住宅の並ぶ通り。
ある1軒の家の前に立つクレイがいた。黒いジーンズに水色のジャケットを着た彼は、その家のインターホンを押した。すると、少し年季の入ったような白い壁に茶色い屋根の家から赤茶髪の男が顔を出した。
「よっ、クレイ」
「トラップ。マリーナは?」
クレイは、年下の幼なじみに聞いた。
「まだ奥でバタバタしてんぜ。入って待ってろよ」
「サンキュ」
肩をすくめたトラップに微笑んだクレイは、門扉を開いて家の中へと向かった。
「おじゃまします」
後ろ手にドアを閉め靴を脱ぐ彼の目の端に、ピンク色のシクラメンの鉢が映る。クレイは、小さい頃に毎日のように遊びに来ていたときも、同じようにいろいろな花がかざってあったのを思い出した。
「なんかお前の家に来るの、久々だな」
「そうかぁ?」
首を傾げながら、トラップはふっと笑った。
「ま、ちっちぇえ頃みたいに家で遊ぶことも少なくなったからなぁ〜」
小、中学校ごろまでは互いの家で遊ぶことも多かったが、携帯電話が広まった今、用事はメールでいいし、映画だカラオケだと言っては何かと外に遊びに出かけることが増えたため、家で遊ぶことの方が珍しくなっていたのだった。
トラップについてリビングに入ったクレイは、絨毯の上に腰をおろした。机を挟んでその向かいに座った幼なじみに話しかける。
「部活、頑張ってるみたいだな」
「あぁ。毎日ボロボロになるまでしごかれてるぜ」
「シミター先生、そういうの好きだしなぁ〜」
嫌そうな声を出しつつも満足そうな笑顔のトラップを見てくすくすと笑いがこぼれた。その時、パタパタという足音が近づいてきた。
「クレイ、お待たせ!」
バタンとリビングのドアを開いて艶やかに微笑んだマリーナが顔を出す。普段よりもざっくりと1つにみつ編みした金髪を横に流した彼女は、レースのキャミソールの上に春らしいピンク色のニット、デニムのショートパンツ姿。
クレイは学校では見られない彼女の姿に見とれていた。トラップは、そんなマリーナの変わり様にやにやしながら口を開く。
「今更おしゃれしたって、相手が幼なじみじゃ意味ねーんじゃねーの?」
「幼なじみだからこそ、こんなに成長したのよって見せたいんじゃない。ね、クレイ?」
「え?」
急に名前を呼ばれたクレイは、マリーナの茶色の瞳に見つめられ一瞬焦る。何を聞かれたのか半分も聞いていなかったからだった。だが、ニットとは別の淡いピンク色のバッグを肩からかけて、可愛くポーズをつける恋人の瞳に促されるように、
「あ、あぁ、そうだね」
と、クレイはコクリと頷いた。それに満足したようにマリーナは微笑み、トラップは苦笑して肩を竦める。
「忘れ物はないかい?」
「大丈夫よ」
「じゃあ、行こうか」
クレイは立ち上がり、先に玄関まで歩いていったマリーナを追いかける。その途中で思い出したように止まった彼は、トラップに向かって右手を挙げた。
「またな、トラップ。今度またゆっくり話そう」
「お〜」
ひらひらと手を振り返すトラップを確認したクレイは、今度こそマリーナの後を追った。
「先に食事してその後映画に行く…でいいかい?」
「うん」
門を出たところでこれからの予定を確認したクレイは「行こうか」と言おうとして固まった。どうやら、何かをためらってるようだった。
そんなクレイを首を傾げて見るマリーナは、照れたような彼の視線が自分の左手に向かっているのに気づく。更に、彼の右手が開いたり閉じたりしているのを見つけてピンときたマリーナは、くすっと笑ってクレイの右手を自分の左手で優しく握った。
一瞬、驚いて赤くなったクレイが彼女を見ると、にこりと温かな微笑が返ってくる。
「行きましょ」
「あぁ」
笑みを交わした彼らは、ゆっくりと歩き出した。しっかりとお互いの手を繋ぎながら……。
- end -
2013-11-30
明都様から「ラブラブなクレマリ」とのリクエストいただき、考えた話になります。
どうしてか学園版しか思い浮かばすこのようになりました。
屑深星夜 2006.4.22完成(2013.11.30修正)