「アキ、起きちゃだめでしょ!? 熱があるんだから!!」
大きな天蓋付きベッドの中央に身体を起こす主の姿にバリニーズは目を見開いた。アキは、駆け寄って自分の肩に前足をかける彼女に弱々しい頬笑みを向ける。
「大丈夫だよ、ミー…そんなに心配しないで」
「心配するわよっ! 39度も熱があるんだもの!」
使い魔の言う通り。高い熱のせいで頬は上気し、目も潤みっぱなし。座っているだけでもどことなくフラフラしているのだが…彼はそれでも立ち上がろうとする。
「でも…僕、学校に行かないと」
「今日はお休みっ!!!」
張り上げられた美しい声が広い広い部屋に響いた。
アキが熱を出している原因は、昨日の湖での魔法実習にあった。
シラサギと共に昼食を食べた彼は、午後から魔法で芸術作品を作る実習を行った。水面を盛り上がらせて作ったキャンパスに波紋で絵を描いていたのだが…あまりに熱中しすぎたアキは、足を踏み外して湖に落ちてしまったのだ。
初夏とはいえ、まだ湖で泳ぐには早い季節。ずぶ濡れになった彼はこうして風邪を引いてしまった…というわけだった。
バリニーズに説得されて大人しくベッドに横になったアキだったが、ガランとした部屋の寂しさに熱のせいでなく震えた。
シラサギとは違い実家から通っている彼は、兄弟の1番下ということもあり家族から注目してもらえなかった。また、使用人も身分の違いから軽々しく声をかけてくることはない。
豪邸の中の大きな自室に1人。アキはそれがとても怖く感じたのだった。
「……シラサギさんに会いたい…」
思い浮かべた人が自分の見舞いになど来るはずがないとわかっていても、アキはそう呟かずにはいられなかった。
- continue -
2013-11-23
「縛りSSったー」を使用したシリーズです。
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ryu__raは「見舞い」「秋」「水面」に関わる、「一次創作」のSSを5ツイート以内で書きなさい。
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5ツイート=700文字で挑戦しました。
スペース含んで698文字! 短いですが、内容も満足できた話です。
屑深星夜 2010.7.1完成