白鷺物語 11

11.はじめての一時帰宅


「かっとーばせー! トーラっ!!」
「狙うはホームランだぜ!」
 1番下の弟の声援を受け、拾ってきた新聞紙を丸めて作ったバットらしき物を振り回すのはトラフサギだ。
「「負けるな、ダイ兄っ!」」
「トラ如きにオレの玉が打てるか!?」
 逆に、双子の声援を受けるのはダイサギで、布を丸めて縫って作ったボールをグニグニと握りながらニヤリと笑った。

 振りかぶって第1球目。トラフサギが勢いよく振ったバットは空を切った。
投げられたボールは思いのほかスピードがなく、完全にタイミングをずらされた形だった。
 第2球。今度のボールは超速球!!
待ってましたとばかりに打ち返した玉はダイサギを一瞬にして越え、ポテポテと落ちた先は窓の側。3塁側にいたクロサギが駆け寄って投げる間に、1塁回って…2塁セーフ!

 喜ぶ声と悔しがる声で、広くない家の中は鼓膜が破れんばかり。それに眉をしかめつつもため息を吐くだけのゴイサギは、キッチンで包丁を握っていた。
 どうやら最近の流行りらしく、8人集まったときの遊びは必ず室内野球だった。最初のうちは煩いし、バタバタと走り回るし…で何度も何度もやめるように言い聞かせた。
 しかし一向にやめる気配のない彼らに、彼は諦めるしかなかったのだ。

「こらぁぁぁっ!! おまえたち、部屋の中で暴れるなって何度言ったらわかるんだ!!」

 突然響いた声に、室内は時が止まったかのようにシーンと静まり返った。

 部屋の入口に立って腕組みしていたのは銀色の髪に赤い瞳…。もう、3年近くも会っていない姉 ―― シラサギだった。
 しかし弟たちは、そこにいる彼女が己の幻覚ではないかと一層ジッと見つめることしかできなかった。
 その視線を気にすることなく簡易室内野球場へ真っ直ぐやってきた彼女は、彼らが使っていたホームベースをひょいと持ち上げた。
「布のボールに新聞のバット、雑誌で作ったベースねぇ〜? うまく考えたもんだけど、室内でやることじゃないね」

 バサッ

 言い終わると同時に手から離れた雑誌が音を立てて落ちた。と同時に、やっと部屋の中の時間が動き始める。
「シ、シラサギ!??」
「「ねーちゃん!!」」
「姉ちゃん!?」
「お姉さん!」
「姉さん」
「「シー姉!!!」」
「シー!!」
 バタバタと周囲に集まってくる9人の弟たちに顔を綻ばせた。それにちょっと目を逸らしたゴイサギが、兄弟を代表して1番の疑問を口にする。
「なんで帰って来てんだよ!?」

 卒業するまで帰らない。
 国を変えるまで…帰らない。

 そう言ってたじゃないか、とまでは言わなかったが彼の意図することがわかったのだろう。肩をすくめて制服のポケットから何かを取り出した。
「……これ?」
 それは、5センチほどの直径の丸い小瓶だった。コルクで栓のされた透明なガラスの器の中には、黄、桃、緑など…様々な色の小さな“星”が詰まっていた。
「「わー! 金平糖だ!!」」
「おいしそー!」
 年少組の3人がキラキラと目を輝かせてシラサギに飛びつく。それを抱きとめながらアガミサギの手の中に瓶を渡すと、すぐその場で座り込んで中の金平糖を食べ始めた。
 他の弟たちもその輪に入り込み、順番に瓶を回しながら1つずつ味わう。その顔を見るだけで、シラサギは幸せな気分になっていた。
 ゴイサギは姉と同じようにしばらく8人を見ていたが、まださっきの問いの答えをはっきりもらっていないことに気づいて赤い瞳を向けた。視線に気づいたシラサギは、同じ色の目でチラリと弟を見ると、手を頭の後ろで組んでニッと笑う。
「買ったはいいけど、全部1人で食べるのはもったいないなーって思って」
「…貧乏性…」
「うるさい! ゴイ! そんなこと言うならお前は食べなくていいからね」
 呟きとは反対に嬉しそうな顔をしているゴイサギに声だけ怒らせたシラサギは、彼の腕を引っ張って兄弟たちが作る輪の中に混じったのだった。

- continue -

2013-11-23

縛りSSったー」を使用したシリーズです。

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ryu__raは「ベース」「幻覚」「金平糖」に関わる、「一次創作」のSSを5ツイート以内で書きなさい。
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9.16の診断より。
5ツイート=700文字ですが…文字数は気にしちゃダメです☆

本筋とは外れた話になっていますが、時間軸が戻っていることはないため、冒頭に注意書きは入れませんでした。


屑深星夜 2010.9.17完成