これは、ルーミィたちがお月さまにこんぺいとうを渡した少し後の話だ。
“下”にいる誰もが知らないことである。
「ライツったら、またこんぺいとう食べてるのぉ?」
長い金髪に金色の瞳をした10歳くらいの女の子が、銀髪銀目の背の高い男、ライツに話し掛ける。その姿は長椅子に寝転んで、かなりえらそうな態度である。そんな彼女にすました顔で答えるライツ。
「いけませんか? ライズ」
「いけなくはないけど……子どもっぽーい」
ライズと呼ばれた女の子ははたはたと真っ赤な扇子をあおぎつつ、じと目でライツを見る。見られた彼は、白いマントをひるがえしながら叫ぶ。……まるで言い訳のように。
「僕は貴方にあえない間、これを食べていないとどうしようもないんですよ!」
「じゃああたしに会えなくなってから食べればいいじゃない」
「うぅっ…それは……」
「きゃははは!! 冗談よ冗談。いじめがいがあるからライツって好きよ」
……この状態からわかるように、ライツはライズに頭が上がらないのだ。惚れているがゆえに。
“好きよ”と言われたライツは、一瞬にして真っ赤になる。
「ら…ライズっ! 僕をからかわないでくださいっ!!」
「あらぁ? そんなこと言っていいのかなぁ……? 嫌いになちゃうぞ?」
「え、あ…あうぅ……」
“嫌いになる”と言われ、今度は一転して青くなる。これほどわかりやすいのも珍しいだろう。ライズがからかいたくなるのが少し、わかるような気がする。
「あたしが嫌いになったら、ライツ耐えられるのかなぁ?」
「うぅ……」
「だって、ライツってあたしと会えなくなるだけで泣いちゃうんでしょう? 無理よねぇ〜〜」
このように、最終段階まで追い詰められたライツがいつも取る態度は、やはりこれだ。
「あぁぁっ…なんでもするから!ライズ、嫌いにだけはならないでくださいっ!!」
謝る!!
「どおしよっかなぁ〜〜……」
それでもだめなら……
「ライズぅ……」
泣き落とし!! ……っと言っても、嘘泣きではないので要注意だ。彼はいつも本気で泣いている……いや、泣かされている。それほどライズのことが好きなのである。
そして、最後にはライズも折れる。
「もう、そんなに泣かないの! 嫌いにならないから、ね、ライツ」
「……ライズっ!」
「いいこね、ライツ」
よしよしとライツの頭をなでるライズ。年恰好でいけば、まったく反対のような気もするのだが、本当の年齢からすれば……これでいいのである。
そして、いつものように別れの時が来る。
「あ、そろそろ時間ね」
「もうですか?」
「しょうがないでしょ? それがあたしたちなんだから」
寂しそうな顔をするライツに苦笑するライズ。
「でも……」
「明日はもう少し長く会っていられるでしょ? そんなに落ち込まないの」
「……はい」
「じゃあ、またね! ライツ」
「明日必ず」
会える時間が毎日延びていく間は、このような別れが毎日繰り返されるのだった……。
ライツが去った後、いつもライズはこんなことをつぶやいている。
「……ライツって気づいてないからからかいがいがあるのよねぇ〜? 離れられないのはあたしの方なのに、ね♪」
お日さまとお月さま。惹きつ惹かれつ、空に浮かぶ2つの星。まったく正反対の2人は、時には楽しく、また、時には悲しく、時には嬉しく、また、時には寂しく……毎日を過ごしているのだった。
- end -
2013-11-23
番外編で、お日さまも出してみました。
少女と青年の組み合わせです。
屑深星夜 2000.3.27完成(2013.11.16修正)