白したことを何でおれが知ってるのか、って驚いたんだろう。
まー、あんな風に言えばおれに告白されたすぐ後だし、誰だってそういう反応するわな。
それがわかっててやる自分も自分なんだけどよ……好きな女の瞳に映りたい気持ちには勝てねぇわけよ。
おれは、パステルが今グルグルと考えてるだろうことにはあえて触れず、確認すべきことを口に出す。
「返事は夜に頼む。どんな答えにしろ、ずっとおめぇとギスギスしたくねぇしな」
肩をすくめて言ったおれを、パステルは目を背けることなくまじまじと見つめてくる。
おれはその視線を真正面から受け止めながら、小さな喜びをかみ締めていた。
今言ったこともクレイが絶対に伝えてることだ。
こいつを口にしたことで、結局はさっきパステルが驚いたことが事実だって知らせることになるだろう。
それは別に問題ねぇ。
おれたちが互いの気持ちを知ってるってことを知らせておくのは、後々、パステルに気を遣わせないためにもいいことだと思うしな。
なら最初から“クレイが告白したことを知ってる”って言えばいいじゃねぇかって?
そこが、惚れた男が考えるちっちぇー企みってわけだ。
少しでも長くこいつに見つめてもらうためだけにああ言ったんだよ。
卑怯なことを…とも思わねーことはねぇが、形振り構ってらんねぇのが恋ってもんだろ?
「……クレイのこと、知ってるの?」
こっちを見たまんま恐る恐る聞くパステルに、軽く笑って見せる。
「おう。おめぇには悪いが今日にしようって2人で決めたんだ」
「そ、そっか……うん、わかった」
ぎこちなくだがつられて微笑んだのをしっかり確認したおれは、じゃあな、と声をかけてパステルの部屋を後にした。
next...?
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