「あああああああ!」
おれは、木の上で頭を抱えながら叫んだ。
何であんなことしちまったのか……。
目に焼きついた泣き顔に、ひたすら後悔するしかねぇ。
……どうしてこうも、自分で自分をコントロールできねぇのか。
口にすんのも恥ずかしいが『恋心』ってやつがそれに絡んでんのは明らかだった。
うちの方向音痴のマッパーのことが気になりだしたのは……いつだったか。はっきり覚えてはねぇんだけどよ。いっつもからかってばっかのおれに向けられた笑顔が原因だろうってことはなんとなく記憶に残ってんだ。
脳に刻まれちまったみてぇに、ふとした瞬間に思い出す笑み。
……その度に胸が高鳴って、思わず舌打ちする。
見たいのは、その顔なんだ。
なのに、素直になれねぇおれは、心とは裏腹のことをしちまう。
怒った顔もいじけた顔も可愛いんだけどよ……それは、見られて嬉しいってよりはやっぱりグサッと刺さるもんもあって。今日の泣き顔はその最たるもんだったぜ……。
はしばみ色の瞳から零れ落ちた雫が頬を伝って落ちる。
嫌にスローに感じたその無音の時間は、ただ呆然とおれをその場に立たせるだけ。そのまま何も言わずに走り去った背を追うことも……できなかった。
……どうしたらいいもんか。
すべきことはわかってても、あいつの前に立つことが怖ぇんだ。素直に頭を下げることができずに、また変なこと言っちまいそうだしな……。
それでも、やっぱ謝るしかねぇって気持ちははっきりしてて。極力しゃべんねぇでも済む方法を取ることにする。
……柄じゃねぇけど、な。
「悪かった」
野に咲く黄色い花を花束にして、そっぽ向くパステルに差し出した。
動く様子のねぇ相手に、すっげぇ居心地は悪かったけど、おれは頭を下げたまま待ってるしかねぇ。
「……もう、しないでよね?」
ポツリ聞こえたその言葉に顔を上げれば、まだ怒ってはいるようだったが、はしばみ色におれが映ってて、ほっとする。
「努力する」
「努力じゃなくて約束!」
右の指先を突き付けられ、言葉が詰まる。自分で自分がコントロールできねぇこの状況じゃ、きっとまた同じことをしちまう可能性があんのが目に見えてたからな。軽々しくは言えねぇだろ?
けどよ。左手で持った花束が大事そうに抱えられてんのを見たら……。
「……わかったよ! すりゃいいんだろ!」
赤面する前にそう言い放って、慌てて背中を向けた。
……だってよ。あの花は、今のおれの精一杯なんだから。
『 あなたをいつも思っています 』
- end -
2015-5-2
我らが盗賊のゴミの日に合わせて。
ふと思いついた冒頭からザーッと書いてみました。
詳しくは全然描けてないですけど…!
こういう日常のワンシーントラパスもあるかもね、って妄想で!!
屑深星夜 2015.5.2完成