白鷺物語 7

7.休日の約束


「アキ君、待ちたまえ!!! 君のご両親はそれを承知しているのか!?」
 扉に手をかけたとき、驚いた表情の男がアキの背中に声をかけた。
 豪奢なレースのカーテンが開いた窓から入ってくる風にあおられてふわりと揺れる。
 大理石の床にクリスタルで作られたテーブル、クッションのよくきいたソファが置かれ、何百年も前の物と思われる数々の銃剣が壁に飾られたこの部屋は、ここ2年、定期的に通い続けたものの、最後までアキには馴染めない場所であった。
 柔らかい笑みを浮かべている彼は、光を称える瞳を中年の男に向けて言う。
「はい。だから僕はもう、あの家の人間ではありませんから…」
「そんな…」
「そちらにはご迷惑おかけいたしますが、よろしくお願いします」
 言葉を失った男に丁寧にお辞儀をしたアキは、今度こそ部屋を出て行った。


 赤い絨毯が引かれた廊下を歩き続け、やっと玄関ホールまでたどり着いたアキを待っていたのは、7歳の少女トルテだった。
「アキ」
「…トルテ…」
 家族にでも向けるような目をした彼に、トルテはスッと小指を立てた右手を上げて見せる。
「約束」
 それは、彼と婚約して以来、ずっと繰り返されてきた儀式。アキと次に会う約束をするために、言葉少ないトルテが用いた唯一の方法だった。
 そんな彼女に困った表情を見せたアキは、差し出された手を優しく下ろさせながら告げるのだ。
「…ごめん、もう指切りはできないよ」
「? どうして?」
「僕はもう、ここには来ないから」
「!」
 真っ直ぐな真っ直ぐな視線に射ぬかれて衝撃の事実を聞かされたトルテは、目を見開いただけで何も言うことができなかった。
「ごめんね、トルテ」
 そんな彼女に深く深く頭を下げたアキは、
「さようなら」
別れの言葉と共に笑顔を残して去っていったのだった。
「……ア、キ…?」
 ガランとした広い玄関ホールに1人残されたトルテは、強張った顔で閉まった扉を見つめ続け、己を探しに来たタートに見つけられるまで、ほんの少しも動くことができなかった。

- continue -

2013-11-23

縛りSSったー」を使用したシリーズです。

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ryu__raは「銃剣」「指切り」「さようなら」に関わる、「一次創作」のSSを6ツイート以内で書きなさい。
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6ツイート=840文字で挑戦し、828文字で書きあげることができました。


屑深星夜 2010.8.5完成