お茶会を終え、森の中の小屋を出たのはお昼前のこと。
案内を約束した庵が凍鉉を連れてきたのは、薫の元だった。
「邪魔しますよ?」
顔を覗かせた室内には血の匂いが充満している。白衣の前を血に染めた薫は、ベッドの上で寝ている男 ―― サンに包帯を巻いているところだった。
「庵か。久しぶりじゃねーか」
「お? ほんと久しぶりだなぁ〜」
「来ていたんですか」
「あぁ、久々に死にかけちまってな」
ハハハと笑う彼の様子からはとてもそうは思えないのだが、手だけでなく足にも巻かれている包帯。そして、全身に無数散った小さな傷と、火傷のように爛れた肌……。満身創痍である。
「後にした方がいいですか?」
「いや、もう終わる」
言いながらわざと包帯を強く結べば、サンの顔が苦痛に歪む。
「痛って! ボウズ! お前もうちょっと優しくしろ!」
「自分で傷つけといて何言ってやがる」
「仕方ねぇだろ、仕事だったんだから……」
言い訳しても許さないとでも言うように一瞥した薫は、クルリと振り向き肩を竦める。
「どーした?」
「彼が人を探しているのですが……」
チラリと己を見るその気配をしっかりと察知した凍鉉は、1歩前に出ると、先ほど庵たちの前で作ったのと同じ像を作り出す。
「この男を知らないか?」
薫の背後から、唯一自由になる顔を動かしたサンもそれを見る。しかし、思い当たる人物はいないようで……。
「記憶にねぇな」
「お前には聞いてねーだろ」
「別にいいだろうが。人探しならいろんなやつに聞いた方がいいんだからよ」
確かにサンの言う通りではあるのだが、虫の居所の悪い薫は、僅かに浮いたサンの頭を上から押さえつける。
「絶対安静っ!!」
「い…っ!?」
太陽光によって焼けた肌を態と触ってやったのだ。無言で痛みに耐える様子など気にもしない薫は、凍鉉に向き直ると「会った覚えがねーわ」と首を振った。
「そうか……」
表情はほとんど変わりない。しかし、肩を落としたその呟きに薫のお節介心が疼く。
「そんなに探し出したいやつなのか?」
「……わからない。ただ、どうしても気になるのだ」
理由が掴めないからこそ気になるのかもしれないが、凍鉉自身にもどうしてこんなにもこの氷像の男に会いたいと思うのかはわからなかった。その顔が切なげに歪んだように見えた薫は、庵に視線をやる。
「あいつに会わせてみればいいんじゃねーか?」
「あの人ですか」
「こういう時に役に立つんじゃねーのか?」
「そうですね……」
あいつ ―― あの人、がどんな人物なのか凍弦には全くわからない。故に、彼は2人の会話をただただ聞いているしかなかった。
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2013-12-12
我が子、凍鉉(いづる)の7話目。
屑深星夜 2013.12.7完成